第52話:冒険者+5:道化師の炎
あの騒動から三日が経った。
私は相手が五大ギルドというのもあり、クロノ達にも騎士団にも顔を出していない。
――狙いが私なら、下手にクロノ達への接触は危険だ。そもそも、突然過ぎるんだ。
ハッキリ言って、私は何か作為を疑っていた。
ツンドラマウンテンでも謎の視線を感じていたし、ツンドラオロチの違和感もある。
そんな中、最近では接点がなかった五大ギルドが『蒼月華』を狙っての介入。
偶然にしては違和感だらけだ。明らかに人の作為を感じてしまう。
「……誰かが私へ誘導しているのか? そうじゃなきゃ
私は昔の事を思い出した。
嘗て、彼等とは一度だけぶつかった事がある。
あの時の事を覚えている者がいれば、先代達が止める筈だ。
それに、もう三日も動きがないなら、向こうの策が失敗したんだ。
――そう祈るしかない。
そんな事を思いながら私は、都市パンドラから送って貰えているベヒーの餌を彼に与えたり、簡単な買い出しをする日々を送った。
あと数日はこうして、それでも何もなかったらまたいつも通り、騎士団に顔を出したり、ギルドで依頼を受けよう。
そう思いながら私は今日も静かに眠りにつくのだった。
♦♦♦♦
「ダンジョンマスターめぇ……警戒心強いなぁ。こりゃボクちんも動きを変えないとねぇ」
ボクちんはダンジョンマスターの拠点が見下ろせる時計塔の上で、そんな事を思いながら望遠鏡で奴を見ていた。
あの警戒心の強さだ。近くじゃなく、街の中心の時計塔。
この場所を監視場所に選んで正解だったねぇ。
そうじゃなきゃ、奴はボクちんに気付いてた筈だ。
もし本当にノアが奴に負けたなら、こっちも慎重に行くしかない。
スキルを使わせず、確実に仕留める。
そうと決まったら、ゼンをもっと煽って行動をエスカレートさせなきゃ。
「さてさて、とっとと動くか――」
ボクちんは、そこまで言って立ち上がった時だった。
その瞬間、ボクちんの傍に男が立っている事に気付いた。
――いつの間に……!
「……ビックリだ。ボクちんが気付かなかったのもそうだし、良くここが分かったね?」
「師匠が誰かに見られていた事は気付いていた。それで、師匠を見張る場所を回って監視していただけだ。――まさか、こんな月の夜に目立つ場所にいるとは思わなかったがな。どうやら、隠密としては三流の様だ」
「……言うねぇ。うざいよそれ」
誰だコイツ? ダンジョンマスターの関係者だろうけど、言葉からして弟子か。
だが何だ? 言い方はムカつく奴だが、どうも見覚えもあるなぁ。
「……そうだ思い出したぁ! お前! ツンドラオロチと戦ってた一人だろ!」
「小太郎……俺の名だ。やはりツンドラマウンテンで見ていた奴がいた。それには気付いていたが、それが貴様か」
月光に照らされてボクちんの前に姿を見せたのは、銀髪の黒装束の男だった。
前髪と目元だけ出してるし、何か格好付けてムカつくけど、冷静にやるか。
「何かようかいぃ? ハッキリ言って今は退散しても良いと思ってるよボクちん?」
「逃がすと思うか? 何故、師匠を狙うか吐かせる」
「それは向こうも悪いよ。ボクちん等――始高天に喧嘩売ったんだから」
「また始高天か……なら、貴様の目的は師匠の情報収集。そしてノア奪還が目的か?」
めんどくさいな。一つ答えたら全部答えると思ってんのかな?
どうしよう。殺せるかな?
「全部言うと思う? まぁ良いか……前半は当たりだけど、後半はどうでも良いかな。ノアなら勝手に出てもおかしくないからね。――さて、こんなもんかねぇボクちんも退散――」
「逃がさん! 影手裏剣!」
「ぬおっ!」
コイツ、影から武器を作りやがった。
ツンドラマウンテンで見た時は足の強化と、魔法を器用に使っていたのは見たけどなぁ。
あぁ~あ。やっぱり強いねぇ、ボクちん貧乏くじだよ。
だけど死ぬ気はないし、痛いのもいや。
だからボクちんは高く真上に飛んで、高速で迫る影の手裏剣を避けてみた。
「おぉ~い危ないじゃ――」
「――遅い」
「ぐえっ!」
―コイツ! 早い!?
腕でガード――いた蹴られたが、鉛で殴られた様な感覚だ。
足を強化ってレベルじゃないぞ。
「こぉの……! うざい!――第一スキル『遠隔操作』・
ボクちんのスキルは触れた物を遠隔操作できる。
だからこうやって、大量のナイフを綺麗にサークル状に並べて、高速回転もお手の物だよぉ。
――このまま奴を八つ裂きにしてやるよぉん。
「――第二スキル『風使役』――疾風手裏剣!」
「なっ! 風だってぇ――つう!」
なんだよこれ。風でボクちんのナイフを吹き飛ばしたと思ったら、風の手裏剣作ったのか。
しかも早い。気付いたた右肩を斬られていた。
――マズイねぇ。本当に強いよ。
「あぁ~あ、こりゃマズイねぇ。」
「そう言って降参する気はないのだろ? 風・影・縛り」
本当に容赦ねぇなコイツ。
そこはダンジョンマスターの弟子か、油断しねぇのか。
風の檻と、影での縛り上げでボクちん、何も出来なくなっちゃった。
「これでまずは終わりだ」
「――そう思った? そりゃ早いよ! やっと油断したねぇ!!」
ボクちんはそういって一気に解放して、コイツの呪縛を解放した。
嘗めるなよ。ボクちんだって道化師の姿してるけど、魔力を解放したレベルは<68>だぞ。
「コイツ……!」
僕が魔力を解放した事で、この小太郎って奴も魔力を解放しようとしてるけど、そうはさせないよ。
――これを使う気はなかったけど、しゃあないよねぇ。
「遅いよ――あと気を付けてよ? この姿になったら加減なんて無理だから」
ボクちんの肉体が変化する。
骨や肉や変形する感覚が、そして激痛が走るけど仕方ない。
ボクちんだって死にたくないもんねぇ
「これは……お前、人間じゃないのか!」
「人だよ失礼だなぁ……でも、この姿なら仕方ないよねぇ。――じゃっ、生きてたらまた会おうよ!」
――嘘だよ。死んじまえ。ダンジョンマスターの弟子。
ボクちんはそう言って、右の頭を前に翳すと、目の前に現れた巨大な火柱が奴を包み込んだ。
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