第2話
電車から降りたら、途端に頬へ冷たい風を受けた。
吐く息も白い。
子供の頃、こんな日は、タバコの形をしたお菓子を人差し指と中指の間で挟むように持って、ふぅっと白い息を吐いて、父がタバコを吸うマネをしていたことを唐突に思い出した。
ハッカの味が苦手だったのに、冬に駄菓子屋へ行くとそのお菓子をいつも買っていた。
父を……失ってもう随分経つ。
今はもう、そんな真似事なんてしなくても、十分タバコを吸える年になってしまった。
それにしても今日は散々な日だった。
午後になって、会社が入居しているビルのスプリンクラーが誤作動を起こし、社内のPCが全て水を被った。
幸い、中のデータは何重にもバックアップがとられていたため無傷だったけれど、早急に代替えのPCが必要となり、その手配に追われた。
明日には通常業務に戻れるように手はずを整えていたら、会社を出るのが随分と遅い時間になってしまった。
終電には乗ることができたものの、マンションの最寄駅に着いた時には日付が変わっていた。
早く家へ帰って、温かいお風呂に浸かって、暖まった部屋でゆったりとしたい。
でも、その前に今日はケーキを買って帰りたい。
こんな時間に開いている店なんてコンビニくらいしかないけれど、ありがたいことにコンビニにはケーキも売っている。
駅前のコンビニは、余裕で深夜0時をまわっているにも関わらず、店内には数人のスーツを着た客がいて、お弁当コーナーの前に立っていた。
そう言えば夜ご飯を食べていない。
夕方、デスクの引き出しにストックしておいた栄養補助食品を食べたきり。
目の前にいる男性はカツ丼と牛丼で迷っているらしく、代わる代わる手に取っていた。
でもわたしは疲れていてそこまで食べる気にはなれない。
デザートコーナーへ行くとケーキはもう売り切れで、シュークリームと焼きプリンしか残っていなかった。
クリームのいっぱい入ったシュークリームは苦手だから、選択肢は一つに絞られる。
結局、焼きプリンとサンドイッチを買って店を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます