第39話 バレンタイン

叶和のバイトは夜からだから、いつも始発で帰って来る。

帰って来たら1番にお風呂に向かって、その後一緒に朝ご飯を食べる。その後わたしは会社に行き、叶和は夕方まで寝ている。


他人から見たらすれ違ってる生活かもしれないけれど、なぜかそんな気がしない。


朝起きて、お互いの顔を見ながら「おはよう」を言えるだけで十分。




「おはよう」


「わざわざ起きて来なくていいのに。昨日は何時に帰ったの?」


「昨日っていうか、今朝だけど、5時。それでお風呂入って仮眠してた」



今が6時すぎだから、30分も寝てないことになる。



「寝てなよ」


「朝しかちゃんと顔見て話せないから。明日はバレンタインだから、柊二さんがチョコのカクテルを出すって、練習させられた。沙也加来る?」


「行かない」



だって女の子がハートの目をして叶和に注文するのを見なくちゃいけなくなるから。



「前から思ってたんだけど、叶和はお酒飲まないよね」


「飲まない」


「でもカクテルの味見くらいはしてるんでしょ?」


「してない」


「飲んだことはあるんだよね?」


「ない」


「えっと……じゃあ、味わかんないで作ってるの?」


「そういうことになるね」


「それ、大丈夫なの?」


「柊二さんが、『分量と作り方間違えなきゃ同じ味だ』って。『少しくらい味が微妙でも笑ってごまかせばなんとかなる』って」


「それ聞いたらますます行きたくないなぁ」


「チョコのカクテル飲みたくない?」


「絶対飲まない」


「海外だと男の方がプレゼント贈るらしいけど、何か欲しいものは?」


「何もないよ」


「じゃあ、お願いごととか」


「ベランダの電球変えて欲しい。滅多に出ないから切れてても困ってはいなかったんだけど、変えてもらえるなら嬉しい」


「そういう感じ?」


「そうやって聞いてくるってことは、わたしに何か期待してる?」


「してる」


「何か欲しいものがあるの?」


「塩買って来て」


「そっち?」


「沙也加の会社の近所の店でしか売ってないんでしょ?」


「そうなんだよね。ネットでも売ってないから」


「それ欲しい」


「わかった。じゃあ、リボンかけてテーブルに置いとくね」


「そうして」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る