第52話

「最初は漫喫に泊まったり、夜は24時間営業の店で過ごして、昼間公園で寝たりしてた。これからどうしようかと思っていたら女の人が拾ってくれた。言うことを聞いたら、ご飯を食べさせてくれて、家にも置いてあげると言われた。でも、しばらくしたら『飽きた』って追い出されて、それからは、また拾ってくれる人を探して……それを繰り返してた」


「生きていくために、だったんだね……」


「生きたかったわけじゃない。死んで楽なんかしちゃいけないんだ、って思ってきただけ。オレは、もっともっと、苦しまないといけないから。自分が一番最低だと思うことをして、生き続けようと思った。それが人を殺した罰」


「家族に、言うべきだよ」


「真実を知らない方がいい」


「本当にそう思うの?」


「兄貴はオレとは話さない。それに親父も。顔なんて見たくもないはず」


「目をそらしても、そらしたいものは目の前からなくならないって、昔言われたことがある」


「何それ?」


「瑤子さんはもうこの世にはいないけれど、叶和はまだ生きてるし、家族だってまだ生きてるんだよ? もう家族のいないわたしとは違う。だから、本当のことを伝えに行こうよ?」


「もういいんだ」


「わたしが嫌。叶和が誤解されたままでいるのはくやしい」


「沙也加が嫌って……」


「瑤子さんの死は事故だよ。叶和が自分を責め続ける姿を見たくない」


「沙也加の父親とは違うよ。瑤子さんはオレが追いつめたから……」


「そんなの、わかんないでしょ!」


「怒ってるの?」


「怒ってる。いろんな理不尽なことにね」



叶和の目からこぼれ落ちる涙を、指先でぬぐった。



「すぐ泣く。叶和は泣き虫だよね」


「うるさい。先に泣いたのはそっちだろ?」


「実家に言って本当こと話そうよ。忘れないで。何があっても叶和にはわたしがいる」


「……う……ん……」


「実家にはどうやっていけばいいのか教えて」


「新幹線――」




叶和の気が変わらないうちに、週末の新幹線のシートをその場で予約した。



ようやくわかった。

叶和のスマホの待受になっている写真が何なのかを。

瑤子さんがホテルに連れ込まれた時の写真だったんだ。

自分をずっと許せなくて、忘れないために、わざわざあの写真を待受に選んだんだ……



初めて叶和が家に来た日、わたしがスマホを乾燥機にかけてしまって、壊してしまった。

それで叶和はスマホを捨てることができたのに、それを直してしまった。


スマホを返した時の、叶和の泣きそうな顔の理由、あれは、過去を忘れることは許されないんだというあきらめだった。




わたしが叶和のためにできることは何?

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