第25話

リビングに入ってすぐに目に止まったのは、テーブルの上に置かれたままの鍵。



「鍵、持って出なかったの?」


「うん」


「どうして?」


「沙也加がいない間、家にオレだけいるの嫌かと思ったから」


「……いつからあそこにいたの?」


「覚えてない。さっき言い忘れてた。ペペロンチーノも作れる」


「今日、何してたの?」


「さっきも言ったよ? 沙也加が貸してくれた物を店に取りに行って……」


「その後!」


「……ネカフェで時間潰して……駅で沙也加を待ってた」



「偶然」って言ったくせに。

いつからあそこに立ってたの……



「夜ご飯作るの頼んでもいい? 冷凍庫にひき肉があるし、冷蔵庫にはソーセジもあると思う。どこかの棚にパスタも買い置きがあるから」


「うん?」


「……体、痛い?」


「大丈夫。今日一日普通に動いてたし」


「ごめんね。急いでやることがあるから」



そこまで言って、重いものはまだ持つのに痛いかもしれないと思い、フライパンとお湯の入ったお鍋をコンロに置いておいた。




中古で買ったマンションは2LDKで、6畳の部屋の一つは寝室に使っていた。もう一つある6畳の部屋はほとんど使っていなかったので、少し物を置いているだけだった。

元々は和室だったので、カーペットを敷いたその部屋なら、ベッドがなくても眠れるはず。

布団が届いたら、その部屋にあったものを寝室に移動させて、掃除機をかけるつもりでいた。

昨日のうちにやっておくべきだったと後悔しながら、急いで片づけて、掃除機をかけた。


ちょうど掃除機を終えたところで、叶和が顔を覗かせた。



「あとパスタ茹でるだけだけど?」


「こっちもなんとか」


「何やってたの?」


「使ってない方の部屋片付けてた。叶和の部屋だよ。後は布団が来るの待つだけ。不在票が入ってなかったから今から届くと思う。もう夜だから干したりできないけど、気にならなければ使えるよ」


「オレの?」


「そう。ベッドじゃないけど眠れる?」


「……どこでも眠れる」


「ここが、叶和の家になるんだよ」



わたしの言葉に叶和が泣きそうな顔をした。でもこれは、嬉しくて泣きそうになっている顔。

ほんの少ししか一緒にいないけれどわかる。



「電話番号聞いてもいい?」


「沙也加のも教えて」



叶和の3件しか登録されていないスマホの電話帳に、新しくわたしの名前が加わった。

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