第60話 1年目の今日
寒い。
今日は朝から小雪が舞っていたけれど、夕方になるにつれ、この冬一番じゃないかと思えるほど更に冷え込んできた。
駅の改札をぬけると、毎日目にする顔がそこにあった。
「お帰り」
「叶和、いつからそこにいたの?」
駆け寄って、両手で頬を包むと冷たくなっている。
「かぜひくよ? 急いで帰ろう」
「これ」
叶和が持ち上げたビニール袋には、コンビニのサンドイッチと焼きプリンが透けて見える。
「やっぱりこれでしょ?」
「いいけどね」
当たり前のように手をつないで、寄り添って歩く。
ゴミ捨て場の所まで来て、一度立ち止まった。
今日はあの日とは曜日が違うから、何も捨てられていない。
ちょうど、去年の今日、このゴミ捨て場で男の子を拾った。
最初は24歳だと言われ、次に会った時は27歳だと聞いた。
彼の名前は百瀬叶和。
出会った頃は、まだ17歳だった。
「何?」
「何でもない。この1年でいろんなことあったなぁ、って思っただけ」
マンションのエレベーターは、たった今行ってしまったばかりのようで、当分降りて来そうにない。
叶和はわたしの腰に手を回すとキスをしようとしてきた。
それを押しのけてから言った。
「誰か来たらどーするの?」
「誰も来ないよ。多分。それに誰か来てもいいし」
「よくないっ!」
もう一度キスをされそうになって、それを阻止しようとじたばたやっていると、エレベーターのドアが開いた。
中から夫婦と思われる2人が出て来て、「こんばんは」とお互いに挨拶を交わした。
「ほらっ」と小声で言って、叶和をこずいてからエレベーターに乗った。
ドアが閉まると同時に――
今度はわたしから叶和にキスをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます