第35話

「具体的に言ってもらえないと全然わからない」


「頭悪いね。目障りだから死ねって言ってんのよ、オバサン!」


「脅迫?」


「命令」


「ありがとう」


「は?」


「今の、録音した。脅迫罪で訴える」



唯可はいきなり近づいてくると、わたしに平手打ちをした。



「ふざけんな!」


「暴力罪も追加できる」


「黙れ!」



唯可は、わたしのカバンをひったくると中身を地面にぶちまけた。

そこに探しているものがなかったらしく、いきなり飛びかかって来ると、わたしを押し倒して馬乗りになった。

そして、じっとしているわたしのコートのポケットからスマホを取ると、立ち上がり、地面に向かって力いっぱい投げつけた。

そうしておいてヒールで思いっきり踏んだ。



「窃盗に器物破損も追加。わたしは手を出していない」


「もう証拠がない」


「あるよ。スマホを壊されても、録音しながら音声データはクラウドにあがるようにしておいたから。それに今、あなたがしたことも隠しカメラに撮ってる。捕まったらきっと余罪も暴かれるね。人を使って叶和を襲わせたことも明るみに出る。襲ったやつらもまとめて捕まる。会社の子や土屋さんはどう思うのかな? コネ入社だよね? お父さんの信用もなくなるね」



ヒクっと唯可の頬がひきつった。



「あなたより年取ってる分、知恵がまわるの。選んでよ。犯罪者の未来か今まで通りの生活か」


「……何が……望みよ……」


「もう叶和には手を出さないで。もちろんわたしにも。二度と関わらないで。データは消さない。もし、力づくで手に入れようとしたら、すぐに警察に持ち込む。わたしに何かあっても警察に届くようになってる。こんなのドラマだけの世界だと思ったら大間違いだからね。ネット社会は怖いの」


「……二度とあんた達には近づない。それでいいんでしょ……」


「ありがとう。さようなら」



カバンの中身をゆっくりと拾って、その場に唯可を残したまま大通りに向かった。

余裕のあるフリを続けていたけれど、話してる間中、ポケットに入れていた手がぶるぶる震えていた。

自分にこんな真似が出来るなんて思ってもいなかった。


いつも仕事でバックアップは何重にもとるように言われてたから、スマホのデータは本当に録音と同時にクラウドへ送信していたけれど、隠しカメラははったりでしかなかった。



唯可はちゃんと約束を守るだろうか?

わたしのしたことで事態が悪化なんてことになりませんように……

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