第16話:三大裏ギルド
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※この話だけ三人称視点となります。
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王都歓楽街――平民、貴族、亜人関係なく訪れる場所があった。
華やかな佇む巨大カジノ<
その欲望に満ちた場所の、更に奥の奥。
オーナーが入室を許可した者のみが入れる、選ばれし場所。
その一室に丸テーブルを囲み、料理や酒を飲む三人の男女が座っていた。
このカジノのオーナーにし、歓楽街の儚き美の女王。
裏ギルド『
――<
裏に生きる若き者達を率いる、若きカリスマにして大頭。
裏ギルド『
――<
そして現在、壊滅の危機にある巨漢の肉体を持つ、最古参の裏ギルドのボス。
裏ギルド『
――<
王都の闇を支配する三人の頭。
その一つは既に風前の灯火だが、そのボスは腕を怒りで震わせながら酒を飲み続けていた。
スキンヘッドに刻まれた骸の悪魔の刺青も、今では彼には過ぎたる物でかない。
それを見ていた十六夜だが、特に興味がないのかキセルを吹かすだけ。
ただ、吹かしながら足を組むだけで彼女は、艶美な空気を周囲へと撒く。
露出が多く、素肌に鎖帷子、そして花魁の様に着崩す彼女の姿。
並みの男なら動作一つで悩殺されるだろう。
それが僅か二十五前後の娘の色香である事が、逆に言えば彼女の恐ろしさなのかもしれない。
そして、そんな彼女の行動に顔を真っ赤にしながらも目背ける、オールバックの青年。
黒い革製のジャケットを羽織り、両手には彼の相棒の鉄製のグローブがあった。
常在戦場。常に武装し、何があっても対応しようとする彼はまるで一匹狼。
その視線はグアラへと向けられていた。
「三大裏ギルドも終わりだな」
「ッ! んだと、このガキヤァッ!!!」
グアラは怒りでジョッキを壁へと叩き付けたが、十六夜のブラッドも一切怯む姿を見せない。
「どれだけ騒ごうが変わらない現実。傘下のギルドは壊滅か自首。幹部達も大半が死んだか投獄。この状況では、そう言われるのも無理はないでしょう」
十六夜は静かな声で言うが、内心では哀れだと見下していた。
既に十六夜・ブラッド両名の耳にも届いている。
騎士団・オリハルコン級ギルド連合と『骸の贄』の戦争。
だが結果は先程の会話の通りだ。『骸の贄』は壊滅状態。
その報復が暗殺ギルドを雇って、騎士や敵対ギルドへの嫌がらせでは救いもない。
「哀れなもんだ。アンタが首を差し出せば助命できた連中もいたろうに。どう足掻こうが終わりなんだ。だったら最後に潔く首渡して、部下達を守んのが頭の仕事じゃないのか?」
「ふふっ……それが出来るぐらいの器ならば、最初から、この様な戦争……いえ小競り合い等、起きなかったでしょうに」
あ
ブラッドの言葉に十六夜も笑う。
所詮は数だけは多く、暴力で全てを黙らせてきた者達だ。
頭がアホなので救いも無く、同情すらしてしまう。
今回もいつも通りにやったのだろう。
その結果がこれだと、十六夜もブラッドも馬鹿にするだけマシな対応だと思っていた。
「やましいわ小娘に若造が!! まだ俺様は終わっていない!! 十六夜!! 金を寄越せ!! 若造は兵隊だ!! お前等も戦え!! これは連中と三大裏ギルドの戦争じゃ!!」
「お断りします」
「俺の大事な仲間を、テメェに貸せるかよ」
「この腰抜け共がっ!! 良いから寄越せ――」
グアラが二人へ飛び掛かろうとした。まさにその時だった。
――グアラの頬の傍を、鋭利なクナイが飛ぶ。
「黙りなさい」
投げたのは十六夜だった。
飛んだクナイは壁の動物の剥製を貫通し、そのまま壁に突き刺さる。
「裏の掟。それは表の人間を食い物にしないこと……そうする事で王国側の我々を見逃していたのですよ?」
「何が食い物にしないじゃ!! 小娘! 貴様も同じだろうが! カジノでどれだけの表の人間を養分にしとる!!」
「私に言われましても。なにせ合法ですので。払えない人間を借金漬けにするなど、今では古い。こちらとしては、資産のない者を入れない様にしてますし、多額の負けや、借金が出来た客には何度も忠告しております。なのに賭け事をする、それらは全て自己責任でございます」
「実際、十六夜さんのカジノや娼館は国からの視察を受け入れている。賄賂が通じねぇ騎士同伴でだ。それに比べ、テメェは人身売買や麻薬密売。好き放題してただろうが」
十六夜とブラッドの言葉に、グアラは悔しそうに拳を握るが言葉は詰まっていた。
「何より、そんな事をすれば利益にならないのです。利益とは金――だけではありません。返せない人間を借金漬け、捕まえた女性を無理矢理に娼館に。そんなんでは目先の利益は得られても、真なる利益にはなりませんよ」
「だからオレの方も若い連中に奉仕活動をさせてる。そうする事で表から信頼を得られ、仕事を貰える。盗みや殺人をしなくても良くなる綺麗な仕事だ」
そのお陰で今では殆どが、良い顔になったブラッドは思い出す。
表の人間から笑顔で挨拶をされる。
それだけでも、裏の若い連中には救いなんだとブラッドは考えていた。
「綺麗ごとやろう!! そんなもの!! 直接だろうが間接だろうが! この中で血に汚れてない奴がおるか!!」
グアラはそう言って自身の得物であるソードアックスを持った。
――瞬間だった。
「死にたいのですか?」
「――っ!」
十六夜の殺気が飛ぶ。
「ふふふ……不思議でしょう。 素肌を殆ど晒し、私の大事な場所だけを隠す私の衣服。そんな身体のどこに武器があるのか? 知りたいですか? 見たいのですか?――そして死にたいのですか?」
彼女の表情はとても魅力的に見えた。
まるで食われると分かっても、花に近寄る虫の気持ちを教えてくれるような魅力はスキルだと錯覚させてしまいそうだ。
「ぐっ! こ、小娘がぁ……!」
グアラは悔しそうにしているが、既に心は折れて十六夜に向かう気はなかった。
勿論、ブラッドにもだ。
堕ちたものだと、十六夜とブラッドは呆れて殺気を締まった時だ。
勢い良く扉が叩かれた。
「ボス! 大変です! 暗殺ギルドの連中が!」
「あぁ! どうした! 入って来い!!」
本当ならば十六夜の許可がいるが、十六夜は相手にする気もないのかキセルを吹かして無視する。
そして部下は入って来てすぐにグアラへと知らせた。
「大変です! 差し向けた暗殺ギルドがやられました! 頭領がやられたので依頼は消えます!」
「なんやと!! どこの野郎にだ! 騎士か!」
「いえ、それがダンジョンマスター……と呼ばれる冒険者にと」
「っ! ダンジョンマスター!?」
その言葉に真っ先に反応したのはブラッドだった。
驚いて目を丸くする姿は珍しく、十六夜もグアラも興味深そうに見る。
「なんや知り合いか?」
「あっ……いや、昔にちょっと依頼した事がある。生きる伝説の冒険者だ。どんな危険度のダンジョンも生きて返ってくる実力者だ」
「聞いた事があります。誰もが諦めるダンジョンにも入り、必ず生きて帰る冒険者。――しかし半伝説とも付く、よく分からない評価もある方では?」
「それはあの人――ダンジョンマスターは故郷から出ようとしない。それを知ってる依頼人や冒険者仲間が一歩引いて宣伝するから、そんな半端な評価になるんだ」
ブラッドは妙にダンジョンマスターに詳しかった。
その事に二人は疑問に思ったが、グアラはそんな場合ではない。
「どうしますかボス! 大丈夫だと思いますが、万が一連中が口を割ってアジトがバレたら!」
「グッ! ええい! 今すぐ全戦力をアジトへ集結させろ! こうなったら最後の全面戦争や!!」
グアラは自棄になった様にやる気を出すが、十六夜は呆れた様にキセルを置いた。
「馬鹿としか言いようがないですね。そんな事をすれば、動きをすぐに悟られますよ?」
「そっちの方が好都合や! こうなったら切り札を使う! あれを使えば……ガハハハッ! 楽しみや、騎士共と冒険者共の首をここに持って来てやる! そん時はお前を抱くで、十六夜!」
「どうぞお好きになさりなさい」
万が一にも起きないだろう。
絶対はないと思っている彼女ですらも、今回だけは違った。
そしてグアラが出て行くと、彼女の興味はブラッドへと移る。
「しかしブラッド君、あなたはダンジョンマスターに詳しいのですね」
「……さっきも言いましたが、昔に依頼をしたからです。今の状況とかは知りませんよ?」
そう言い切るブラッドだったが、十六夜は一瞬だけ彼が目を逸らしたの見逃さない。
彼女は扇子を開くと、ゆっくりと口を隠した。
「ダンジョンマスター……ですか」
小さく呟いた彼女の言葉。
それは確かな、楽しめそうだという意地悪な感情があった。
そんな知らぬところで、新たな動きが起ころうとしている事をルイスはまだ知らない。
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