第5話
片手で男の子を支えながら玄関のドアを開け、中に入ると同時に2人してその場へ倒れ込んだ。
でも、家の中ならまだなんとかなる。
履いていたスニーカーを脱がせ、フローリングの廊下を半ばひきずるようにして、リビングまで運んだ。
どこもかしこも冷たい。
エアコンを最強にして、寝室から毛布を持って来ると、その場に座らせて、抱きかかえるように一緒に包まった。
本当はソファの上に座らせたかったけれど仕方がない。
「死んだらだめだからね」
そんなことを何度も言った。
どのくらい時間が経ったのか、腕を掴まれた感触ではっとした。
それで自分が座ったままいつの間にか眠っていたことに気が付いた。
「起きてたの?」
「わりと……前から」
「ごめん」
毛布を男の子の背中にかけ、向かい合うように座りなおした。
見つけた時は真っ白だった頬に色が戻っている。
シルバーアッシュの髪の毛が目元を隠していたけれど、熱がないか確かめるため額に手をあてると、切長の目がこちらをじっと見つめていて、どきりとする。
「熱は、ないみたいだね」
動揺していることを悟られたくなくて、立ち上がろうとしたところを、手首を掴まれひっぱられた。
思いの外強い力で抱きしめられたかと思うと、すぐに力を緩められた。
その隙にからだを離そうとした瞬間、キスをされそうになり、あわてて男の子の口元を手で押さえた。
「なんで?」
手の隙間から漏れ聞こえた言葉の意味が理解できなかった。
なんでって?
それ、わたしが聞きたい。
「知らない相手といきなりキスとかないから」
「ないんだ……」
「ないから!」
男の子は不思議そうな表情を見せながらも、わたしを掴んでいた手を離した。
「何か温かいものでも飲む?」
自分を落ち着かせよるかのように、ごく当たり前のことを口にする。
普通に、家に遊びに来た友達に言うみたいに。
「……お腹……すいた」
「食べるものあげるから手を洗おう」
「わかった」
素直。
一緒に洗面所へ行って手を洗った。
「名前教えて」
「
「名字は?」
「百瀬」
「百瀬くんは何歳?」
「叶和でいい」
「……叶和……は、何歳?」
「24」
「24っ?」
「男の子」と勝手に思ってたけど、わたしが25……じゃなくて26だから、2つ下。
そう言われたら、「男の子」というほど幼くは……ない?
冷蔵庫の中のミルクをマグに入れてレンジで温め、さっきコンビニで買ったサンドイッチと一緒にソファの前のローテーブルの上に置いた。
叶和はホットミルクを数口飲んでから、三角形のサンドイッチの封をぺりぺりと開け、2種類あるうちの、ハムサンドの方を食べ始めた。
やばいものを拾ってしまった……
未成年じゃないから、家出だとしても警察は動かない。
だったら、どこへ届けたらいいんだろう?
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