第17話:冒険者+5:ダンジョン化
あの夜での戦闘から二日が経った。
頭領のダアナと、クロノが捕縛した暗殺ギルドは騎士団に徹底的な監視の下、投獄された。
そして私も、クロノから全てを聞いたよ。
クロノは暗殺ギルドにギルドメンバーと、その家族を標的にされていた事を。
間違いない、確かな報復。それを理解していたが、暗殺ギルドは依頼を熟すプロだ。
依頼人か頭を潰さない限り、ずっと狙い続けて来る。
今回の発端もそれだ。
仲間への被害は、クロノの必死の統率で何とか抑えていたが、今度は無関係の人にまで被害が及んだのを許せなかったらしい。
それで自身を囮にし、依頼人の居場所か頭領であるダアナを抑える事を選んだ。
全く、無事だから良かったが、相変わらず無理をする弟子だ。
そして今、私も関係者が集まった騎士団本部にいた。
理由は勿論、頭領ダアナからの情報を得る事だ。
「エリア、奴は何か話したのかい?」
「いいえ。何も話しませんでした。他の者達も。前に隠密ギルドの尋問をした事がありましたが、彼等は全く別者です。話しているだけで拷問も無駄と判断した程ですよ」
私の言葉にエリアは複雑な表情で首を振る。
しかし当然なんだ。情報収集を主とする隠密ギルドと違う。
連中は暗殺だけが目的のギルドで、心構えと言うか、掟も何もかもが違う。
冒険者の間では、暗殺ギルドは人と思うなって言葉もあるぐらいだしね。
「参ったなぁ。何やら生き残った『屍の贄』のメンバーが人員補充とか、色々とやっているとも聞く。何とかして情報を聞き出して先手を打ちたいのだが」
騎士団長グランも頭を抱えている。
その様子に私は焦りも見たが、どちらかと言えば市民へ被害が出る事への心配だろう。
今日までの間の時間だが、それでも彼がどんな人間かは最低限は理解できたからね。
「師匠。師匠の仰っていた冒険者はいつ?」
「う~ん、もう王都に入ったと連絡は来ていたからね。そろそろ来ても良いと思うんだが」
本当にアイツ何やっているんだ?
情報ギルド――まぁ広報が目的の冒険者だが、約束を守るし、ハッキリ言って強いから闇討ちの心配もない。
暗殺ギルドから情報を得るのには、アイツのスキルが相性が良いんだけどな。
「失礼致します! ルイス殿が及びなられた冒険者がいらっしゃいました!」
私達が話し合っている一室に一人に騎士が報告に来て、待ち人の到着を知らせてくれる。
よしよし。これで安心だよ。
「待ち人来るだ。案内をお願いしたいがグラン、大丈夫か?」
「あぁ、頼む! ハッキリ言って、もう我々には打つ手がないのだ」
「私も暗殺ギルドを甘く見ていました……師匠がいなければ、どうなっていたか。情けない話です」
う~ん。グランもクロノも思ったよりも心の疲労が大きい。
周囲を守る為に神経をずっと張っていたんだろうな。
「気にするな。暗殺ギルド自体、滅多に出くわさない連中だからな。――それでは、その冒険者を呼んで下さい」
「かしこまりました!」
私の言葉に騎士はそう言って出て行って数分後、一人の男を連れて来る。
その男は私を見付けると、楽しそうな顔で手を軽く振ってくる。
「よぉ~! 俺っちを騎士団に呼ぶなんてどういうつもりだルイス!」
「ジャック! よく来てくれた!」
私とジャックはそう言い合って、互いに力強く手を握り合った。
こいつが私が呼んだ冒険者――<ジャック・ヘッドジャック>
新聞などを手掛けたりする情報ギルドの一員で、もう長い付き合いになる男だ。
だるだるなコートにサングラス。無精ひげですらトレードマーク。
そんな見た目でも自信に満ちた態度こそ、彼の実力の高さの証明だ。
「早速だが頼んで良いか?」
「任せろ。戦友と、その弟子の助け。そして天下の騎士団様へ恩を売れるんだ。その気になれば、その日にどこを通ったかまで聞き出せるぞ」
「で、ではお願いします」
グランは気にした様子はなかったが、真面目なエリアは少しだけ警戒した様子だった。
いや、アイツの外見かも知れない。微かに酒臭いし。
きっと王都に来たからって羽目を外したんだな。
少し心配になりながらも私達は、頭領ダアナの牢獄へと向かった。
♦♦♦♦♦♦
騎士団本部・地下牢獄。
その最奥にある特別独房にダアナはいた。
椅子に固定され、鼻以外は全て拘束具で止められている。
口も呼吸は出来るが、話せないようにされ、管理が徹底していた。
「あらま~こりゃ念入りだねぇ。けど暗殺ギルドだ。無理もない」
流石にここまで来れば、ジャックの雰囲気も変わるよな。
ジャックも冒険者で強者と呼べる男だ。
暗殺ギルドの前でも、ふざけた態度はしない。
「ではすぐに口の拘束具を――」
「あぁ~大丈夫。いらないよ。欲しいのはテーブルかな、この小さいテーブル借りるよ?」
ジャックはエリアを止めて、備え付けの小さなテーブルを傍に置いた。
そのテーブルに、彼は仕事道具の手帳を開いておき、その上に左手を置く。
そして右手は、そのままダアナの頭へと置いた。
――瞬間、ジャックはスキルを発動した。
「第一スキル『
ジャックの両手が光る。そしてすぐに異変は起こった。
彼の左手が置かれた手帳へ、彼は何も書いてないのに文字が次々と記されていく。
これがジャックの能力だ。相手の頭へ手を置き、空いてる手を何でも良いから載せると知りたい情報が記される。
これ程、尋問したい相手へ特効スキルはそうそうない。
彼自身も強いから、口封じを狙った者も返り討ち遭うからな。
そしてスキルを発動して一分ぐらいでジャックは手を放し、手帳の記された部分を破ってエリアへと渡した。
「ほれお嬢さん。これで依頼は完了だ」
「えっ、まさかこんな簡単に――なっ! この情報は!?」
ジャックの仕事の早さにエリアが驚くが、メモを見て驚愕している。
何が書かれているんだろう。
「ジャック、何が書かれているんだ?」
「なぁに。想像通りのもんだけさ。依頼人、依頼内容、アジト。そして、こいつが気になった物とか色々よ。それよりも依頼金って貰えんのか?」
「あぁ、それなら私が出す――」
「いえ、それは騎士団からお支払いする。だが少し待っていてくれないか。この情報が正しいか調べたい」
「おぉ~別に構わんよ。待っている間の飯は奢ってくれよ?」
相手が騎士団長でも余裕たっぷりだな。
だが、それだけ自信があって後ろめたくない証拠だ。今回も頼もしいよ。
「流石は師匠の御友人、スキルの発動速度もそうですが……感服します」
「おぉっと、あのオリハルコン級ギルド長に褒められるとは嬉しいね。しっかし、裏ギルドとの抗争の噂。どうやら本当だったみたいだな。まさか暗殺ギルドまで出してくるとは」
クロノからの言葉にジャックは調子の良い感じで笑った。
「だが、お前のお陰で撲滅させる作戦が立てられるだろう。私も弟子が心配でね。参加する気だがジャック、出来れば手伝って貰えないか?」
「おいおい人使いが荒いねぇ……と言いたいが、構わんよ。寧ろ、こっちから頼みたかった。情報ギルドとして、三大裏ギルドの一角の落日……見て世界に知らせねぇとな。それに、お前さんの傍にいれば死ぬこともあるまいよ」
お互様だろうに。本当に心強いよ。
私のスキルを弟子以外で知っている者は多くないが、ジャックはその数少ない内の一人だ。
彼の戦力があれば私も余裕が持てるし、多分ミアも来るだろう。
これ以上、弟子達に危険を晒したくない。
子離れ出来ない親の様だが、これぐらいの我儘は許しておくれよ。
――そして半日後、エリア達騎士団の動きによってジャックの情報の正確性が証明された。
同時にアジトの場所と『骸の贄』のボス・グアラもそこにいる事が判明した。
アジトは王都から南東にある廃墟となった砦跡。
それを聞いてエリアは、そこも調べたのに怒っていたが、それだけ隠すのが上手い相手と言う事だ。
追い詰めた骸は何をするか分からない。
切り札的な道具を隠しているかも知れないな。
私は何かあるかも知れない頭の隅に入れながら、騎士団とギルドによる『骸の贄』討伐作戦立てに参加するのだった。
♦♦♦♦♦♦
「まさか王都に来て、最初の仕事がダンジョンではなく裏ギルドの討伐とはね」
あれから数日後、私は目の前に広がる光景に圧巻な思いだ。
『骸の贄』のアジトの砦を取り囲む騎士団と王国兵。
そして、クロノのオリハルコン級ギルド『黒の園』の者達。
後は他にも協力を頼まれた多数のギルドもいる。
治療・道具補充担当のギルドや、相手が人身売買を行っていたからかエルフ族のギルドも多いな。
他には傭兵ギルドや、手練れの冒険者もいる。
グランやクロノ達が選別したのもあるし、火事場泥棒目的の連中はいないと信じよう。
けど私は冒険者なんだけどね。
もう歳だし、まさかこの歳で抗争に巻き込まれるとは。
あぁ、思っただけで肩が痛いよ。
「も、申し訳ありませんルイス殿……し、しかしルイス殿が傍にいると、わ、私も嬉しいというか……その……」
「何ぼそぼそ喋ってんだ、お前? それよりもセンセイ! どっちが先にボス倒すか勝負しようぜ! 勝負! 勝負!」
「おぉおぉ! 両手に華だなルイス! 羨ましいぜ!」
左右をエリアとミアに囲まれて服の袖や、腕を掴まれてる私を見てジャックは笑ってるよ。
両手に華って言っても恋心じゃなく、頼もしい存在で安心するからってだけだよ。
ミアに関しては未だに子供っぽいからクロノ以上に心配だ。
「けどさセンセイ! 他の弟子仲間にも連絡しなくて良かったのか? 呼べば来るぜ!」
「流石に申し訳ないさ。既に参加する者達はグレンやクロノが決めているのに、そこで私が口を出すのは違うよ」
実際、呼べば来てくれそうだけど申し訳ないって気持ちが強い。
突然来て、仕事手伝ってなんて普通に嫌だろう相手も。
「ほれほれ、乳繰り合ってる暇はないぞ。――始まる」
ジャックの言葉にエリアは顔を真っ赤にするが、私達は砦の方を見る。
そこでは、もう逃げ場のない砦に対し、グランが降伏勧告を出している所だった。
「国王陛下の名の下に告げる!! ギルド『骸の贄』よ! 貴殿等の数々の所業! 既に全て把握されている! ただちに武器を捨て降伏せよ!!」
「黙れ!! 国の犬共が! 確かに想像以上に動きが速かったが……こうなりゃ徹底抗戦だっ!!」
あの砦の上で叫んでいる奴がグアラか。
こんな状況下でよく反抗できるな。
まぁだから裏ギルドのボスが出来るんだろうが。
「愚か者め。この数を見てまだ分からぬか」
「ハッ! ただの筋肉ダルマじゃねぇか! とっとと潰しちまおうぜ!」
エリアやミアもやる気満々だよ。
他の騎士やギルド達も、もう戦う雰囲気だし、こりゃ突入かな。
「ならば覚悟せよ!」
「そりゃこっちの台詞だ! これを見ろ!!」
そう言ってグアラが掲げた禍々しく光る宝石の様な石だ。
けど、あれヤバくないか。凄く汚れたマナだぞ。
マナに敏感なエルフ族もざわついてるし、狙撃でも良いから動きを止めるべきだ。
「誰か! アイツを狙撃してくれ!」
「もう遅いわ!!」
私が言ったと同時であった。
グアラは宝石を叩き割ると、一気に汚れたマナが砦を覆いつくす。
同時に砦で巻き付く蔓が一気に成長し、砦には結晶の様な物も生えてくる。
近くにいた鳥達にも異変が起きた。
肉体が一気に急成長し、爪などが刃物の様になって私達を威嚇する。
「な、なんだこれは!」
「落ち着け! 一回下がれ!!」
「騎士団! 隊列を崩すなよ!!」
慌てるギルドをクロノが治め、グランも怯まず入口を騎士達に固めさせる。
だが駄目だ。普通の突入をしてはいけない。
「これは一体!?」
「あれ? これって確か……」
エリアも目の前の出来事に驚愕し、ミアは何か思い出そうとしていた。
いや間違いなく知っているよ。昔、見た事あるぞ。
「なぁルイスよ……こいつ、まさか――」
察したジャックの言葉に私は頷くしかなった。
「あぁ……ダンジョン化だ」
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