第38話:冒険者+5:不死身の骸竜
私達が身構えると同時に、瞳が宝玉の様に赤く輝く、骸の竜<ボーン・デッド・ドラゴン>はどこから出しているのか巨大な奇声を出してきた。
『キィィアアアア!!!』
「なんだこの骨の竜は……!」
「どうなってるのよ……!」
私とミユレが、思わず耳を塞いでしまう程の奇声だ。
それでも私は力量の瞳で、奴のレベルを見抜いた。
「ボーン・デッド・ドラゴン……レベル<62>か!」
「その程度なら――ファング! やりなさい!!」
『ガルルルル!』
レベルが低いと分かるとミユレは、彼女の相棒のホワイトファングに指示を出し、骸竜へ攻撃を仕掛けた。
巨体に合わない神速の速さで、ホワイトファングは骸竜の右腕を一気に粉砕する。
「やった!」
「脆い?――いやまだだ!」
隣でミユレがガッツポーズをしていたが、あまりの脆さに違和感を抱いたら案の定だ。
奴が出現した魔法陣が輝きを増し、骸竜はすぐさま再生したが、それだけじゃない。
「レベルが……<64>に上がった!?」
「何よそれ! ふざけた魔物ね!」
私もそう思うよ。しかし、いくらアンデッド系とはいえ魔法陣がある以上、何かしらトリックがある筈だ。
そんな事を考えていると、骸竜は不意に観客席に腕を伸ばしていた。
「おい、止めろ!!」
「キャアァァァァァ!!」
私の声は、観客の悲鳴にかき消されてしまう。
まずい、まだ大勢の人がいるし、彼等はイベントだと思っていたのか、今になって逃げ出している。
「させるか!」
私は何とか魔法を唱えようとした時だった。
観客と骸竜との間に、巨大な黒い壁が現れた。
「
「クロノ!」
それはクロノのスキル――それによって構成された壁だった。
その壁に阻まれた事で、骸竜の意識はようやく私達へ向いた様だ。
ゆっくりと、その首をこちらに向けて来ていた。
だがそれと同時にクロノを始め、ミア達もスタジアムへと降りて来てくれた。
「師匠!」
「よっしゃ戦闘だ!」
「念の為、武装して正解でした!」
「ゆっくり、したかった……!」
『グルルゥ~ン!!』
『~♪』
クロノ達が来た事でベヒー達もやる気を出した様で、前に出て骸竜を威嚇してくれている。
「クロノ! 観客の避難は?」
「我々のギルド員や騎士達、他の冒険者や運営で行っています」
「だから思う存分、やれるって事だぜセンセイ!!」
クロノと気合の入ったミアの言葉に、私も安心した。
彼等に意識をそこまで向けずにいられるのは助かる。
「ミユレ、君はどうする?」
「勿論、戦うわ。折角の決勝戦を台無しにされたんだもの!」
『ウオォォォ~ン!!』
ミユレとホワイトファングも戦力として戦ってくれるようだ。
これなら余力もあるぐらいだ。
素早く、倒してしまおう。
だがそれは浅はかな考えだった様だ。
何故なら、そいつはさっきから、パニックで逃げる観客を捕まえようとするからだ。
こちらに意識は向ける。だが、すぐに観客にばかり向くんだ。
「マズイ! 合わせろクロノ!――グラビウス!」
「はい!――黒の壁!」
私が重力で腕を鈍らせ、その隙にクロノが壁を作って防御する。
その間にギルド員や騎士達が避難させたり、魔法で援護攻撃してくれるが、骨が欠けても、すぐに再生してしまう。
――しかもレベルが上がる、おまけ付きだ。
「迂闊な攻撃はするな! 大きな再生をする度にレベルが上がっている!」
「なんて魔物……! それに観客ばかりを狙う!」
そう、そこなんだ。
エリアの言葉に私も頷いた。
まるで餌が目の前にあるかの様に奴は、ずっと観客を狙っている。
どういう事だ。何か意味がある行動なのか?
私達が少し悩んでいると、それを見ていたグリムは骸竜の頭上で笑っていた。
「アハハハハ! 流石は呪われし伝説の魔物! あの程度の生贄では、まだ足りぬか!」
「生贄……? どういう事だ!」
「言葉の通りよ。この骸竜は嘗て、ある魔導士が作り上げた魔物! 今では禁術扱いの代物でな、召喚に生贄がいるのだ。――だが<竜狩りの傭兵団>だけでは足りなかった様だな」
なんて奴だ。まさか、あの傭兵団の全員を生贄にしたのか。
こうなってはしまっては私、襲撃の真相は闇の中だが、私には確信がある。
その依頼をしたのは、この男――グリムだと。
「それだけの命を奪い、更に観客の命まで狙うとは……何とも思わないのか! 正気の者の行動じゃないぞ!」
「知った事か……元々、このモンスタースタジアムでの騒動は我等、始高天の計画の一つよ。強力な魔物を集め、ノア様の力で究極魔物を生み出す為のな。――だが貴様のせいで計画が狂った! 私からノア様を奪った報いを受けよ!」
「――そう言う事ですか」
そしてグリムの言葉が終わると同時に、VIP席の方から一人の女性が私の傍に舞い降りた。
彼女は昨夜出会った女性――十六夜であった。
「十六夜? 逃げないのか!」
「そのつもりでしたが、彼が裏の人間だと分かった以上、掟に従い制裁を加えねばならないのです。――ですから、今は協力と参りましょう」
「待ちなさい! アナタ、三大裏ギルドの人間ね! なら、そう簡単に信じられる筈が――」
「いや、大丈夫だエリア! 彼女は信じられる」
「ルイス殿!?」
「あらあら?」
私の言葉にエリアや周り、そして十六夜も意外そうな顔をした。
まぁ当然でもある。肩書きだけなら、あのグアラと同じだしな。
「良いのですか? そんな簡単に信頼して……私は裏の人間ですよ」
「なら尚更、信頼できる。君が今、私達と敵対しても何の得もないだろ? だったら信じられるさ」
私の言葉に十六夜は一瞬、ポカンとしていたがすぐに大笑いし始めた。
「アハハハハ! 確かにそうですね……そこの騎士団の方、そう言う事ですから今は一時休戦と参りましょう?」
「むぅ……仕方ないです。ですが、妙な動きをすれば騎士として対処します!」
「ウフフ……それでこそ騎士ですね」
まるで彼女の掌の上だな。
あのエリアは転がしているよ。流石は裏の女王か。
「フンッ、ゴミが多い……ならば――信者達よ! 我等が神の敵を討ち果たせ!!」
「――仰せのままに」
「――全ての神の為に」
グリムが両手を広げ、そう叫んで少し――観客席や選手通路から、黒い逆さ十字が刻まれたローブを纏う、武装した集団が現れた。
「こいつ等は……!」
「裏教会の武装信者です……魔法も使うので、お気をつけよ」
困惑する私へそう言ったのは、いつの間にか傍に立っていた小太郎だった。
「小太郎……! 観客はどうなった!」
「一通り逃げました。残りは敵だけ――いや」
小太郎はそう言って観客席の方見るので、私達も視線を追うと、そこでは見覚えのある者達が信者達をぶっ飛ばしていた。
「うおぉぉ!! ルイス! こっちは任せろ!」
「後で奢れよ!」
「ルイスさん! 私頑張りますから!」
そこには信者達と戦うギルド長や冒険者仲間――そして、信者へ頭突きを喰らわすフレイちゃんの姿があった。
そうだった、彼女、結構強いんだよなぁ。
「私達も戦います!」
「今こそ騎士の力を見せよ!」
そして振り返ると、そこにはクロノ達のギルドメンバーや騎士達の姿もあった。
彼等は信者達と戦いを始め、良く見ると他の冒険者や魔物使い達も戦ってくれている。
「これなら何とかなる……クロノ! この場の指揮を頼む。エミックとベヒーもクロノ達の援護だ!」
「分かりました! 師匠は?」
「私は奴だ……始高天の関係なら、皿まで喰らってやるさ」
「フンッ! まるで勝てる奴の台詞だな! ノア様が何故負けたか分からぬが、何かがあっただけだ!――いでよ魔鎌
グリムは掌を合わせると大きな魔力反応が起こった。
そして、その腕には巨大な牙の付いた、禍々しい鎌が握られていた。
「貴様は創世の邪魔だ! ここで貴様の命を喰らい尽くしてくれる!!」
「こっちの台詞だ……お前達、始高天が何者なのか吐かせてやる。――行くぞ!」
私はそう叫ぶと同時に、宙へと飛び、グリムは私目掛けて鎌を振り落としてきた。
そして私のガントレット・ブレードと、奴の悪喰がぶつかり、戦いは始まった。
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