第51話:白帝の聖界天(三人称視点)

 白帝の聖界天ホワイトゲート

――それは、100年近く存在してきた伝説の五つのギルド、その一角であった。


 嘗て、冒険者が流れ者や無法者扱いされてきた時代。

 そこでギルドを作り、彼等の今の立場を作った五つのギルドだ。


 それが五大ギルドであり、全てのギルドにとって王とも呼べる存在。


 そんな彼等に刃を向ける者は、冒険者に非ずと言われた。

 だから逆らう事は許されない、絶対的な存在であった。


 だがそんな認識も、時代の流れと共に変わり始めていた。


 それまで五大ギルドの一部は傲慢な振る舞いをし、他のギルドと揉める事があった。

 だが、その度に、それまでの暗黙のルールによって守られていた。


 けれど不満は蓄積する。


 やがて五大ギルドの存在に疑問視する者が時代と共に増え、それを察して五大ギルドも大人しくなっていた。


――しかし『白帝の聖界天』の若き長、ゼン。


 昔から願えば何でも手に入った彼が長になってから、再び流れが変わろうとしていた。


 ギャンブル・女遊び・他ギルドの手柄の横取り等、問題を起こして始めていたのだ。


 本来ならば、上に立つ人間とはどういうものかと教える為に、彼の父――先代が彼へ代変わりさせていたのだが、それは失敗であった。

 

 ところが、そんな彼は今、泣きながら王都にある『白帝の聖界天』の本部へ戻って来ていた。


「イテェ!! 早く治せ! ちくしょう……! あの野郎、許さねぇ!!」


 ゼンは憎しみに満ちた瞳をしていたが、目から涙が流れていた。


 巨大ギルドの長とはあるまじき、みっともなく泣き叫ぶという行為を見せるゼンに対し、幹部を始め、古参の冒険者達は呆れた様子で見ていた。


 だが彼等は何も言わない。

 あんなのでも、自分達が慕った初代や先代の孫であり、息子だから。

 

――守ってやらねばならない。

 

 『白帝の聖界天』の血を絶やさせる訳にはいかないと、古参の者達は皆がそう決めていたのだ。

 それが間違った選択であろうとも。


 そして泣きながら治療を受けるゼンの前に、空気を読まずに道化師――ラウンが姿を見せた。


「やぁやぁ親友! 大丈夫かぁい!? ボクちん心配したよ!」


「ラウンかぁ……どうなってんだ! あのオヤジ! 強い氷の魔法を使って来たぞ! 目的の『蒼月華』も手に入らなかったし、これじゃ誰も俺を認めねぇ! どうすんだ! 俺は五大ギルド……親父を超えねぇと行けねぇのに。だから希少素材を取るって話しだったのによぉ」


「まぁそれはそれとして……コホンッ!――なんだって! それはホントかい! 許せないねぇダンジョンマスター! 五大ギルドの未来――若きリーダーである君になんてことを!」


 わざとらしい。そんな言葉を言うラウンに、古参の冒険者達は余計な事を言うなと、険しい目で見ていた。


 勿論、ラウンも視線には気付いている。気付いていて、わざとやっているのだ。


 そして案の定、ラウンの言う気持ちの良い言葉に、ゼンは治療寸前の所で勢いよく立ち上がり、治療師を吹き飛ばすと同時に声を上げた。


「そうだ! その通りだ! 俺は五大ギルドの長――ゼン・ホワイトホースだ!! それだけじゃねぇ! 親父や爺ちゃん達にも出来なかった五大ギルド統一を叶える男なんだ! 俺は!!」


「よっ! 流石は最強の長! やれやれぇ!」


――違う。そんな事をすれば全てが滅ぶ。


 その場にいた幹部や冒険者達は、内心でそう叫んでいた。


 五大ギルドの在り方を間違えてはいけない。このままでは、取り返しのつかない事になってしまう。


 流石に言葉を出すかと冒険者達は迷っていると、それよりも先にラウンが提案を出した。


「けど、そうなるとダンジョンマスター……あれどうしようか? 君に逆らうなら、色々と問題だよねぇ?」


「その通りだ!――けど、どうすれば良い。意外と強かったぞ?」


「直接、彼を攻撃するからダメなんだよぉ! 周り! ま・わ・り! 周りを攻撃するんだ! 弟子も強いから攻撃は駄目だよ? でもその部下や、奴の大切な人達を攻撃しまくれば、どうなるかなぁ? 苦しむよねぇダンジョンマスターは」


 ラウンの言葉に、ゼンはピタッと止まって、やがて凶悪な笑みを浮かべた。


「そうだ……! それで行こうぜ親友! おい! テメェ等! 戦争だ! ダンジョンマスターの関係者を狩って来い!!」


「若! いくらなんでもそれは!」


「なりませんぞ! そんな意味のない事をすれば! 五大ギルドが本当に揺らぎます!」


「先代も初代も、そんな事を望んでおりませんぞ! そもそもダンジョンマスターとは――」


 冒険者達は必死にそれだけはと、なんとか止めようとしたが、やはりラウンが口を挟んできた。


「う~わ! 長の言葉を無視したよ! これだから古い人間は嫌だねぇ! どうする? 若くて血気盛んな兵隊は沢山いるよねぇ~?」


「あぁ……それに俺は若じゃねぇ! 長だ! テメェ等には頼らねぇ! 俺に付いて来てる兵隊は幾らでもいるんだ!!」


 違う、連中は兵隊じゃなくチンピラだ。

 ゼンに付いて来れば好きに出来るからと付いて来るチンピラで、最近では『白帝の聖界天』の名を出し、好きにやっているとも聞いている。


「若! いけませんぞ!」


「その様な事は先代も初代も――」


「うるせぇ! 臆病者は引っ込んでろ!――テメェ等! 戦争だぁ!!」


 ゼンが率いる荒くれ者達が一斉に声を上げ、それを見た冒険者達は顔を青く染まっていた。

 彼を守って来たガードとも違う。ただの小悪党共でしかなく、何をするのかも想像に容易い小物だ。


――碌な事にならないぞ。


 誰もがそう思った。

 だが数は力であり、気の大きくなったゼン達を止める事はもうできなかった。


――そして、そんな光景を見ていたラウンだけが一人、嫌な笑みを浮かべていた。


「さぁ~て、馬鹿の相手はこのぐらいで良いか。後は勝手にどうぞ。――ボクちんは、ダンジョンマスターの実力調べとか、実験体の世話で忙しいぃ~」


 ラウンがそう言って、静かにその場から姿を消していくのに誰も気付く事はなかった。

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