第54話:冒険者+5:対決 白帝の聖界天

 王都の早朝。私はある場所へと向かい、歩いていた。

 やらねばならない事は、大体全てやった。

 終わりの先で、きっとクロノ達がエミックやベヒーの面倒を見てくれるだろう。 


 王都の貴族街と市民街の中間。

 上級ギルドの建物が多い場所に、全身にナイフや薬品、道具を装備した私は、エミックとベヒーを連れて、その中の巨大な建物の前に立つ。


 真っ白に誠実さを示すかの様な建物――白帝の聖界天ホワイトゲートの本部が今は、物凄く不快に見える。


 そして当然ながら相手は五大ギルドだ。

 時間に関係なく、見張りはいる。見た目はチンピラに見えるが。


 だがベヒーの姿を見た彼等は、震え上がっていた。


「お、おい……! あ、あれってモンスタースタジアムの!?」


「あ、あぁ! ダンジョンマスターのベヒーモスだ!」


「ど、どうして此処に……! ま、まさか報復!?」


 彼等は情けない声を出しながら、何やら言い合っているが、確かに聞こえたぞの言葉。

 報復されるような事に心当たりがあるのだろうな。


 しかし、どこにでも馬鹿はいるものだ。悪い意味での馬鹿が。


「おいおい、俺等は五大ギルドだぞ? 手は出せねぇよ! きっと脅しだ……よく見てろ」


 そういって一人の男がこちらへと歩いてくる。

 ニヤニヤと笑いながら近付いてくるが、あまりの余裕の姿が今は腹ただしい。


「おいおい、あんたダンジョンマスターだろ? 何しに来てた、一応聞いてやるぜ?」


「……そちらのギルド長の居場所はここか?」


「おいおい、それは言えねぇよ。あんたも冒険者なら分かるだろ?」


 そんな事は、もう関係ない。

 私はもう冒険者ではない。


「……そちらのギルド長の居場所は?」


「だ、か、ら! 言えねぇって! いい加減にしろよ、おっさん? 痛い目みたくねぇだろ?――アンタの弟子の部下の連中と同じ様にな」


 そういって男は下劣な笑みを浮かべながら、私へそう言った。

 だが、私にはそれで十分だった。

 それが一番、聞きたい言葉でもあったからだ。


「やっぱりお前等か……!!」


 私は気づけば、目の前の男の頭を掴んでいた。

 

「えっ! ちょっ! 待て! 俺に手を出せばどうなるか――!」


「グラビウス!」


 私は地面へと叩きつけると同時に重力魔法を放ちながら、その男を地面へと叩きつける。

 男は白目を向いて気絶していたが、どうでもいい。

 今、私は怒っているんだからな。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!! や、やりやがった!」


「イカれてやがる!? 五大ギルドに手を出しやがった!!」 


「ま、待て! 俺らは関係ない! あくまでも襲撃はゼンの指示で――」


「馬鹿! 余計なことを言うな!」


 目の前で男達が何か言っているが、そんな事も関係ない。

 こいつ等か。弟子の仲間と、その家族を襲撃したのは。


「――お前等だけは絶対に許さん!!」


『~~♪』


『グオォォン!!』


 私が叫ぶと同時にエミックが飛び出し、戦闘状態となって男達を闇の腕で殴り飛ばし、ベヒーは肉体を強化し、そのまま建物へと突っ込んだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!? やりやがっ――へぶっ!」


 一人が叫ぶが、全て言う前にエミックに殴り飛ばされてしまう。

 そしてベヒーは少し下がると、柱や壁が崩れたことで、その周辺は一気に崩れた。


 ここまでしたんだ。中にいた冒険者達も次々と出てきた。


「な、何事だ!」


「ベヒーモス!? なんだ敵襲か!?」


「おい! あそこを見ろ! 奴だ……ダンジョンマスターだ!」


「……やっぱりこうなったか。おい、先代達に連絡だ」


「あぁ……あとは頼むぜ」


 少しは話が分かる連中だが、きっと結果は分かっている。

 彼等は何も言わないだろう。何故なら、彼らは五大ギルドの冒険者だからだ。


「ギルド長の居場所は……!」


「……言えん」


 そう言って彼等は周囲を見てから、武器を構えた。

 やはりこうなった。だが私は止まらないぞ。


「うおぉぉぉぉ!!」


 私は走りだし、両腕に重力魔法・風魔法。そしてニブルヘイムの力の氷の魔力を込めた。


「グラビウス・ジュピター――双王・天海魔氷そうおう てんかいまひょう!!」


 両腕に込めた魔法は、武器を構えた彼らの目の前に放った瞬間、風と氷の爆風を生み出して彼等を吹き飛ばす。


 そして彼らは強烈な魔法により、気を失った。


 今の私のレベルはエミックを対象にしているから、レベルは<87>だ。

 簡単に止められると思うなよ。


「ギルド長!! ゼン・ホワイトホース!! 出てこいぃ!! 私はお前を絶対に許さん!!」


「敵襲だ! 長を守れ!」


「ベヒーモスにミミック……そしてダンジョンマスターか!?」


「何としても止めろ!!」


 吹き飛ばしても次々と出てくる冒険者達。

 アナタ方の立場もわかる。だが私も、もう自身を止められない。

 

 無関係な者達を傷付けた、このギルドを、私は許すことができない。


「どけぇ!」


『~~!』


『グオォォン!!』


 私は叫びながら冒険者達の軍勢へ、エミックとベヒーと共に突っ込んでいった。

 エミックは闇の魔法も使い、私の道を作ってくれて、ベヒーは周囲に雷撃を放って敵を減らしてくれる。


 ベヒーは体が大きいから、敵の攻撃の的になるのが心配だったが、多少の魔法や武器では痛くも痒くもない様だ。

 元気に吠え、建物を破壊しまくってくれている。


 ありがとう、二人共。そして待っていろ愚かなギルド長・ゼンと道化師の男。


「白帝の聖界天は……今日で叩き潰す!!」


 私はそう叫びながら目の前の敵を、次々と薙ぎ払いながら進んで行った。


♦♦♦♦


 その轟音は『白帝の聖界天』の本部の奥も上階も関係なく、平等に揺らしていた。

 天井からチリも降り、何かが崩れる音が全く止まない。


 しかし、上階の一室に座る、刀を持った一人の老人と、高年の槍を持った男は、慌てる事無く落ち着いていた。


「朝から元気な奴がいたものだ」


「えぇ……恐らく、倅が何かしたのでしょう」


 彼らはゼンの祖父と実父――つまり白帝の聖界天の初代と先代であった。

 二人は周囲に幹部も置かず、騒がしい朝だと呑気にお茶を飲んでいる。

――しかし、そんな二人の朝の時間を壊したのは、彼らの孫・息子であるゼンであった。


 ゼンは汗を滝のように流しながら、勢いよく扉を開けて入ってきた。


「――親父! 爺ちゃん! 大変だ! 襲撃だ!!」


「落ち着けバカ息子。しかし、成程な……襲撃か」


「落ち着いた現代で、こうも派手な襲撃とは……今回でだな。どこの奴だ?」


 それを聞いても二人は、全く焦った様子もなく、お茶を再び飲もうとした時だ。

 ゼンの次に発する言葉によって、その動きを止める事になる。


「オッサンだ! なんかと呼ばれている変な野郎だ!」


 その言葉に二人のお茶を飲む手がピタリと止まった。


「……今、何と言った?」


「……ダンジョンマスター。つまりルイス・ムーリミットか?」


「あ、あぁ! そんな名前だった! 頼むよ二人共! 何とかしてくれ! 少し、ちょっかいを掛けただけ――」


 ゼンがそこまで言った時だった。

 彼は父――ゲンの持つ槍の持ち手で顔を殴られ、壁に吹き飛んで激突した。


「ガハッ! お、親父ぃ……なに、すんだ……!」 


「このバカ息子が……よりによって、ルイスを敵に回したのか!」


「な、なんでそんなに怒るんだ! ただのオッサン――」


「さっき、これで二人目と言ったじゃろ? その一人目もなのじゃよ」


「ハァッ!? あ、あのオッサン……前にも内に、五大ギルドに喧嘩を売ったのか!」


 ゼンは祖父と父の言葉に驚きを隠せなかった。

 しかし二人はゼンを無視し、話を続けた。


「嘗て、うちの幹部だった男が、ルイスの仲間を襲撃してダンジョンの戦利品を奪った事があってな。その際、その家族にも大けがをさせてしまい、ルイスが今の様に殴り込んできたのだ」


「奴は恐れいないからのぉ。冒険者故に、本当に自由じゃ。五大ギルドが相手でも、仲間の為ならば容赦しない。――全く、前もその幹部の首で手打ちにしたのに、またやりおったかバカ孫め」


「だ、だって……そんな奴だって知らなかったし」


「もう喋るな。すぐに幹部を招集。傘下のギルドにも救援を出せ。――全く、この件が終わったら貴様は長から降ろす。これは決まりだ」


「その時に、まだ白帝の聖界天が残ってればの話じゃがな……クククッ!」


 そう言って二人は立ち上がると、武器の鞘をそれぞれ抜いた。

 その目は強者との戦いを楽しむ、武人そのものであった。

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