第4話

走ってゴミ捨て場へ戻ると、さっき見たままの状態で男の子は横たわっていた。



生きてる……よね?



前にしゃがんで、そっと頬にふれると、冷たい感触が手に伝わってくる。



嘘でしょ……



その時、男の子の閉じていた目がゆっくりと開いた。



良かった! 生きてた!



「こんなとこにいたら死んじゃうから!」



男の子はわたしの言葉なんて耳に届いてないのか、何も言わないまま、一度は開けた目を再び閉じてしまった。



「起きて! 起きなさいっ!」



腕を持って立たせようとしたけれど、重くてどうにもならない。

もう一度前にしゃがんで体を揺すった。



「お願い! 立って! ほんの少しでいいから歩いて!」



男の子の手がゆっくりと動いて、指先がわたしの頬にふれた。



氷のように冷たい手。



いつの間にか雪の粒は大きくなっていて、段ボールに薄く積もっている。


わたしの頬にふれている男の子の指先を精一杯包んだ。



「立って! 死んだりしたら許さないから!」



今度はわたしの声に反応して、男の子はかすかに口角を上げた。



「……生きてて……いい?」


「いいに決まってるでしょ! 立って!」



男の子がよろよろしながらなんとか立ち上がったので、支えながらマンションへ向かった。



「がんばって歩いて。すぐそこだから」




頭の中に110番するとか、救急車を呼ぶとか、そんな発想も浮かばなかった。


ただ、自分の目の前で勝手に死ぬなんて許せないと思っただけ。

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