第47話:冒険者+5:帰還する

 あ~あ、探してた魔剣って、あんな所にあったのかぁ。

 それじゃ、いくらボクちんでも分からないよねぇ。


「でも魔剣取られたけど、良いかぁ……ヌフフフ! 別に本命の目的は達成したもんねぇ!――けど、何か納得できないなぁ~あの蛇が弱ってたのも、ボクちんが戦ったからなのにぃ~!」


 そもそもノアもノアだよ。

 本当に、あのオッサンに負けたのかな? 

 どっからどうみても普通のオッサンだよ?


「目的があって、わざと負けた? いや、あのノアが仮でも負ける事はしない。って事は、マジで負けた? ディオもグリムも捕まったし、少し探るかぁ」


 でもマジで強かったらヤバいな。

 ノアに勝ったのが本当なら、悔しいけどボクちんが勝つのは無理。

 さて、どうしようか。誰かを差し向けてみようかな?


「――なら、アイツ等だ。あのギルドの連中なら欲に目が眩むし、使い易い。それに、そろそろ処分する気だったし、一石二鳥だぁねぇ!」 


――早速、計画を練らないと。それまで、せいぜい長生きしてねぇ、オッサン。


 ボクちんは、ツンドラマウンテンの上から、ニブル雪原を歩いて行くオッサン達を見送ると、ノアから教えてもらった転移魔法で転移する。


 こんな寒い場所、もうコリゴリだからねぇ。


♦♦♦♦


「か、帰って来たぞぉ!!」


 あれから一日半。ニブル雪原で、また一泊した私達は、ようやく帰還した。

 生きて帰ったぞ、ガルドさんの宿屋前まで生きて帰ってこれたんだ! 


「ハァァァ……疲れましたぁ……!」


「疲労困憊……! 修行不足……!」


 エリアと小太郎も、まるで溶ける様に四つん這いとなって、疲労の声を洩らしていた。


――分かる。その気持ちは分かるぞ。


 命の危機の環境からの脱出、からの安全圏への帰還。

 そこから生じる安心感は、麻薬並みの何かがあるんだ。


 しかも、何故かハイエナがいなかったのも大きい。

 シーズンまで待機すると思ってたけど、連中の影も形も周囲にはいなかった。


「まぁ理由は良いさ……まずは休もう。――ガルドさぁ~ん!!」


「――おぉ!! 帰って来たか! おぉおぉ!! しかも三人共、一人も欠ける事もなくか! よくやったな!」


 私が願う様に叫ぶと、ガルドさんは勢いよく扉を開けて出て来てくれた。

 そして私達を見て、感動した様に喜んでくれているが、それは後で頼む。


「休ませてくれ……ガルドさん……あと、ハイエナがいないのって?」


「おう! あの連中なら、そろそろ、お前さん達が戻って来ると思ってな。全員、ボコボコにして警備隊に引き渡してやったわ!――ほら、飯もベッドも用意してある! まずは休め! 風呂もあるぞ!」


「お風呂……!」


「食事……!」


 おぉ、ガルドさんの言葉にエリアと小太郎が、まるでアンデッドの様に。

 疲労困憊だった筈が、四つん這いのまま宿屋へ向かって来ているぞ。


 そうだ。私もあれだ。を渡さねば。

 私はエミックにではなく、自身の鞄に入れていた『蒼月華』を取り出すと、それをガルドさんに差し出した。


「ガルドさん……これ、宿代」


 これが、この宿屋の暗黙のルールってやつだ。

 こういう報酬があるから、ガルドさんはハイエナを倒してまで私達を待っていてくれたんだ。


 冒険者は信頼関係が命だ。

 たまにしか利用しない場所でも、きっと救いになる事があるからね。


「おっ! 確かに受け取ったぜ。いつもありがとよ。――ほれ、お前さんも休め」


 私から『蒼月華』を受け取ったガルドさんは満面の笑みで笑い、私達の荷物を一人で持って案内してくれた。


 そして、その日――エリアはまずはお風呂に、私と小太郎は、ガルドさんが準備してくれた肉、魚、野菜、パスタにシチュー等の大量の料理を食べてからお風呂へ。

 

 エリアもお風呂が終わると、料理を大量に平らげた様だ。

 お風呂から出た私と鉢合わせした時、凄くがっついて食べていたから、顔を真っ赤にしていたよ。


――そしてその日は皆、死んだように眠って、起きたのは次の日の昼だった。


 それからガルドさんに挨拶して、私達はまず私の故郷である辺境<グリーンスノー>のギルドへと馬車を走らせるのだった。


 その道中、頑張っていた様だがエリアと小太郎は、馬車の中でまた熟睡していた。

 そりゃ疲れる筈だ。あんな極寒の世界で命を賭けて戦ったんだから。


 私だって本音は眠いが、二人の寝顔を見ると、もうひと頑張りだと力が入る。

 誰かとダンジョンに潜って冒険する。

 弟子以来だけど、なんか楽しかったなぁ。


「馬車、代わりましょうか?」


「おっと、起こしたかい? もう大丈夫なのかエリア?」


 後ろから顔を出し、声を掛けて来たのはエリアだった。

 思ったよりも眠りは浅かったのだろう。表情が、眠っていた割にはハッキリしている。


「はい。ガルドさんのお陰で十分休めました。それより、ルイス殿の方が疲れているでしょうに」


「ハハハ……疲れてはいるけど、慣れてない環境で君達の疲労は私の比じゃない筈だ。まだ休んでいて良いよ」


「……では、と、隣にいても宜しいですか?」


 不思議なお願いだな。こんなおじさんの隣にいたい理由があるのかな?

――あぁ! 風に当たりたいんだな。


「あぁ、構わないよ」


「っ! ありがとうございます!」


 そう言ってエリアは、凄く明るい笑みを浮かべる。

 そこまで嬉しかったのか。あれか、子供が馬車の前に座りたがる的なやつか。


「その……今回は、我儘を聞いていただき、ありがとうございました。――そして、すみません。足を引っ張りましたよね私」


「そんな……寧ろ、上出来な動きだよ。まだダンジョン慣れしてないのに危険度8、9のダンジョンにって五体満足で帰っているんだ。それにバンザラシやツンドラオロチも、小太郎と君がいたから楽が出来たよ」


「それなら良かったです……ですが、私もまだまだです。いつか、あのレベルの魔物を一人で倒せる程に!」


 凄いな、凄い向上心だよ。

 私なんて『+Level5』があっても、生き残る事だけを考えるのに。


 しかし、そんな向上心があるからこそ彼女は強くなっていくのかも。

 少なくとも、今の彼女ならばドクリスにも後れを取らないだろうね。


「凄いね……私なんて、そんな事を思う余裕もないよ。流石に戻ったら休みを貰いたいかな」


「では、騎士団にはそう伝えておきます。始高天のメンバーの捕縛や魔剣回収など、ルイス殿の功績を見れば、それぐらい許されますよ」


 そうなのか。ならお言葉に甘えて休もう。

 もう疲れちゃった。流石にあのダンジョンは、もう二度と行きたくないけど、多分、いつか行くことになりそうだ。


 私はまだ、ありもしない未来を考えながら溜息を吐いていると、隣のエリアが顔を少し下へ向けながら話しかけてきた。


「と、ところで……その……王都に戻ってから何ですが、もし……もしもですよ! その……良ければ一緒に王都を見て回りませんか。あの……二人で」


「えっ……別に構わないけど、良いのかい? こんなおじさんと二人でなんて、楽しくなければ、誤解されないかな?」


 えっ、あの人のお父さん、ムサくない? とか、あんな人と一緒なんてセンスないよね、とか。

――駄目だ。自分で思って悲しくなってきたな。


「いえ! 全然!! 約束しましたよ! しましたからね! 絶対ですよ!!――ヨシッ!」


 そこまで喜ぶ事なのかい?

 きっとダンジョンからの生還で気分が高揚しているから、そう思うんだが。

 

――まさか、私に好意を?


 いや、だからありえないって。

 フレイちゃんと同じパターンで、良くて私に父性を感じくれているか、荷物持ちだろう。

 そうとしか理由がないよ、一緒に外出なんて。


 そんな事を私は思いながら、隣で上機嫌なエリアを置いて二、三日後、私達はギルド長やフレイちゃんが待つ<グリーンスノー>へ到着するのだった。


♦♦♦♦


「ただいまです」


「おぉ! ルイス! 無事に戻ったか! 小太郎に副団長さんも!」


「お帰り! ルイス!」


「お帰りなさい、ルイスさん!」


 久し振りのギルドに戻って来た、私を出迎えたのはギルド長や仲間達だった。

 あぁ、なんか帰って来たって感じがするな。

 なんかジ~ンと来たよ。理由はないけどさ。


 しかし何かが足りないな。

――そうだ、フレイちゃんだ。彼女からの言葉がないんだ。


「やぁフレイちゃん。今、戻ったよ」


「……そうですか。ご無事で良かったです」


 あれなんだろう。受付で背を向けたままで、しかも何か口調が冷たい。

 こんな事、確か前にも一回だけあったな。

 あれは確か、昔、流れの冒険者と仲良く話してた時――


『あれ、フレイちゃん恋人かい? 若いって良いね!』


 なんて冗談で言った時も、こんな感じの対応をされた事があるぞ。

 でもなんでだ。今回は本当に理由は分からない。


 私はそっと、ギルド長へ聞いてみた。


「あの……フレイちゃん、なんであんなに怒っているんですか?」


「あぁ……それはな。お前が、副団長さんと一緒に行ったからだよ。それで、まぁ……なんだ、怒ってんだ」


 だからなんで? 

 まるでやきもち……いや、有り得ないって。

 誤解するな。それで恥をかき、傷付くのは自分の筈だぞルイス!


 しかし、これは気まずいな。

 だからってエリアに謝ってもらうのも違うし、小太郎は我関せずだし。

 

 やはり私が謝るしかないか。

――ってそうだ。渡す物があったんだ。


「フレイちゃん、こっち向いてくれないかい?」


「なんですか? ハッキリ言いますが、私は今回、怒って――」


「はい、これフレイちゃん様にも採って来たんだ。――『蒼月華』」


 そう言って私は振り向いてきたフレイちゃんに、蒼月華を一つ差し出した。

 それを見て彼女はポカンとしていたが、やがてキョトンとしながらも受け取ってくれた。


 そして、やがて笑顔を見せてくれる。


「私なんかの為に、採って来てくれたんですか?」


「あぁ、君にはいつも世話になっているからね。これは感謝の印だよ。――そして、はい、依頼された【蒼月華】です。確認をお願いします」


「……はい! 確認します。――はい確かに! いつも、ありがとうございます! ルイスさん!」


 そう言って彼女は、いつもの様に素敵な笑顔で依頼達成を伝えてくれた。

 これを聞いて、ようやく帰ってきた気がするよ。

 フレイちゃんも、機嫌は治った様だし。


「ご苦労さん、ルイスさん。少し、ゆっくりするのか?」


「そうしたいですが、クロノ達にも渡さないと……だから、すぐに出ます」


「――あの! じゃあルイスさん! 一つ良いですか!」


 ギルド長へ、ゆっくり出来ない事を伝えていると、フレイちゃんが何やら私に語り掛けて来た。


「どうしたんだい?」 


「その……私も少しお休みを貰ったので、王都に行こうかなぁって……だから、一緒に見て回っても良いですか?」


「あっ、ごめん。エリアとも同じ約束してるから……それが終わってからなら――」


「――ハァ?」


 そう言った瞬間、フレイちゃんの纏う気配が変わる。

 そして小太郎を始め、ギルド長も仲間達も私から一斉に目を背けていた。

 ただエリアだけが、勝ち誇った顔をしているが、なんだ一体。


「私……なんか言っちゃった?」


 何やら、嫌な予感を抱きながら私は王都へ戻って行くのだった。

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