第五章:モンスタースタジアム

第31話:冒険者+5:新たな家族と餌代問題

 ガリアン森林から王都へ戻った後は大変だったな。

 事情説明したらクロノは真っ青になるし、騎士団も騒々しく動くし、王国魔導衆の人達もアストライアの存在に卒倒するし。

 

「なんで生態調査だけで、こうなるんですかぁ……!」


 クロノも頭を抱えていたが、私だって知りたいよ。 

 結局、魔封石の手錠や拘束具でノアとディオを拘束。

 駆けつけたグランも、ディオを見て大笑いしているし。


 ただ、最後に小さく――


「あの馬鹿野郎……!」


――って言っていたのは私の聞き間違いではないだろう。

 

 私が知らない二人の物語があるのだろうが、それよりも問題は始高天だ。

 その存在と、ノア程の男が仕切っていた以上、危険と判断して騎士団等は一斉に調査を開始したから暫くは安心できそうだ。


 アストライアもレイ達魔導衆で力を封印し、禁具の倉庫へ本体も封印される事となった。

 

 こうしてドタバタのガリアン森林での依頼を終え、それから数日後だ。

 私は新たな問題に直面する事になる。



♦♦♦♦


 ガリアン森林から数日後、私は王都の自身の拠点の前で頭を抱えていた。

 理由は拠点の家――その隣で繋がれている新たな家族のベヒーにあった。


「グルルゥ~ン」


「呑気だなぁ、お前は」


 日光浴しながら私やエミックに甘える様な声を出すベヒーに、思わず呆れてしまう。


 このベヒーモス――ノアのスキルで生み出された<タイラント・ベヒーモス>だが、ノアの手が入っている事で、本来の生息地ダンジョンに帰す事が出来なかった。 


 だからといって殺処分も可哀想だし、エミックや私には従順だから仕方なく私が引き取る事なった。


 だがデカイ。どう表現しようも二階建ての家と同じ大きさだ。

 だからテントを張って犬小屋みたいに住処を作ったし、近所の人々は絶句して怖がっていたが私や騎士団、ギルドの必死の懇願で何とか説得。


 ベヒーが思ったよりも大人しいのもあって、少しずつ受け入れられて来たが、やはり問題はある。


「餌代だよなぁ……」


 このベヒー。ハッキリ言ってめっちゃ食べる。

 牛を最低でも五頭は骨ごと食べるし。雑食なのか、草も山ほど食べるんだよ。


 ノア討伐の功績で国王陛下が餌代を援助してくれてるとエリア達から聞いたが、それもずっとなのは申し訳ない。

 クロノやミア達、故郷のギルドにも事情を話して援助してもらっているが、何か言い案はないかなぁ。


「グルルゥ~ン……」


「大丈夫だ。捨てる様な事はしない。引き取ると決めた以上、最期まで一緒にいてやるさ」


「グルゥン!」


『~~♪』


 私の言葉にベヒーは嬉しそうに嘗めて来る。

 エミックも闇の腕を出して、やれやれと表現しているが、お前も責任はあるからな。

 あとベヒー。あんま嘗めないでくれ。お前が嘗めると、シャワー浴びないといけない程、濡れるんだ。


♦♦♦♦


「センセイ! いるかぁ!!」


「五月蠅いぞミア!」


「クロノもうるさい」


「ルイス殿、失礼します」


 シャワーを浴び終えた私の拠点に、ミア・クロノ・レイ・エリアが訪ねて来た。

 本当に君達、暇じゃない筈なんだが、よく私の所に来る時間があるな。

 

 いや、クロノの目の下に隈がある。無理してまで来るな! 寝てなさい!


「やぁいらっしゃい。今、お茶やコーヒーを入れるよ」


「センセイ! オレ、リンゴの果実水で!」


「貴様……良い加減にしろ!」


「良いよクロノ……一応、準備してあるから」


 クロノは怒ってくれるが、ミアは一緒に生活していた時期が長いし。

 ずっと子供舌だから常備はしていたよ。


「二人が揃うと、うるさい……やっぱり先生の一番弟子はわたし」


「ハァっ!? センセイの一番弟子はオレだろうが、ちんちくりん!!」


「忘れるな貴様等……師匠への弟子入りの順番なら、私が一番早いと言う事を!」


 そんな事を言い合いながら三人は睨み合っているよ。

 全く、そんな事で揉めている内は皆同じだ。

 他にも弟子達がいるが、皆こうだと思うと、よくこの間の宴会で揉めなかったな。


――今回の件でも腰が悲鳴をあげたし、早く引退したいが弟子が子供みたいだしなぁ。まだまだ駄目かな。


 私はそう思いながら皆に飲み物を置いて行き、最期は茫然としているエリアへ紅茶を差し出した。


「エリア、怪我は大丈夫かい?」


「えっ――は、はい! 怪我はもう大丈夫です。ですが、私一人ではディオに勝てませんでした。その事で少し……」


 うむ、エリアの表情が暗いな。

 確かに仮にも前任だった副団長のディオに勝てなかったのは、現副団長として思う事はあるだろうね。


 しかし私から見れば焦り過ぎだ。

 立場はあるだろうが、彼女は若いし、謂わば原石だ。

 時間が解決するだろうし、場合によっては経験次第で彼女は覚醒すると思うが。


「焦り過ぎだよエリア。君は強いし、確かな才能もある。原石は磨き続けてこそ宝石になるんだ。それが良い原石なら、慎重に磨かれるのも当然さ。急いでも良い、でも焦っては駄目だ。君のペースで歩むんだ」


「そう言ってもらえると嬉しいですが、レベルも上がっていたのに――そういえば、前から気になったのですが、ルイス殿のレベルは幾つなのですか? あのノアという男と戦ってる時に感じた魔力も踏まえると<70>は超え――」


「いや<36>だよ。前は<34>だからレベルが2上がったんだ」


「……えっ」


 私の言葉にエリアはカップを持ったまま固まった。

 あれ? そう言えばエリアには私のレベルとか、そもそも『+Level5プラス レベルファイブ』の事を言った事なかったか。


 思い出すと、この短い期間で色々とあり過ぎて何も説明してなかった気がする。

 

「いやいや! そんな訳ないじゃないですか……もう一度聞きますけど<80>ぐらいはレベルがある筈――」


「いや<36>だよ」


「……成程。能ある鷹は爪を隠すという事ですか。確かに、熟練の冒険者ならば何が弱点に繋がるか分からない。そう言う事ですね!」


 違う。本当にそんなレベルなんだって。

 でも駄目だ。あのエリアの輝いている瞳。絶対に信じない気だ。


「あっ……そういえばベヒーモスはどうですか? 最近、やっと市民からの苦情も減っているのですが?」


「あぁ、ベヒー自体に問題はないよ。思ったよりも大人しい性格なのには驚いたよ」


 エリアからの質問に私はそう答えた。

 まぁエミックが散々ボコったからなのかも知れないが、それでも苦情が減るぐらいに大人しい。


 実際、窓から見ても静かな寝息で昼寝しているし、道行く人も珍しそうに見てるだけだ。

 けど問題があるんだよ。


「ただ餌代がなぁ……!」


「た、足りないですか?」


「なんだって! 師匠! あとどのくらい必要ですか! 私が出します! 一番弟子で愛弟子として!」


「いやオレが出すぜ! ブレスだって飼ってんだ! 経験もある! 一番弟子兼愛弟子兼家族として!」


「お金は出さないけどレイが一番」


 取り敢えず馬鹿弟子達は黙ってくれ。

 いつまでも援助だけでベヒーを育てるのが嫌なんだよ。

 国王陛下のは税からでもあるし、ギルドだって他のメンバーに迷惑が掛かるだろ。


 今はそれと蓄えた財産で何とかなってるが、やはり不安もあるし不安定な感じもある。

 私の性格も原因だが、もうちょっと何かないか。

 いやベヒーの為だ。依頼を増やして、もう少し頑張れば良いや。


「まぁ何とかする。陛下の援助も辿れば税だし、お前達だってギルドメンバーの事を考えなさい。こっちはこっちで、もう少し依頼とか騎士団の仕事で何とか――」


「だったらセンセイ、これで出てみればいいじゃん!」


 そう言って果実水を飲みながらミアは、何やら一枚の広告洋紙をテーブルの上に置いた。

 なんだこれは。やけに派手な広告だがどっかで見た気もする。

 私は手に取って、そこに書かれている内容を読んでみた。


「挑め最強――?――あぁ、あの規模の大きな魔物使いや、金持ちが開いてるあれか」


 思い出した。一回だけ見た事があったな。

 確かに派手で迫力もあって楽しかった記憶がある。


 確かにこれならエミックとベヒーで優勝出来そうな気もするけど、一時の賞金を得てもなぁ。


「だが一時の賞金じゃあまり……毎年出るのもあれだし」


「いえ師匠。確かに賞金は出ますが、それ以外にも恩恵はあります。――賞金の下を読んでください」


「下?――えっと<優勝者副賞:優勝魔物達の餌現物や餌代を援助(その魔物が死ぬまで)>だって!?――良し出る!」


 こうして私の――正確に言えばエミックとベヒーの<モンスタースタジアム>出場が決まったのだった。

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