第19話

あちこち痛いのか、時々顔を歪ませながら叶和は階段を下りて、呼んでいたタクシーに乗った。



「荷物とかないの?」



答えたのは柊ニだった。



「ない。元々身の回りのものくらいしか持ってないやつだったけど、店の脇に放置されてたのを連れて帰ったから。唯可のとこに置いてたものがあったとしても、どうぜ全部捨てられてる。今着てる服も俺のだからサイズが合ってないだろ?」


「そう……」



あの日、ゴミ捨て場で拾った時よりもっと心もとない。



「かけることなんてないと思うけど、一応あなたの連絡先教えて」


「いいよ。言うから、着信残して」



言われた番号を電話して、ワンコールで切った。

柊ニはスマホに残った番号を見ながらわたしに名前を聞いてきた。ちゃんと登録してくれるらしい。



「あんたの名前は?」


「芦屋沙也加」


「俺は佐野柊ニ」



タクシーに乗ろうとして、パンの袋を渡された。



「こっちもいろいろあってこいつに構ってられないんだ。あんたはまともそうで安心した。こいつのこと頼むよ」



頭だけ下げて、タクシーに乗った。




途中、タクシーを待たせておいて、必要だと思うものを買った。


マンションに着いて、タクシーから降りる時、叶和は少し顔を歪めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る