第43話:冒険者+5:氷界の魔物達

 来たか、氷の世界の魔物が。

 これが嫌だったんだ。便乗者が多いと、餌が多いと同じ事だ。


 しかも相手の魔物が分散と言えば聞こえば良いが、便乗の冒険者は次々と殺されて戦力とは言えない。


 人の味だけ教えて、連中は目の色を変えてこっちに来るぞ。


『ガルルルル!!』


「エリア! 小太郎! 互いに援護しながらやるぞ!」


「はい!――魔法刃・光まほうじん ひかり!」


「最初、仕掛けます。―大火遁・爆炎弾・炎散!」


 エリアは剣に光の魔力刃を作って切れ味とリーチを上げ、小太郎はスノーデビル達に強力な炎魔法を放った。


 小太郎の炎魔法は拡散し、一気に地面やスノーデビルに直撃すると爆発の如く火柱が立った。

 そして怯んだ個体を、私とエリアが一気に斬り伏せる。

 

 小太郎も炎魔法を撃った後は二刀の小太刀を持ち、スノーデビルへと素早く仕掛けていた。


「第一スキル『脚部強化』!――疾風駆けはやてがけ


 小太郎は彼の第一スキルを使い、足を強化した事でこの銀世界でも隠密並みの速度で動き、次々とスノーデビルの喉元を斬り裂いて行く。

 

 流石は弟子では一、二を争う速さを持つ小太郎だ。ハッキリ言ってかなり助かる。

 そうやって私達は確実に数を減らしていったが、残念ながら私達は、血を周囲へ撒きすぎた。


『ギュゥゥゥイ!!』

 

「新手来ます!! あれは……アザラシ?」


 変な鳴き声と、エリアの声が重なり、私は新手の方を見て表情を歪めた。

 スノーデビルだけじゃなく、奴まで来るか。


「くそっ! アザラシじゃない! あれは<バンザラシ>だ。奴まで来たか! 気を付けろ! 氷陸の王者とも呼ばれた事もある魔物だ! レベルは<55>!」


 冒険者と、スノーデビルの死体を蹴散らしながら、巨体の魔物<バンザラシ>が私達目掛けて迫って来ていた。

 一見、アザラシみたいな姿だが、大きさは倍どころじゃない。まるで魔象だ。

 牙だってセイウチみたいにデカいし、前足に爪まであるんだぞ。


「た、助け――ギャッ!」


「た、頼む!――ぐわッ!」


 バンザラシにも蹂躙され、殺されていく後方の冒険者達。

 どれだけ実力のある人間の後ろを追っても、追う側の実力が足りないんだ。

 だったら、こうもなるさ。


「あぁ! 後ろの人達が――」


「構うな!! 仲間以外を気にする余裕はない! 目の前と仲間の後ろの敵だけを見るんだ!!」


「っ! は、はい!!」


 他の冒険者に意識を割いてしまうエリアに、私はつい強めの言葉で言ってしまったが、今は余裕はない。


 その半端な意識は自身を殺してしまう。

 幸い、彼女はすぐに切り替えたが、もし助けに行っていたら間違いなく死んでいた。


「それにバンザラシもそうだが、まずはスノーデビル達を何とかせねば」


「なら私が――光魔法・ホーリーブレード!!」


 私がそう言うとエリアが腕を空へ翳すと、光の剣が幾つも天に浮いて現れた。

 彼女はそれをスノーデビル目掛けて腕を伸ばすと、その剣は次々とスノーデビルに向けって行き、突き刺していく。


 それを見て私は思い出した。

 エリア――彼女はまだ二十歳ぐらいでありながら、レベルも<50>を超えた天才だ。 

 弟子や始高天の面々のせいで霞んでいたが、そうだ、彼女はこのぐらいは出来る。


「雷遁――雷閃光らいせんこう!!」


 そこへ小太郎も、雷を纏わせたクナイを数本、スノーデビルへと投げ、そのまま数匹を貫通して倒していた。


 良し、これでスノーデビルは大体全滅だ。

 あとはバンザラシだけを――


「う、うわぁぁぁぁ――」


「ば、化物が――」


『バオォォォォォォン!!』


 そう思ったが、便乗者達の叫び声と、その象の様な鳴き声に、私は嫌な予感を抱いた。

 振り返ってみると、そこには案の定となった冒険者達の姿があった。

 

 そして彼等の氷像が砕けると同時に、その背後から奴が姿を現した。

 

「おいおい……冗談だろ。よりによって、コイツが来てしまったか!」


 私達の目の前に現れたのは――だ。しかも骨の象。

 皮も何もない骨だけの、氷で出来た骨の象が冒険者達を凍らせ、破壊し、私達へ近づいて来ていた。


「師匠! あの魔物を知っているんですか?」


「あぁ勿論……!」


 傍に来た小太郎とエリアと合流した私は、彼の言葉に頷くしかなかった。

 ツンドラ・マウンテンのボス――ツンドラオロチ以外で、私が会いたくなかった魔物だ。


「奴は、このニブル雪原の伝説のボス魔物――<氷界の魔象>だ。レベルは<65>で、滅多に姿を現さない魔物なんだが、どうやら騒がしくし過ぎたか」


「レベル<65>!? 素のグラン団長よりも上のレベル!」


「……どうしますか、師匠?」


 エリアは驚き、小太郎は私の言葉を待っている。

 残念ながら逃げるのは無理だし、便乗してきた冒険者は今ので全滅した。

 こうなれば来て早々、覚悟を決めるか。


「氷界の魔象は私が相手をする。――小太郎とエリアはバンザラシを頼むぞ!」


「――承知!」


「はい!」


 二人共、理解が早くて助かる。

 私の言葉にすぐにバンザラシの方に向かって行き、私はそんな二人へ意識を向けようとした氷界の魔象へ、炎魔法を投げて挑発した。


「お前の相手はこっちだぞ……来い!」


『ッ!――バオォォォォォォン!!!』


 うっ! くそ、どこで鳴いてるんだよ。

 喉も無いだろうに、頭に響く声で鳴きやがって。


 だがこっちも加減はしないぞ。

 二人の方も心配だし、出し惜しみは無しだ。


「グラビウス――マーズ・ブレード」


 私は重力魔法と炎魔法を混ぜた技――マーズを使い、ブレードへ纏わせた。

 周囲の雪が一気に蒸発し、その光景を見た氷界の魔象は警戒心を強めたのか、身構えたと同時に、全身から吹雪の様な氷の魔法を放ってきた。


 あれはさっき、冒険者を氷漬けにした奴か。

 だったら迎え撃ってやる。


 私はブレードを前に翳し、マーズの魔法を、盾の様に円盤状の形として前方に出した。


「グラビウス・マーズ――マールス!!」

  

 マーズの盾が奴の氷魔法とぶつかった。

 そして一気に蒸発して水蒸気が出たが、それもすぐに氷となってダイヤモンドダストの様に宙に舞った。


 そして奴の攻撃を防いだが、防がれたと分かったら氷界の魔象は私へ突撃で迫って来た。


「躾がなってないな!!」


 私は咄嗟に、事前に合成して作っていた爆発するナイフを四本ほど、奴へ投げた。

 頭部・牙・脚部へ刺さり、同時に爆発して奴は、その場で態勢を崩して勢いよく倒れた。


 その拍子に氷で出来た身体の一部が砕け、他も亀裂が入っていた。

 だが奴は、すぐに立ち上がり、徐々に、その身体は再生して始めていた。


「再生持ちと縁があるな、最近は……!」


 デーモンゴーレムから骸竜、そしてコイツだ。

 だが待てよ。コイツは身体が氷で出来ている。

 つまり魔生物。そうなると、やはり高火力で肉体を消し飛ばすしかないか。


『バオォォォォォォン!!』


 私は魔力を溜めようとしたが、それよりも先に氷界の魔象は両前足を地面に叩き付けると、私目掛けて地面から氷柱が次々と生えてくる。


「そんなのも出来るのか!? 間に合え! 魔法刃――マーズ!」


 私は急いで魔力を溜め、右腕のブレードへ全力で魔力を込めた。

 すると、それは巨大な炎の刃となる、熱もリーチも重力も、全てが桁違いなもだ。


 今の私のレベルは、氷界の魔象を対象としているから<70>まで上がっている。

 これなら好きに魔力を使える。


「消し飛べ!! 魔法刃マーズ・アーレス!!」


 私が生み出した巨大な刃は、飛び出してくる氷柱ごと、氷界の魔象を横薙ぎで一刀両断した。


『バオォォォォォォ……ン』


 そして最後は、その身体を蒸発させながら消滅していった。

 全く、二度と会いたくないな。アイツの寒さのせいで古傷も痛むんだよ。


「……っ! そうだ! エリア! 小太郎!」


 私はすぐに思い出し、攻撃音が聞こえてくる背後へ振り返る。

 そこでは、エリアと小太郎が今まさにバンザラシと激闘を繰り広げていた。


雷光脚らいこうきゃく!」


天翔剣・光臨てんしょうけん こうりん!」


 小太郎がバンザラシの背中を雷脚で切り刻み、エリアが強力な光剣で奴の牙を斬り落とした。


「見えた――好機!」


 そこへ小太郎が雷を纏わせた手裏剣を投げると、そのまま手裏剣はバンザラシの肉体を貫通する。

 バンザラシは痛みで吠えているが、追い詰めた事で目が血走っていた。


 だが小太郎の言う通り、好機だ。

 私も援護しなければと、ブレードを構えた時だった。

 それよりも早く、エリアがバンザラシへ駆けて行っていた。


「魔法刃・光――残光!」


 彼女の斬撃を見ていた私も、そして小太郎も思わず音と時が止まった気がした。

 あまりにも速い彼女の斬撃――黄昏のエリアと呼ばれた彼女の剣技によって、バンザラシは最後は叫ぶ事も忘れ、肉体が両断されて絶命した。


――流石だ。


 私は思わずいつもの様に褒めようとしたが、この周囲の寒さによって我に返る。

 そんな事をしている場合じゃない。早く、ここを離れなければ。


「良し! 急いで荷物を持って離れるぞ! 血の匂いを嗅ぎつける連中もまだいる筈だ。可能な武器は回収、無理なら諦めろ! 急げ!」


「えっ、は、はい!」


「……承知」


 二人はまだ戦闘からの切り替えが出来ていたなかったが、私は焦る様にそう言って荷物を拾って背負い直した。

 二人も荷物を回収し、二人が頷くのを確認した私は、すぐに手でこっちだと誘導した。


 そして魔物と冒険者の遺体を大量に残した場所から、私達は慌ただしく逃げる様に跡にするのだった。

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