第45話 叶和 --side--
2時を過ぎた頃、母親がパートに出るのを確認して、家の中に瑤子さんがひとりきりになってから声をかけた。
兄貴と瑤子さんの間には1歳の周一という子供がいるけれど、この時間なら昼寝をしている。
「周一は?」
「お昼寝してる。叶和くん今まで寝てたの? お昼作ろうか?」
「昨日、瑤子さんを見ました」
「どこで?」
「扇町のホテルに入りましたよね? 年配の男と」
「……見間違いよ」
「これでもそう言えますか?」
スマホで撮った写真を見せた。
「……消して」
瑤子さんは小さな声で言った。
「こいつ誰なんですか? 浮気してること知ったら兄貴がどんなに悲しむか……」
「う……わき? そう……だよね……」
「どう見たって、あれは浮気でしょう?」
「そう……なる……よね……」
瑤子さんはぽろぽろと泣き始めた。
「泣くくらいなら最初からこんなことしなければいいじゃないですか」
「違……違……う……わたしだって……あんなこと……」
泣きながら、瑤子さんは自分のスマホをオレに差し出した。
スマホには、兄貴のサインが入った請求書と並べて同じ請求書と見られる物が映った写真が何枚もあった。
「これが何なんですか?」
「架空請求って。圭一さんが改竄する前のものと、改竄した後のものって」
「どういうことですか?」
「圭一さんの、上司の依方さんって人から電話があって、圭一さんが会社で不正を行ってるって。今はまだ公になってないけど、時間の問題だって」
「本当に兄貴の会社にそんなやついるんですか?」
「それは、年賀状で調べた。ちゃんと依方さんって人はいた」
「でも、兄貴が不正とか信じられない。あんな真面目を絵に描いたようなやつが」
「わたしだって信じられなかったけど、証拠を見せられたら……今ならなんとかもみ消すことができるから……その代わり……って……監査が入って、圭一さんは犯罪者として捕まってしまうと思ったら……」
「兄貴がそんなことするわけない」
「でも……」
「絶対に兄貴はそんなことしない! とにかく、この送られてきた写真、兄貴に見せて確認とるから! その写真、転送してください。オレに送られてきたことにして兄貴に聞きます」
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