第53話:冒険者+5:ダンジョンマスター立つ

 それは突然の事だった。

 まだ夜が明けるよりも前に、私の拠点にミアがやって来たんだ。


「センセイ! 大変だ! 小太郎が!」


 彼女の言葉に私は嫌な予感が過った。

 小太郎は基本的に裏で動いてくれている。

 だから、何か起こったのではないかと。


 私はすぐに準備して、彼女の後を追いかけた先は騎士団の医療棟だった。

 一瞬、何故か分からなかったが、小太郎がいるならどこでも良かった。


 そして、とある一室に案内され、その中に入ると私は目を疑った。


「なんだこれは……!」


「うぅ……!」


「あぁ……!」


 その病室には大勢の怪我人がいたのだ。

 包帯を巻かれ、中には血が滲んでいる者もいる。


 だが、私が驚いたのは彼等が騎士じゃなく、雰囲気でだという事だからだ。

 身なりでも分かるし、冒険者特有の雰囲気がある。


 しかし何故だ。何故、騎士団の医療棟に冒険者達が。

 しかも女性も子供もいるじゃないか。

 まるで戦地の様な光景に、私は言葉を失いながらも、何とかミアに聞く事にした。


「ミア……これは何なんだ?」


「……冒険者と、その家族さ。襲撃されているんだ、ここで。騎士団は、そんな連中を匿ってくれているんだ」


「匿う……?」


 そう言った後、私は気付いてしまった。

 目の前で苦しんでいる冒険者達。彼等はクロノやミア達のギルドのメンバーだと言う事に。


 それだけじゃない、王都で飲み仲間になった冒険者達も大勢いた。

 なんだこれは。殆ど、私が知っている者達じゃないか。


「……ここの人達の容体はどうなんだ?」


「幸い、命の危機はねぇってよ。でも骨折はいるし、女子供の場合は心の傷がな」


――ふざけるな。誰がこんな酷い事を。この三日で何が……待て、


「ミア……もしかして、犯人達は――」


「ここだぜ、センセイ……」


 私が何か言う前に、ミアはそう言って部屋の角の空間で立ち止まった、

 そこにはベッドがあり、何故かエリアやグランもそこにいた。


「エリア……グランも?」 


「ルイス殿……小太郎殿が」


「まず、話を聞いてやれ」


 二人は私に何か言いたそうにしながら、ベッドへ視線を向けた。

 そこには、ボロボロとなり、全身に包帯を巻かれた小太郎の姿あった。


「小太郎!! 無事なのか! 生きているのか!?」


「大丈夫です! 命だけは助かりました!……それでも火傷などで重傷ですが」


 エリアの言葉に私は安心したが、見た目が言葉で聞くよりも酷く見える。

 

―― 一体、あの小太郎を誰が。 


 小太郎は私やミア達も認める実力者だ。

 弟子の中でも上位の存在なのに、こんな姿で。

 私は疑問を抱くが、それよりも悲しみや怒りの方が勝り、拳に力が入っていた時だった。


「……師匠」


「小太郎!」


 小太郎が口を開いた。

 弱弱しい口調と、目も薄っすらとだけ開き、確かに私の方を見ている。


「すみません……しくじり……ました」


「大丈夫だ! まずは休め!」


「いえ……聞いて下さい……私は、クロノから……師匠が白帝の聖界天ホワイトゲートに目を付けられた……と、聞いて調べて……ました」


 そう言う小太郎の視線が動き、私はそれを追うと、私達の背後にはクロノがいる事に気付いた。

 クロノは暗い表情で椅子に座っていて、私達の視線にも一切反応しなかった。


――クロノ。一度なら二度までも仲間を守れなかった事を気にしているのか。無理もない。


「それから……すぐです。連中が……師匠と少しでも……関係のある者達を襲撃した出したのは……そして……気を付けて……下さい。この絵を描いているのは……道化師の男……そいつもです……!」


「始高天……! それに白帝の聖界天……!――何故だ。何故、私に直接仕掛けてこなかった! 何故、無関係の人達を襲った!!」


 私は思わず声を荒げてしまったが、感情を抑える事は出来なかった。

 そんな私を見て、エリアとグランも何か言いたそうにしていた。


「ルイス殿……今回の、この件なのですが」


「ハッキリ言う。元老院から今回は中立に立てと勅命が入った。ギルド同士の抗争だから騎士団介入は出来ない。そう言われた。――だが実際は、白帝の聖界天と繋がりのある議員が圧力を掛けただけだ」


「一部、チンピラは捕まえたんですが、その度に元老院からの指示で白帝の聖界天の者が来て……解放を。――すみません」


「……いや、謝らないでくれ。それで良い。例えそうだとしても、騎士団は中立であるべきだ。今回は、裏ギルドとは違う。」


――そう思わないと、私は今にも暴れそうだ。それに連中は、騎士団が何かすれば、次に彼等を標的にするだろう。それが分かる。


「……クロノ、ミア、小太郎。そして皆、すまない。私のせいだ。私が様子見といって、三日も動かなかったからだ」


「……違います。師匠のせいではない。五大ギルドだからと怯み、仲間を守れなかった私達の責任です」


「うちの連中は弱くねぇ。きっと人質を取られてやられたんだ……! 絶対に報いを受けさせてやる!」


 クロノは暗くも、その瞳には強い怒りが宿っていた。

 ミアも同じだが、それを実行すればギルドも、冒険者としての立場も消える。

 五大ギルドに逆らう。それはそう言う事だ。


「……エリア、そしてグラン。頼む、三日だけ彼等や関係者を守ってくれないか?」


「無論です! 三日と言わずとも守って見ます! 戦いが起こった時の介入は禁止されましたが、護衛は止められていません!」


「流石に騎士団としても、この状況で元老院の言いなりになる気はないからな。――何か考えがあるのか?」


「少し……準備してくる」


 私はそう言って病室を出ようと歩き出した時だ。

 クロノが立ち上がった様だ。


「っ!――待ってください! 師匠、まさか一人で!」


 クロノが何かを察して私を後ろから止めて来たが、すまない。

 本当の事を言う気はないんだ。


「いや、まずは話し合いだ。その先は、その結果次第だ」


「センセイ……もし、連中が何もしなかったら?」


「……その時は、一旦集まろう」


 私はそう言い残し、一旦拠点へと帰って行った。


♦♦♦♦


 だが私だって冒険者で――そして一人の師だ。

 弟子達に辛い道だけを進ませる気はない。


 今回の件で、彼等の道を閉ざす訳にはいかない。

 私はすぐに辺境ギルドのギルド長宛に手紙を書き、それを早馬で出した。


「……これで私と関係なくなる。ここからは、私個人の問題になるな」


『~!』


『グオォン!』


「お前達も来てくれるのか? 全く、何かあったら逃げろよお前達」


 私は気合の入ったエミックとベヒーに、そう言って少し笑うと準備に入った。

 ナイフを色んなアイテムと合成し、道具を作っていく。

 決行は明日だ。今日は準備して眠って、万全な態勢を取る。


――始高天。そして白帝の聖界天。責任は取ってもらうぞ。


 私は今、これまでになく怒っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る