第33話

唯可は、高部唯可という名前だった。

彼女は高校生の頃から派手に遊んでいて、柊二の言っていた「ヤバいツレ」というのは、お金で言うことを聞くような連中で、「友達」というわけではないと教えてもらった。

彼女の表の顔は、普通のOL。

父親のコネで入社したため、どうやら会社では随分大人しくしているらしい。


勤務先のビルの前でずっと待っていると、定時を少し過ぎた時間に、他の女性社員と談笑しながらエントランスを出て来た。


しばらく後ろをつけていると、やがて同僚らしき女性達とは別れて、繁華街の方へ向かって行った。

そして、百貨店の前に着くと時計を気にし始めた。


やがて、一人の男性が現れると、2人は連れ立って歩き始めた。



誰なんだろう?



見つからないように、距離をとって後をつけているから会話までは聞こえない。


そのままついて行くと、2人がレストランに入ろうとしたところで、前から歩いて来た男性が話しかけてきた。

どうやら3人は知り合いのようで、少し話をすると唯可たちは店に入り、男性とは別れた。

それで、今度はその男性を追った。



男性が地下鉄に向かう階段を下りて行こうとしたところで、わざとらしくぶつかった。



「ごめんなさい! 慌ててたからこけそうになってしまって」


「いえ、大丈夫ですか?」


「はい。あ、もしかして……」


「はい?」


「さっき唯可さんとお話されてた方じゃないですか?」


「高部さんの知り合い?」


「そうなんです。行きつけのお店が一緒で話すようになって。お噂は聞いたことあったんですけど、さっき唯可さんのお相手の方、初めて見ました。素敵な方ですね」


「ああ、土屋のこと?」


「はい。仲がいいみたいでうらやましいです。わたしなんて予定もなくて今から帰るだけなんですよ」


「僕も同じようなもんだよ」


「……良かったら一緒に食事とか……なんて、ご迷惑ですよね……いきなりこんなこと……」


「いいよ。行く?」


「ぜひ、唯可さんと土屋さんのお話も聞かせてください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る