第51話 向き合うために
そんなことって……ある?
でも、叶和の表情から嘘じゃないってわかる。
めずらしく饒舌なことにも驚いていると、それを察したのか、叶和が言った。
「オレ、別に無口なわけじゃないよ。柊二さんに、しゃべったら年がバレるぞ、って言われて、しゃべんないようにしてただけだから」
ぼろぼろと涙が出てとまらなくなった。
「どうして沙也加が泣くの?」
「いろんなこと、くやしいから。叶和が疑われたことも、誰も叶和のことを信じる人がいなかったことも、くやしい」
「それからすぐに家を出たんだ」
「……ご両親は……叶和のこと探さなかったの? 家出した時17だったら捜索願が出てたんじゃないの?」
叶和は首を振った。
「一度だけ、旅行で来てたらしい同級生にこっちでバッタリ会って、その時――」
*****
『おーーーっ! 百瀬じゃん」! 久しぶり!』
『久しぶり』
『日本に帰って来てたんだ!』
『日本?』
『お前が急に留学決めて海外行ったって聞いた時はびっくりしたよ。そんなこと一言も言ってなかったじゃん』
『それ、誰から聞いた?』
『ん? 担任から。親父さんが学校に退学届け持って来た時にそう言ったって聞いたけど?』
「そっか』
『向こうの生活はどうよ? って、ここで会うってことはもう帰って来たってこと?』
『まぁ、そんなとこ』
『家に帰んないの?』
『こっちの方が、いろいろ遊ぶとこも多いし』
『あー、だな。田舎は何もないからなぁ』
『ごめん、オレ今から人と会うから』
『そっか。地元に帰った時は連絡しろよ! またみんなで集まろうぜ!』
*****
「同級生がいなくなるのをずっと見てた。親父はオレのことをいないことにしたんだって、その時わかった」
「お母さんは?」
「これ以上迷惑をかけるわけにはいかなかったから……オレのせいできっと今も肩身が狭い思いをしてる」
「でも……」
「オレは、父親に二度捨てられた」
「二度?」
「一度目はオレがまだ小さい頃。実の父親はオレと母親を捨てて出て行った。それからオレが小学生の時に母親が再婚して、連れ子同士の再婚だったから、兄貴ができた。父親は実の子みたいにかわいがってくれて、兄貴にもすごく優しくしてもらった。でも、オレはそんな2人から大切な人を奪った。だから捨てられて当然なんだ」
どうして?
とうして叶和だけが全てを背負うの?
大人のフリをして、たったひとりで、自分だけを責め続けながら過ごしてきたことを思うと、苦しくなる。
不良だったわけでもない、ほんの少し前まで普通に暮らしてきた17歳の高校生が、仲の良かった友達とも連絡を取ることなく、何も持たずにいきなり知らない場所で生きて行こうとするなんて無茶すぎる。
悪いのは、全部、瑤子さんを騙したやつなのに。
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