第30話

マンションにある叶和のものなんて全部捨ててしまおう。


何もかもなかったことみたいに、きれいさっぱり。




家に帰るとすぐに45Lのビニール袋に叶和のものを片っ端から入れていった。


……もっと……たくさんあるかと思ったのに、ビニール袋に2つ分にもならなかった。


何を見ていたのかな?

何も見えてなかったみたい。

きっと、荷物を増やさないようにしてたんだ……


出て行くつもりならほんの少しの荷物でも、持って出れば良かったのに。

こんなふうだから、叶和の荷物は少ないままなんだ。


ドアの近くにビニール袋を置いたままリビングに戻ると、いつもと変わらない部屋のはずなのに、どこか静かに思えた。


家の鍵……返してもらわないと……


かけることなんてないと思っていたのに。

FILOUのもうひとりのバーテンダー、佐野柊二に電話した。



「芦屋です」


「ん? ああ……」


「叶和が……唯可さんのところに戻りました」


「うん」


「うちに少しだけある荷物は処分しますけど、叶和に渡していた合鍵だけ返してもらいたいんです」


「それ、なんで俺に言うの?」


「他に知ってる人がいないから」


「本人に直接言えよ」


「会いたくないから」


「ふうん」


「お願いします」


「土曜の15時に、前に会ったカフェ」


「ごめんなさい」


「じゃあ」



電話を切って、しばらく何もするわけでもなくその場に座ったままでいた。

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