第11話:冒険者+5:王都の闇を知る
「かんぱぁぁぁい!!!」
「か、かんぱい……」
私は今、騎士団や上位ギルドがよく来る酒場で歓迎会をしてもらっていた。
参加しているのは主に騎士団の者達、そしてクロノとミアだ。
あの広場での襲撃は――いやあれは、私の実力を見ること。
そして他の騎士団員を納得させる為だったらしい。
ただ途中で団長さん――いやグラン(38歳)と呼んでくれと言われたな。
年上だから遠慮していたが、距離を感じるから嫌だと子供みたいな事を言われて仕方なく。
話を戻すと、病み上がりで鈍っていたグレンに私が火を点けてしまい、エリア達が止めるまで続いたって事だ。
大変だったよ。エリア達は叫んで予算が、給料減らすとかずっとグランに言ってるし。
クロノもクロノで建築ギルドに頼み、広場の修復をしていて全く話が進まなかった。
まぁ壊したって点に関しては私も原因だし、結局は広場を直して事なきを得たからね。
「ほらほらルイス! 飲んでるか!」
「あぁ、今から……」
嬉しそうな顔をでグランは私のジョッキに酒を注いでくれる。
今、私は両端をグランとクロノが。
向かい側にはエリアとミアがいる席で飲んでいた。
因みにクロノのギルドメンバーは、既に彼が帰らせていない。
一緒に呑まないかと誘ったが、クロノがそれを止め、彼等も思う事がある様な申し訳なさそうな表情で行ってしまった。
――ただ彼等の様子。そしてクロノの動き、それが妙に頭に残ってるんだよな。
私が気に入らないとか、飲みが嫌いだとか、そんな感じではなかった。
飲みが嫌いなのは寧ろクロノだし、そもそも彼等から感じたのは不安や恐怖。
何故だ。オリハルコン級ギルドのメンバーが王都で、何故そんな感情を抱くのだ。
「それにしてもルイス殿の剣捌き、お見事でしたな!」
「えぇ、最初はただの冒険者が何故と思いましたが、あれを見せられれば納得ですよ」
「どうりで副団長とアレンが褒める訳だ!」
そんな事を考えていたが、私へ周囲の騎士達が声を掛けてくれる。
団長と互角以上の戦いを見せた事は大きかった。
実力主義故に、結果を出せば受け入れも早い。
「ルイス殿! お、お注ぎしましょうか?」
そして向かい側に座っているエリアも、そう言って私へお酒を注いでくれようとする。
いやいや、これは飲むペースが早くなりそうだ。
「あぁありがとう。じゃあ、ちょっと待っててくれ。今、飲んでしまう」
さっきグランから注がれたばかりなんだ。
実は周囲との話でようやく飲めるんだ。
私はジョッキに口を付けて、ゴクゴクッと喉を鳴らしながら飲む。
飲みやすく、度数も低い私好みの酒だ。
やはり王都は質の良い酒が入ってくるんだな。
「それじゃエリア。お願いしようか」
「は、はい! ではどうぞ」
エリアは嬉しそうな表情で注いでくれる。
美女から酒を注がれるとは、フレイちゃん以来かな。
いや弟子達も、昔は注いでくれていたな。
「追加追加! もっと持って来い!!」
しかしミアは自分が食う飲むで忙しく、相手をしてくれない。
少し寂しいな。
「師匠、こちらの料理もどうぞ」
隣からクロノが魚料理の皿を出してくれる。
クロノは彼が昔から飲んでるジュースの様な、度数がかなり低い酒を飲んでいる。
酒が苦手な彼が唯一飲める酒だ。
だが宴等が苦手な彼が隣にいてくれる。それが私の為だとも分かるから嬉しいな。
ミアは注いでくれないし、エミックに関してはタルで酒を飲んでるよ。
騎士の方々も面白がって、次々に酒を奢ってるし。
「ありがとうクロノ」
私はそう言ってクロノと小さく乾杯する。
「まずは元気そうで良かったよクロノ。手紙からは上手く軌道に乗っていると書かれていただけだったからね」
「私はメンバーにも恵まれました。皆、私を立て、慕ってくれる優秀な者達です。――まだ少しだけですが、師匠が私達に教える気持ちが分かった気がします」
「アッハッハッハ! クロノもそう言う事を言うようになったんだな。昔は孤高で良いって言ってたのに変わったね」
「……昔の事です」
私の言葉にクロノは照れくさそうに顔を逸らした。
こういう所は変わらないな。褒めると素直に受け取れず、恥ずかしがる性格は。
けれど、そんなクロノの背中を見て私はやはり疑問を持った。
少し疲れている様な、彼の纏う貫録、覇気が少し弱い様な気がする。
だが周囲とのコミュニケーションもあり、私はクロノにそこまで聞けなかった。
そして暫く飲んだ後、不意にクロノが立ち上がった。
「……では師匠。そして皆さん、私はこの辺りで」
「えっ、あぁ……そうか。明日にも響くか」
私の様な平凡な冒険者とは違う。
彼は既に一つのギルドの長だ。日々、万全な状態でいる責任がある筈だ。
「んだよ、もう行くのか?」
「そうだそうだ。上に立つ者、二日酔いしながら職務を全うするものだ!」
「それは団長だけです!! また給金下げられても知らないですよ!」
ミアは串肉を食べながらそう言うが、なんだろう。
少し見る目が変だ。彼女には珍しく、心配している様に見える。
しかしグランとエリアの会話が凄くて、結局聞けなかったよ。
「あぁ。明日も色々とあるからな。――では師匠。住む場所は騎士団が準備してくれている筈です。何かあれば、私のギルドにも来てください。では」
「あっ、クロノ!」
「はい何でしょうか?」
私の言葉にクロノは足を止めてくれたが、どうしよう。
何か違和感ある程度だし、下手に言っても変な気分でさせるかもしれん。
だがやはり心配だ。
「大丈夫か?」
「っ……はい」
クロノは背を向けてからそう言って、酒場を後にした。
「クロノ……何かあるのか?」
しかしオリハルコン級のギルド長だぞ。
クロノ自身の戦闘力も高いし、知力も弟子の中で一番だ。
そんな彼の反応。あれは何かあったと分からない程、私は腑抜けた師匠じゃないぞ。
「なぁ……センセイ。あの根暗クロノの事、助けてやってよ」
まさにそんな時だ。ミアが酒を飲みながら、そんな事を言ったのは。
「助けるって、ミア。お前は何か知っているのか?」
「アイツからは絶対に言うなって言われてたけど、あんなの助けてくれって言っている様なもんだしよ。――センセイ。アイツは今、あるギルドと揉めてんだよ。いや抗争とも言えっかな。だからギルドメンバーも明るいうちに帰したんだ」
「待て、抗争ってギルド間か! だがオリハルコン級のギルドだぞ。どこと抗争するって言うんだ!」
「それはそこのオッサンの方が詳しいだろ?」
ミアはそう言うとグランへ目線を向けた。
そして、その言葉にグランは苦笑しながら酒の手を止め、エリアの表情も曇った。
気付けば他の騎士達も、騒ぎを沈めて黙っていた。
「グラン! 教えてくれ! クロノに何が起こっているんだ!」
「……やれやれ命の恩人であるルイスに、黙っている訳にはいかんか。――私が『翠の夢』の薬を必要とした理由はご存知で?」
「あっ、確か……謎の毒だったか。自然界から持って来た毒から子供を庇ったと」
私の言葉にグランは黙って頷き、続けてエリアが口を開いた。
「実は王都で、ここ数ヶ月。我々騎士団はオリハルコン級を始めとした上位ギルドと協力し、あるギルドを撲滅させようとしていたのです」
「その抗争中って事なのか……?」
「いえ、作戦は成功。そのギルドの戦力も影響も全盛期の半分どころか、虫の息という所まで追い詰めました。実際、そのギルド長や生き残りの幹部確保も時間の問題です」
「けどよ馬鹿だぜ。早すぎたんだ! 追い詰めるのがよ! この騎士団もクロノ達もよ!」
エリアの言葉にミアは心底、不機嫌な口調でそう言い放つ。
何やら見えて来たぞ話が。騎士団と協力したギルド――それはクロノのギルドもいたのだろう。
「センセイは分かるよな。追い詰めた相手……そんな奴等が、特に面倒な時がどんな時なのか?」
「失う物がない……そして自棄になり、道連れを一人でも多く求める破綻者となった時だ。それは生き残る為、その理由がある追い詰められた獣よりも質が悪い」
そんな連中は怖い者がないからだ。
例えそれが騎士団だろうが、オリハルコン級ギルドだろうがだ。
「……耳が痛いね。だが早く行動せざる得なかったんだ。女性・子供の人身売買、違法娼館、そしれ薬物の販売。一気に叩くしかなかった」
「ですが……我々も甘く見ていたのです。相手の力量を」
「壊滅寸前まで追い詰めた結果、奴等は無差別に動き始めた。子供を庇ったのも連中からすれば腹いせだったのだろう。騎士団とギルドのせいで、お前らはこうなっていると思わせる為にね」
その結果、グランは庇って死に掛けた。
だが待てよ。まさか、この王都でそんな事ができるのは。
気付けば私は立ち上がっていた。
「敵は……誰ですか?」
「センセイも聞いた事がある筈だぜ――三大裏ギルド『
ミアがそう言った時だった。
私のレベルが変化した。近くで戦闘が起こったのか。
私はスキルで力の対象を調べ、力量の瞳でどれ程、人が集まっているかを視ようとする。
そして分かった。少し離れた民家の屋根の上。
そこで大きなレベルの者が複数人に囲まれている事に。
このタイミング。間違いない。
「クロノか……!」
私はガントレット・ブレードを装備し、後ろからのミア達の声を無視して酒場から飛び出した。
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