第58話 それから
それから数日が経って、叶和の家族から会いたいと言われ、ホテルで食事をした。
わだかまりが無くなったわけじゃない。
それでも、少しだけ、分厚くて冷たい氷が溶けた気がする。
家を出る時に持って出た、叶和のスマホがずっと使えていた理由もわかった。
叶和の母親が、父親に内緒で料金を支払い続けていたから。
同時にそれが、スマホを持っているのに叶和が使わない理由でもあった。
母親名義のスマホだったから、通話や通信先の明細を取り寄せされないため。
だから「電話帳」でしかなかった。
母親にとっては唯一の繋がりだった。
叶和にもし何かあったら、スマホを辿って連絡が入ると考えたのかもしれない……
お兄さんが仕事でこっちに来た時には、2人で会ったようだった。
何を話したのかは聞かなかった。
何もなかった頃の様にはいかないけれど、「兄貴に会って来た」とわたしに教えてくれた時の表情は明るかった。
今の叶和は自分名義の新しいスマホを持っている。
電話帳の中には実家の電話番号も登録されていて、お兄さんにメッセージグループも作らされたらしい。
ゲームもいくつかインストールされている。
そして、高校の卒業資格を取るために、春から定時制の高校へ通い始めた。
援助したいという両親の申し出を断って、バイトを掛け持ちして頑張っている。
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