第18話:冒険者+5:落日怨壁・魔葬砦
「ダンジョン化だと……!」
「その通りだ!! これが『骸の贄』の!! 俺様の最後の砦――
グアラは高らかに叫んでいた。
ダンジョン化し、異様な姿へと変わった砦――落日怨壁・魔葬砦の上で。
「師匠! これは一体……!」
クロノが急いで私の下に来たが、既に事態は一刻を争う様だ。
「お前も、噂は聞いた事はある筈だ。汚れたマナを込めた魔石の事を。――本来ならば、負のマナによって長い年月を掛けてダンジョン化するのが自然の流れだ。しかし、その魔石は急激に土地のマナを汚し、仮初のダンジョンに変異させてしまう」
「それが先程の石なのですか!?」
「……何とも言えない」
エリアが私に真意を聞いてくるが、私にだって確証はない。
実際、見たのは今日が初めてだ。
そもそもが、新規のダンジョンが増えた時期があって、その時に流れた噂話でしかなかったんだ。
「だが、これは間違いない。この廃砦はダンジョンになっている!」
腐っても裏ギルドの長か。
まさかこんな切り札を――いや、これは制御できるものじゃない。
ただの道連れを作りたい破壊願望だ。
「グアラ……か。――っ!?」
私は不意に屋上にいるであろうグアラへ、意識を向けた時だった。
レベルが急激に変化した。
――レベルが<63>に……!?
意識を向けた事で<+Level5>が、グアラを対象にしたのか。
だが、少し対象が曖昧な感じがするし、これは嫌な予感だ。
「センセイ、どうしたんだよ? 突然、静かになってよ」
「全員に伝えろ。このダンジョンにはレベル<58>の何かがいると」
私の言葉に周囲が一斉にざわつき始めた。
「レベル<58>だって! そんな! 何かヤバい魔物でも手に入れたの連中は!?」
「情報ではグアラ自身のレベルは<49>の筈だ。間違いじゃないのか!」
やはり騎士や冒険者達が騒ぎ始めたか。
だが教えずに入って、その存在と鉢合わせして死ねば私は後悔する。
「師匠……確かですか?」
「第一スキルのみでの判断だが、そのレベルがいるのは間違いない」
「それはまずいな。そんな奴がいるなら俺を始めとした、一部の者しか対抗できないだろう」
クロノとの会話を聞いていたグランも、流石に頭を捻っていた。
どうやらダアナ以外の存在の可能性。そっちの方が高いと思って良いようだな。
仮にスキルや薬物で一時的な強化をしたとしても同じ事だ。
どうやらダンジョンの仕事が出来そうだ。
「グラン。この砦の見取り図を見せてくれ」
「うむ。エリア!」
「こちらになります」
エリアが私の前に砦の図面を持って広げてくれる。
その図面には作戦の事も記されていて、私はそれを踏まえて考え始める。
「玄関からのエントランス。そこからは左右と正面に分かれてるのか」
そしてエントランスを制圧後、そこを拠点として全体を制圧する作戦だった様だ。
そうと分かれば話は早い。
私はすぐにエルフ族の者達を探し、そのリーダー格と思われる女性エルフへ手を振った。
「そちらのエルフ族の方々、すまないが来て貰えませんか!」
「なんでしょう」
女性エルフはクールな態度で来てくれると、私は広げている図面を見せた。
「このエントランスを拠点にします。だから……あなた方、エルフ族の力をお借りしたい」
私はそう言って頭を下げる。
エルフ族との付き合いだって長い。彼等の文化も知っている。
立場があろうが、決して露骨に上からでは駄目だ。
礼を持って接すれば、誇り高いエルフ族も礼で返してくれる。
「……成程、そう言う事ですか。アナタは我々、エルフ族の扱いをよく知っている。――確かに、今ならば間に合うかもしれませんね」
一瞬、形だけと思われたかとヒヤッとしたが、どうやら察してくれたみたいだ。
「お願いできますか?」
「これは人身売買の被害にあったエルフ族としての敵討ちでもある。その解決の為ならば、喜んで力を御貸し致しましょう」
女性エルフは微笑みで頷き、承諾してくれた。
それを見てジャックも頷いていて、どうやら察してくれたようだ。
「成程、エルフ族へか……確かに成りたてのダンジョンなら可能だな」
「あ、あの……何をなさるんですか?」
エリアが冒険者だけで話が進むので困惑した様子だったが、こういう時こそ相談役の出番だな。
「今からダンジョンの講習をしよう。今からエルフ族の方々に行ってもらうのは――『浄化』だ」
♦♦♦♦♦♦
「……浄化は終わりです。これでエントランスだけですが、ダンジョン化が解けて正常化したでしょう」
祈りによって、マナを浄化したエルフ族達18名が一斉に立ち上がった。
古き時代から生きる聖なる亜人であるエルフ族は、唯一ダンジョンのマナを浄化して正常化させれる者達だ。
人数に限られていた為、砦全ての浄化は無理だったが、これでエントランスだけは安全圏になったぞ。
「……うっ」
「あっ……!」
立ち眩みの様に倒れそうになったリーダーの方に気付き、私は咄嗟に駆け寄って支えた。
「大丈夫ですか! すみません……浄化は、かなり負担になる事を知ってたのに、私は――」
「フフ、不思議な人間。でも何も言わないで。これは私達、エルフ族にも関係あること。『骸の贄』は我等エルフにとっての怨敵。奴等を滅ぼすならば、この程度の負担など……!」
なんて気高い方々だ。負担は皆、同じく大きかった筈なのに。
誰一人として顔に覇気は消えていない。弱音も言わない彼女達に敬意しかない。
「ありがとうございました。ですが、少し休んでください。『骸の贄』のメンバーだけならともかく、エントランス以外は未だダンジョンしています。きっと影響を受けて魔物化した動物もいるでしょう」
「……そうですね。悔しいですが、休まなければ足手まといになるでしょうね。ですが、きっと私達も戦います。ですので、それまではお願い致します。――ダンジョンマスター」
「……はい!」
私達は頷き合って手を握り合った。
「……ケダモノ」
「なんで!?」
手を伸ばされたから握って応えたのに、なんでエルフの方はそんな事を。
少しショックだったが、エルフ族の方々は騎士や他のギルドに守られながら、外へと出て行った。
「やっぱりエルフ族の人って難しいなぁ。どう思うクロノ?」
「私から見ると、あの気難しいエルフ族と普通に会話をした師匠に驚きですよ」
そんなに難しいか。敬意を持って接すれば良いだけだが。
ちゃんと敬意を持てば、エルフ族は敬語とかも気にしないし。
だがクロノは苦笑しているから、ちゃんと他種族との付き合い方を教えてあげた方が良さそうだな。
「ルイス殿! 作戦を話しますので、こちらへ!」
「よし、始まるなクロノ」
「はい。今度こそ終わらせます」
真剣な表情を浮かべるクロノを見て、少し安心だ。
この顔になったら、いつも以上に頭がキレるから頼もしい。
私は安心しながらテーブルや、騎士や冒険者達が佇む中央へと向かう。
既に裏口の方では、何名か逃亡を謀った『骸の贄』メンバーを捕まえた話もある。
そして彼等から聞き出した限りでは、既に内部はダンジョンで地獄とのこと。
魔力の耐性が低く、影響を受けておかしくなった者。
ネズミや鳥が魔物化し、一部の瓦礫もダンジョン化の影響でゴーレムにもなったと聞いている。
「聞く限りでは廃墟系のダンジョンと類似している。流石にゴースト系はいないが、変異した動物系とゴーレムは確認。それに外からは蔓も見えた。だから植物系も間違いなくいるでしょう」
ダンジョン化した内部を実際に見てないから、確証はない。
だが聞いて限りでは典型的な廃墟型のダンジョンだ。
寧ろ、ゴースト系がいないだけ楽なもの。
私はクロノやエリアを始め、グランやジャック。
そしてクロノのギルドメンバーや、要請を受けたギルドの者達へそう伝えると皆も意見を出し始めた。
「逃げて捕まった『骸の贄』以外の者達は、砦内で魔物等と交戦。我々も中に入れば乱戦となってしまうのでは?」
「いや、魔物の数は少ないだろう。連中には手練れも僅かにいる筈だ」
「隠密ギルドの話では人数だけならば、まだ多いという。だが士気は低く、先程から裏口で捕えた話が途切れん」
「ならば好機だ。左右正面、どのルートからでもグアラがいるであろう屋上には行ける。それに魔物はダンジョン化の影響が間もない。今なら容易に倒せる!」
「油断はできぬ! 隠密ギルドからの情報では傭兵もいたと聞くぞ」
「戦力を分散……あまり得策とは言えんな」
「ご心配なく。分散を前提とした人数を投入しております。ですので分散で不利になる事はありません」
皆がそれぞれ言う中、クロノの言葉で終わりを迎えた。
そして暫く話した後、メンバー分けが決まる。
左側の通路はグラン率いる騎士達が。
右側はクロノ率いる『黒の園』のメンバーと一部のギルドメンバー。
私はエリアやミア。そしてジャックや騎士達と共に正面通路だ。
残った者達は後詰めとしてエントランスに残り、何かあれば援軍として対処。
まぁこれが一番安心できるだろうな。
グランもクロノもレベル<60>前後の実力者だ。
私も力量の瞳で敵の場所も分かるし、何より今のレベルは<63>を維持している。
しかもだ。もし意識をグランやクロノ、ミアに向ければそれ以上にレベルは上がる筈だ。
ならば何が来ても対処できる自信がある。
「では皆! 健闘を祈る!――突入!!」
グランの号令により、私達はそれぞれの通路へ突入していった。
♦♦♦♦♦♦
「グハハハハハッ!! これがダンジョン化というものか!!」
魔葬砦の屋上でグアラは高らかに笑っていた。
まるで自身で世界を作り変えているいる様に思えて、気が狂った様に大きくなっている。
時折、自身の部下の悲鳴が聞こえているが興味もなかった。
自身さえ生きていれば良いと。寧ろ、この程度で死ぬならば足手まといだ。
グアラ自身はダンジョン化については、部下への配慮などある筈がなかった。
そんな彼を姿を見ていた男がいた。
壁に背を預ける男は、腕に三本線の入った獅子の刺青を彫っており、炎の様に赤い髪を靡かせていた。
「酷い頭もいたもんだ。アンタ、それでもギルドの長か?」
「やかましいわ! ここでサボってないで、早よお前も行かんかい傭兵!!」
「分かってるって。だが、契約日は今日までだ。つまり守ってやるのは今日まで。明日まで長引いたら俺は<
男は怒るグアラへ一切の怯みを見せなかった。
それを見たグアラは激昂し掛けたが、それは踏みとどまる。
「勝手にせいや! 確か……キルグと言ったか若造。分かっとるな? 手を抜いた時は……!」
「お前等と一緒にするな。依頼されて派遣された以上は仕事はする。それが沈むと分かっている泥船でもな」
「ぐっ! ぐぅぅ……!!」
筋肉が膨れ上がる程に怒りを見せたグアラだが、再び思い止まる。
そして胸ポケットから小さな石を取り出した。
「まぁええ……俺様にはこれがある。これがあればまだ戦える!」
「また変なアイテムかよ。まぁ良いさ。俺は強い奴と戦えればそれで良い。――それじゃ、俺は行くぞ。王国騎士団長か、オリハルコン級ギルド長か。楽しみだな」
そう言い残してキルグという男は屋上から去って行った。
担当の防衛通路である正面通路へと。
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