第55話
「ごめんなさいっ! あなたを信じてあげられなくて……ごめんなさい……」
最後にタブレットを見た母親が泣き崩れた。
「沙也加さんから、叶和のことで大切な話があると連絡をもらって、私は今更どんな顔をして会いに来るつもりなのかと思ったの。家族をめちゃくちゃにするような息子に育ててしまった自分を責めてきたのに、その傷口にまた塩を塗りに来るんだと思うと受け入れられなかった……」
泣いたからといって許せなかった。
わたしが怒るのは間違っているのかもしれない。
でも、叶和が母親を責めないことが、父親や兄を責めないでいることがくやしかった。
「どうして、叶和の話を聞こうともしなかったんですか? 信じてあげなかったんですか?」
母親は、何も言わずにうな垂れたままでいる父親の方をちらりと見て言った。
「私は……後妻だったから。叶和を連れて、この人と再婚して……血のつながらない叶和を、主人も圭一さんも本当の兄弟のように大切にしてくれていたから……だから……瑤子さんにひどいことをした息子を……許すことはできなくて……」
母親の言葉に、「どうして?」としか思えなかった。
どうして実の母親が信じてあげなかったの? 話を聞こうとしなかったの?
父親もお兄さんも、叶和とは血が繋がっていなかったからって、10年近くも家族として過ごしてきたのに、最初から叶和のことを疑うことしかしなかったなんて……
叶和の母親に言わずにはいられなかった。
「わたしは、世界中の人が敵になっても、絶対に叶和の味方でいます」
ずっと黙っていた叶和が口を開いた。
「昔のこと今更言っても仕方がないって思ってる。本当のこと、わかってもらえたらそれでいい。もうここへ帰るつもりはないから」
「……叶和……」
「育ててくれてありがとう。ちゃんとお別れが言えて良かった。さよなら」
叶和は立ち上がると、わたしに「帰ろう」と言ってリビングを出た。
「叶和! すまなかった」
父親の謝罪の声に一瞬立ち止まったけれど、叶和は振り返りもせず、玄関へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます