第七章:五大ギルド・白帝の聖界天

第50話:五大ギルド登場

 あの壮絶な休日から二日後、私はクロノに会う為、『黒の園』に来ていた。


 そして執務室で二人、昔の話や最近の事など、色んな話に花を咲かせていた。


「全く、あんな依頼を受けるなんて……勘弁してくれよ」


「も、申し訳ありません……フレイさんの迫力もそうですが、ミアを始め何人かもやる気だったのに抑えられず」


 クロノはそう言って、困った表情を浮かべる。


 まぁ、そこまで責める理由はないさ。

 

 エリアとフレイちゃん。

 美人二人とデートできたんだから、男として最高の時間だったよ。


「まぁ確かに、困りはしたが嬉しかったのもある……この話は良いさ。――ところで、ほら依頼品の『蒼月華』だ。渡そうと思っていたら、留守だったからな」


「ありがとうございます……おぉ! 流石は師匠ですね。本物の『蒼月華』だ」


 今回の目的はこれだ。

 唯一、まだ『蒼月華』を渡していなかった依頼人――クロノに渡す為だ。


「さぁて、これで依頼された『蒼月華』は全て渡したな、と。後の余り分はチユさんに渡したり、必要な人に渡すか」


「アハハ……贅沢な悩みですね。師匠らしい」


「おいおい、どういう意味だ!」


 私達はそんな事を言いながら笑い合い、お茶を楽しんだ。

――時であった。


「ギルド長! 大変です! の『白帝の聖界天ホワイトゲート』が!」


 勢いよく扉を開けて、クロノのギルドの受付嬢が飛び込んできた。


――って、おいおい。五大ギルドの名が出るなんて何事だ。

 私とクロノも、思わず立ち上がってしまった。


「落ち着け! どうした! 彼等が来たのか!」


 クロノの問いに彼女は震えながら頷いたが、同時に目線を私へ向けていた。


「は、はい! そ、それで……ルイス様に会わせろと――」


「おっと! それ以上は俺達が言うよ。カワイ子ちゃん?」


「きゃっ!」


 背後からの声に彼女は飛び上がり、猛ダッシュでクロノの後ろに逃げて来た。


 そして私とクロノが身構えながら扉の方を見ると、そこから銀髪の若い男と、彼のガードらしき冒険者達が立っていた。


「五大ギルド……!」


 入った来た彼等の服や身体には<天を駆ける一角獣>の、刺繡や刺青があった。

 

 それこそが五大ギルド――ギルド界、五つの王の一角『白帝の聖界天ホワイトゲート』の証だ。


「なんで『白帝の聖界天ホワイトゲート』がここに……!」


「いや下がってろクロノ。どうやら目的は私の様だ。――何の御用ですか?」


 私からの言葉に、先頭に立つ銀髪の男は嫌な笑みを浮かべながら、口を開いた。


「話が早くて助かるぜダンジョンマスターよ……俺の名前はゼン・ホワイトホース。五大ギルドの一つ『白帝の聖界天ホワイトゲート』のギルド長をしているぜ」


「五大ギルドの長だと? しかし、聞いていたよりも若い!?」


「落ち着けクロノ。あそこのギルドは代変わりしたんだ。ただ不思議と、大々的に知らせてなかったから、知らない冒険者も多い」


 私も飲みの席でジャックに教えてもらって知ったぐらいだ。


 だが、あの偉大なギルドの新たな長が、こんな貫録もなく、明らかにチンピラみたいな青年とはね。


――五大ギルドも落ちたものだ。


「おいおい! オッサン! 人の言葉を奪うなよ!――全く、俺が言いたかったのによ。まぁ良いぜ。さっきも名乗ったが、俺様はゼン! 先代の息子にして初代の孫だ。まぁ覚えとけよ」


 随分と器の小さそうな長だな。

 まだ背後のガード達の方が貫録や、威厳があるよ。


 きっと歴戦の冒険者なんだろうな。クロノは疎か、私にすら警戒心を出しているよ。


 良い腕の冒険者達の様だが、頭が弱くなるとは哀れだな。


「それで、そちらは何故ここに。師匠に何の様ですか?」


 相手が相手なだけに、クロノも追い返す事はせずに目的を知ろうとしているな。


 確かに、裏ギルドならばともかく、五大ギルドに何かした記憶はない。

 一体、私に何の用だ?


 私とクロノは構えを解かないで聞き返した。

 すると、ゼンと言った青年が指で示したのは、デスクの上の『蒼月華』だった。


「そいつだよ。いやな、俺らの所の冒険者達も採取に向かわせたんだが、一人も帰って来なくてよぉ」


「……師匠、雪原やツンドラマウンテンで彼等を見たんですか?」


「いや見てない。いたとしても便乗者やハイエナだ。それ以外は遺体しか見ていないぞ」


「そう! それだよ! それが問題だ!」


 何を言っているんだコイツは?

 待っていたと言わんばかりに手を叩きだしたぞ。


「うちは五大ギルドの最高の冒険者しかいねぇ! なのに戻って来ないのはおかしいだろ! つまりはよぉ、誰かがアイツ等を襲って、蒼月華をんじゃねぇのかって話だ」


「そう言う事か……」


 私はようやく彼等の目的が分かった。目的は『蒼月華』だ。

 

 実際、冒険者を送ったかも知れない。

 だが、戻って来ていない以上は『蒼月華』を確保できていない。


 ならば権力のある連中がする事は一つか。


「難癖を言って、私から『蒼月華』を奪う気か」


「貴様! なんてことを! 師匠がそんな事をするか!」


「うわぁ!」


 クロノが怒りでスキルを発動して臨戦態勢を取った瞬間、ゼンは情けない声を出して腰を付いた。


 そんな彼を守ろうと、後ろのガード達も武器を構えて前に出た。

 

 そうされると、こちらも対応せねばな。

 私も無言でガントレットのブレードを展開し、いつでも動ける様に更に身構える。


「くっ! お前等! 俺が誰か分かってねぇのか! だぞ! 五大ギルドに手を出せばどうなるか分かってんのか!!」


 腰が抜けたままで良く言えるものだ。

 

「知っているよ。今のギルドという形を作り、世に冒険者としての信用を作った偉大な存在。そんな絶対の五大ギルドに刃を向ければ、ギルドとしても、冒険者としても、その世界で村八分になるのもね」


「だったら……どうなるか分かってんだろうなぁ!」


 ゼンは何とか立ち上がると、ガードから剣を奪って私へ振り上げて来た。

 なんて呆れた男だ。反撃する気にもなれないぞ。


 私はただ片手を上げるだけで、ゼンの攻撃をブレードで受けた。

 

「なっ! このおやじぃ……どこに力が――」


「これは助言だよ。君には長の器がない」


 私はそう言ってブレードを魔剣ニブルヘイムへと変化させる。

 すると、その刀身から相手の剣へと伝わり、そのままゼンの腕を氷漬けにした。


「うっうわぁぁぁぁぁ!! お、俺の腕が!」


「早く溶かせば大丈夫だよ。――それと先代達に伝えろ。私はよと」


「うっ! 親父達の知り合い……!――チッ! 早く行くぞ! 早く溶かせ!」


 そう言ってゼンは部屋から出て行った。


 ガード達も、私が先代達と顔見知りと悟ってか、ガードの職務を放棄してゼンを連れて黒の園から出て行ってしまった。


「師匠……大丈夫ですか?」


「何かあれば、すぐに私を売れクロノ。他の者達にも、そう伝えろ」


 私は嫌な予感がし、クロノへ万が一の時の事を伝えて、その場を後にした。

 きっとまた何かして来る筈だ。念の為、備えをしなければ。


 そう思いながら、私は今日はもう拠点へと帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る