第29話:冒険者+5:決着、創世の終わり
この力・魔力・速さ。そしてレベル――この全てが僅か5だけでも、君は私に届かない。
まさか時間が空いたからと、軽い感じで依頼を受けた結果、こんな戦いをする事になるとはね。
人生、本当に分からないものだ。
実際、何で私は彼と戦っているのもよく分からないよ。
ただ、彼が考えている事は碌な事じゃないという予想だけだ。
「君を止めるよ……ノア。もう君は私に、僅かだけだけど絶対に届かない」
「ほう……ほざきますね。この『覚醒』スキルで、潜在能力を解放し、天に選ばれし私が、更なる高みへ昇った私が! 貴様如きに劣るものかぁ!!」
ノアはそう叫びながら宙を舞いながら、私へと迫った。
そしてアストライアを振るい、私もそれをガントレット・ブレードで受け止める。
「ぐうぅ……!」
「劣等種めぇ! 私はぁ……創聖のノア! 新世界を創世する『始高天』の長よ!」
ノアは叫び続けながら私と鍔迫り合いをするが、拮抗はすぐに終わりを迎える。
私が少しずつ、本当に少しずつだがノアを押し返し始める。
「馬鹿な……! 魔力だけではない! 力も! 力もぉ……上がっている筈だぁ!!」
「僅かに私の勝ち……だな!」
私はガントレット・ブレードを力強く振り、ノアを吹き飛ばす。
地に足が付いてないからか、よく飛ぶものだ。
「嘗めるなダンジョンマスター!!」
空中で急に止まり、ノアは素早く私に迫ってアストライアを振ろうと再度迫る。
私はそれを受けようと決め、ガントレット・ブレードを振るい、両者の武器がぶつかるが力は私の方が上になっている。
ぶつかればノアが押し負け、少し吹き飛び、またすぐにぶつかっても吹き飛ぶ。
互いに高速で移動し、そんなぶつかりを何度しただろう。
やがて、私はのノアの動きが鈍った所を見抜き、そこへ強烈にガントレット・ブレードを叩き込んだ。
「ガハッ!!――ありえん! ありえん! だが魔力ならば! アストライアよ!!」
「むっ! 来るか聖槍剣……!」
ガントレット・ブレードの直撃で出血しながら吹き飛んだノアだが、その場で空へ飛んでアストライアを掲げると、アストライアが輝きを発した。
そして、その刃の先端に巨大な魔力の球体を生み出した。
おいおい、この周辺を消滅させる気か!
まるで言う事だけはスケールが大きいが、やってる事は駄々っ子じゃないか。
それを撃たせる訳にはいかない。私も迎え撃とう。
私は両腕にそれぞれ、重力魔法と火の魔法・風の魔法を出現させた。
溢れる魔力で贅沢に、そして存分に使って出現させた膨大な炎と風を重力魔法で包み込んだ。
そして私の腕には重力魔法のよって球体となった、炎と風の魔法が残る。
「グラビウス――マーズ・ジュピター」
「な、なんだあの魔法は!? しかし、アストライアの無の魔法ならば!!」
大した魔法じゃないよ。
魔力のゴリ押しで生み出した魔法を、重力魔法で包んだだけなんだ。
名前は適当だ。脳裏に過った、適当な名前。
「消えよダンジョンマスター!!――〈
「……させないよ」
ノアが放ったと同時に、私も二つの魔法を放ち、ぶつける。
同時に起こるは無・重力・火・風――四つの属性の激しい魔力干渉による、魔力の嵐だ。
まるで嵐、爆発、とんでもない爆風が周囲に及んだ。
やがてそれが晴れると、私達の周りには雲一つない蒼穹となっていた。
「馬鹿な……ありえん! 伝説の聖剣だぞ! なのに何故だ! 貴様は何なんだ!?」
「何度言っても、私はこういうよ。ただの冒険者……しかも、おっさんの」
「それがありえんと言っているのだぁ!! 私の全ての魔力を使い、貴様を滅する!!――
夢でも見ているのか。
ベヒーモスの巨体を大きく超える、アストライアを模った魔力の剣が宙に現れたぞ。
しかも周辺に、同じ形の小さな剣が大量に回りながら浮いている。
青空で、しかも日の光と重なって本当に神の攻撃に見えるよ。
「……おいおい、本当に勘弁してくれ」
私の身体が悲鳴を上げているのに、まだ君はこんな魔法を撃てるのか。
流石に逃げたいよ。四十肩もそろそろ目前な気がして、腰は逃げろと言っている。
能力は勝っているのに、肉体が歳で悲鳴をあげるとは閉まらないな。
「……本当に凄いよ君は。私には、そこまでの才能はない。だから出来る事は、使える魔法を一つにして、魔力の限りに放つだけだよ」
そう言って私は両手を前に出し、魔力の限りに属性魔法を唱えながら一つに纏め上げ始める。
――火・水・風・雷・重力。この魔法を一つにした、今の状態だから撃てる最大の魔法だ。
「終わらせよう……君を止めるよノア。何をするか分からないが、これ以上、私の大切な人達に危害を加えさせるのに。――私が我慢できない」
「小さい……小さいぞダンジョンマスター!! それだけの力を持っているのに貴様は何故! 世界を変えようとしない! 何故、その力を使おうとしない! デーモンゴーレムも貴様に掛かれば、すぐに倒せたであろう!!」
「規模の問題なんだよ……スライム同士の喧嘩と、ドラゴン同士の喧嘩。どっちが規模が大きく、強い力が生まれるか。そんな事は子供でも分かるよ」
どれだけレベルが上がろうとも、私は人間だよ。
老いもあるし、限界だって簡単に下がっていく弱い生き物だ。
デーモンゴーレムに簡単に勝てた? 簡単に言ってくれるな。
どれだけ強くなろうとも、魔力を纏わなければ肉体は人のまま。
巨大な質量の岩に勝てる筈がないだろうに。
岩を斬れても、岩と腕相撲したら負けるのは私だよ。
君だってそうなんだよノア。
「何を言っているのかが分からん! だが、これで最後だ! 貴様とここで出会えてよかった! ここで脅威を消せるのだから!!」
「私は不思議な気分だよ。まるで物語の最後のボスと、序盤で戦ってる気分だ。まぁ縛られない自由が売りの冒険者には、そんな展開もあっても良いだろうね」
「ならば自由のまま死ぬが良い!!」
ノアの叫びと共に私へ放たれる巨大な、無の究極魔法。
それに対し、私が作った魔法はあまりにも小さい。だが中身は折り紙つきだ。
私もそれを持ち、その魔法玉を究極魔法目掛けて投げた。
「――〈
投げた魔法は、無の究極魔法とぶつかった瞬間――その魔法を先端から砕く。
そして徐々にノアへと迫るが、ノアもアストライアを前に出して粘っていた。
「ありえん……ありえん!! だが分かる……分かるぞ……! 奴との差は殆どない……!! 少しだけ……少しだけの差だ!! なのに……なのに……何故――」
――私が負けるのだ。たった少しの差で。
最後にノアの、そんな言葉が聞こえた気がした。
それを最後に無の究極魔法は完全に砕け散り、ノアを呑み込んだ瞬間に大きく爆発する。
それと同時に私の『+Level5』の力が変動し、本来のレベル<36>――ってあれ、レベルが2上がってるな。
まぁ取り敢えずレベルが戻り、空からもノアが降って来て地面へと落ちきた。
その傍でアストライアも地面に突き刺さり、先程までの魔力も今はない。
魔力の嵐も完全に消え去ると、私は思い出した様にエミックの方を向いた。
『~~~♪♪』
そこにはピースサインをしているエミックと、その傍にボコボコにされて泣いているベヒーモスの姿があった。
全く、こっちが命懸けで戦っていたのに、お前は。
私は思わず笑いながらエミックに近付くと、エミックも近づいて来た。
そして私達は互いに拳をぶつけ合うのだった。
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