第30話:エリア&レイ 対 狂神のディオ(三人称視点)

 ルイスとエミックが、ノアとベヒーモスと戦っていた頃、エリアとレイもまたディオと戦いを繰り広げていた。


 更に正確にいえば、エリアとディオがだ。

 騎士団の誇りの為と、エリアがレイに頼んでディオと一騎討ちをさせてもらったのだ。


 結果、エリアとディオは剣を交え、レイは少し離れて岩に腰かけて見守っている。

 またレイだけは、ルイス達が向かっていた場所から生まれているであろう、魔力の嵐を見ていた。


「……すごい魔力」


 それは王国魔導衆である彼女からしても、異常な領域であった。

 自身のスキルや魔力。全てを使っても、近付く事が出来ても、到達は出来ないと分かる程に。

 

 何より、魔力の反応は二人分。その片方はレイも良く知るルイスのものだ。

 そしてレイは知っている。ルイスの魔力が、ここまで強くなっている、その意味を。


「……それだけ強い相手。でも先生が負ける事はない」  

 

 そう口にするレイだったが、微かに胸のざわめきを感じていた。

 彼女は心配していた、ルイスの事を。

 自身の師匠であるルイスの事をよく知っていても、レイは先程のノアという存在が気になって仕方ない。


――絶対に普通じゃない。先生の魔力がこれだけ上がるなんて、あのノアって奴。そうとう強い。


 本当ならば援護に向かいたい。だがレイはルイスに、ここを任されている。

 だから向かうにはディオを無効化するしかないが、それはエリアのによって、まだ掛かっていた。


「……騎士って、ホント馬鹿」


 目の前のディオという男。レイが見ても確かに強い。

 しかし自身と二人で挑めば、すぐに倒せる自身がレイにはあった。

――無論、レイ一人でもだ。


 時と場合も考えない。非合理な騎士の誇りとやらが、レイは好きではなかった。

 あと5分経っても決着つかなければ、自身で倒そうとレイは内心で、スタンバイを始めようとしていた。


 そして彼女がそんな事を考えているとも知らず、エリアとディオの戦いは続いていた。


「ハァァァッ!!――光竜波こうりゅうは!!」


「ハッ!――血の掟・魔壁ブラッド・ヘルウォール!!」


 エリアが剣から放った光魔法の竜は、ディオの――それが大きな牙と口のある壁となり、そのまま竜を喰らい粉砕される。


「アハハッ! 学習しねぇな! 俺のスキル『血の王ブラッドマスター』と、俺が作った血を喰らいし魔剣――<レッド・イーター>! この力の前に何度同じ事をするつもりだ後輩!!」


「クッ……ただの血の筈なのに固い。血液操作に、大量の血液を喰らっている魔剣……手強い」


 エリアの顔に焦りが滲み出る。

 彼女の身体は既に、ディオの型破りの剣撃を受けて傷が多くあった。

 

 それとは逆なのはディオだ。

 ディオは魔剣からの返り血を浴びてはいるが、それはダメージではない。

 まだエリアからの攻撃を、彼は一太刀も受けていなかった。


「ハッ! こんなのが後釜とは……随分、騎士団は人手不足なんだな。まぁエリート思考の奴等に、実戦経験での学習なんて無理だろうからな。――そう思えば、潔癖にしちゃ強い方か」


 ディオはエリアへそう言い捨てると、彼女は彼を睨んだ。

 しかしディオは一切、それに怖さを感じはおらず、寧ろ別の事を考えていた。


――こんな雑魚はどうでも良い。だが問題は長だ。この魔力、一体どういう事なんだ? 長が負ける筈はねぇと思うが。


 彼の心配はノアだった。

 長である彼の強さは身を以って知っている。だからダンジョンマスターといえど、ノアが負ける筈ないと疑わない。


 しかし、この場所からでも感じる魔力の嵐が胸騒ぎを抱かせる。

 万が一だ。本当に万が一を引いたとなれば、マズイかもしれないとディオの表情が変わった。


「わりぃが……遊びは終わりだ後輩。とっとと剣を捨てろ、そしたら見逃してやる」


「なっ! なんと破廉恥な! 一騎討ちの騎士へ剣を捨てろなどと! 最大級の侮辱ではないか!」


「それは強い奴の台詞だぞ後輩。良いか、弱い奴が誇りを語る。それこそが強い連中への、最大級の侮辱だ。ほざく前に、自身の弱さを恥じれ。――こっちはもう、テメェに関わってる場合じゃねんだ」

 

「っ! そんなこと……そんなこと……私が一番良く知っているぅ!!」


 ディオの言葉に対し、エリアは叫ぶと同時に魔力を解放した。

 自身が弱い事は、もう知っている。

 ドクリスの森で、魔葬砦で、デーモンゴーレムで嫌と言う程に。


 ルイスに背中を預けてもらえず、彼の弟子達だけが頼りにされているのも彼女は分かっていた。

 だから任務終わりに訓練もして、スキルも鍛えた。

 それでレベルも上がったが、まだ足りないと彼女自身は分かっていた。


 そんなエリアの想いが魔力に伝わったのか、その魔力は剛風を生み、光の様に輝いていた。

 それはディオも流石に考えを改めるしかなかった。


「……成程な。やるじゃねえか。弱いのは当然だな。原石は立派な物程、手が掛かるもんだ。先が楽しみだったが、今は相手をしてやる暇が勿体ねぇんだ」


――来い。その一撃、受けてやる。


 それはディオにとって気の迷いだったのかも知れない。

 もし自身が副団長のままだったらならば、この女を育てていたのは自身だったのかもと。

 だが自分はもう狂っていると、ディオは口元を歪めながらレッド・イーターと鞘を構える。


 そんな彼へ、エリアは最大級の攻撃を放つ。


「これが今の私の最大――天翔魔光剣てんしょうまこうけん!!」


 それは天まで届くと思わせる様な、巨大な光の斬撃だった。

 その斬撃は地を抉りながらディオへと迫り、それに対して彼もレッド・イーターを振るう。


「奥義――獄王剣・紅ごくおうけん くれない


 彼が放った黒に近い赤い斬撃。それはエリアの斬撃以上のモノとなって、彼女の攻撃を呑み込んだ。

 そして僅かに威力を落としたものの、そのままエリアへ直撃した。


「キャアァァァァァッ!!」


 エリアは咄嗟に剣で防いだが、所詮は気休めでしかない。

 そのまま彼女は吹き飛び、鎧がボロボロになりながらも地面へと落ちた。


「……この技を使う事になるとはな。だが手応えが浅い。まだ生きてるか」


 ディオはエリアが生きている事を、技の手応えで察していた。

 そもそも、死んでいたなら五体満足で済む技じゃない。

 鎧が見た目より丈夫なのか、それとも先程の技で威力が落とされていたのか。


 どちらにしろエリアが気を失った事で、ディオの意識は自然とレイへと向いた。


「さて嬢ちゃん……次はお前か?」


「そうだよ~とっととカモン!」


 そう言ってレイは杖で素振りを始める。

 

「ただのガキか。見たところ王国魔導衆の奴か……変人らしいぜ」


 ディオはそう言って小馬鹿にする様に笑った。

 魔導衆は変人が多いと聞く。実際、会った事はなかったが、目の前の小娘を見れば事実だったとディオはレイを見下す。


――だが、その評価はすぐに一変する事となる。


 突如、レイから魔力が溢れたから。

 先程のエリアの比ではない。とんでもない魔力量が。


「なっ! テ、テメェ……!」


 ディオは驚いた。そして恐怖を抱いた。

 見た目は小娘が似合う程の外見の女が、天に伸びる程の魔力を一人で使っているのだから。


「魔力限界解放……第一から第三スキル発動……肉体強化魔法・無詠唱発動……」


 しかも魔力はまだまだ上がって行く。

 レイがブツブツと何かを言う度にだ。


 それを見て気付けばディオは、レッド・イーターを持って走っていた。レイへと。

 

――この小娘。ここで殺さねば厄介な存在となる。きっと長は大丈夫だ。俺がやる事は、この小娘の抹殺!


 ディオはレッド・イーターへ魔力を込め、再び大技を放とうとしていた。

 それに対しレイは、素振りの時の様に杖を構える。

 その姿はボール遊びをする子供の様な構えで、そのふざけた構えがディオを更にイラつかせた。


「ふざけんじゃねぇガキがッ!!」


「超必殺――」


「死ね!! 奥義・獄王剣・天喰――」


 レッド・イーターへ魔力が溜まり、ディオはレイヘ振る――



 レイが杖をフルスイングした瞬間、ディオの意識は

 彼女は杖はそのままレッド・イーターをへし折り、そのままディオの腹部へ直撃し、最後に彼はとんでもない速度で吹っ飛んだ。


 そして巨大な大樹に激突すると、大樹にめり込んでいて磔の様な姿となって気を失っていた。


「しょ~うり。レイちゃんブイ!」


 誰もいない中、レイは一人で勝利をあげる。

 そんな時だった。巨大な足音と共にルイスが森林の中から出て来たのだ。


「ふぅ……レイ! エリア! 無事か!」


 自分達を心配しながら現れた、大好きな先生の姿をレイは見付けると駆け寄っていく。


「せんせ~い! 私は無事。でも副団長は負け。でも生きてる」


「えぇ!? だったら早く治療を――うっ、アタタタ……腰に来たな」


 そう言って悲痛の表情で腰を痛そうにするルイスだが、その背中にはノアが担がれていた。

 しかも後ろには、頭にエミックを乗せている半ベソのベヒーモスもいる。

 

 それを見てレイは一瞬だけキョトンとしたが、やがて笑顔をみせた。


「やっぱり先生は面白いね」


「レ、レイ……それよりも、少し腰に癒しの魔法か薬草を……!」


 辛そうなルイスを楽しそうに見るレイは、望み通り魔法を腰にかけてあげるのだった。

 そして生態調査の筈だった依頼は、こうして秘密組織の長と幹部撃破――という形で幕を閉じ、彼等は付いて来るベヒーモスを連れながら王都へと戻って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る