第56話:冒険者+5:大抗争

 最早、出入口付近は見る影も無くなったな――白帝の聖界天の本部。 

 だけど私は止まらないぞ。何人でも来い。


「奴をこれ以上行かせるな! 魔法撃て!」


「バーニング・ランス!!」


「サンダーストライク!!」


 魔力を感じて私は顔を上げると、倒壊した二階から私へ魔法を放ってくる者達がいた。

 彼等も冒険者だろうが、迎え撃つのみ。


「あれを試してみるか――悪食!!」


 それはモンスタースタジアムで、グリムが使っていた魔剣鎌――悪食の力だ。

 私が腕を翳し、名を呼ぶとガントレットから巨大な牙と口が、私の目の前の具現する。


 そして口は飛んできた炎と雷の槍――正確には魔力を食らい尽くすと、私は魔力が溢れてくる様な感覚を覚えた。


「凄いな……これなら魔法も!」


「なんだ! 魔法が消えたぞ!?」


「特殊なアイテムでも持っているのか!!」


 彼等も驚いている様だ。

 流石に限度が分からないが、それでも今はこれで十分だ。


「返すぞ魔力!――風よ、翼となりて、我が敵を撃ちし疾風を!――イーグル・ストライク!!」


 私は自身の魔力も上乗せして、彼等へ巨大な鳥を模した、巨大な風の槍を放つ。 

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」


 それは建物を更に破壊しながら彼等を飲み込み、周りにいた連中もかなりの数を巻き込んだぞ。


 これで少しは楽になるな。

 五大ギルドとはいえ、人数は無尽蔵じゃない。

 中には援軍を呼びに行ったのか、それとも逃げたのか、離れた連中もいたからね。


「出てこい! ゼン! 貴様が出て来ないと終わらないぞ!!」


 私は何度も同じ事を叫んでいるが、奴は全く出てくる気配がない。

 この事態、知らない筈がないのだが、それでも出て来ないか。


『グオォォン!!』


 そんな事を言っている内に、ベヒーは更に建物を破壊しまくっているぞ。

 段々と楽しくなって来たんだな。


 しかも元々、ベヒーはあのノアがスキルで作った魔物だ。

 五大ギルドとはいえ、並み以上の冒険者でも紙の様に吹き飛ばされている。


 エミックも目の前で、屈強な冒険者達をボコボコにして、装備を剥ぎ取って口の中に入れてるし。

 

「この野郎!!」


 だが油断はできないな。

 少しでも気を抜くと、こうやって攻撃してくる。


 私は剣を持って飛び掛かってくる青年を、ブレードで受け止めた。

 勿論、片手だ。そしてニブルヘイムを解放する。


「ニブルヘイム――魔凍波まとうは

 

「う、うわぁぁぁ!! こ、凍っていく!?」


「な、なんだこの魔法は!?」


 ブレードから放たれた凍気が、目の前の冒険者達を凍らせていく。

 だが加減しなければ死んでしまうし、ここは加減するか。


 私は一部が凍って逃げる彼らを無視し、更に進んで行った時だ。


「相変わらず暴れているな……ダンジョンマスター」


「ゲン・ホワイトホース……! 騒動の元凶じゃなく、先代の方の登場か」


 倒壊した三階から姿を見せたのは先代ギルド長――ゲン・ホワイトホースだ

 後ろに髪を纏め、鋭い視線、そして長年の相棒である十文字槍を持つ姿は、まさに歴戦の強者。


 よくあれから、あんな息子が生まれたものだ。


「あの馬鹿息子が来るものか。今も、取り巻きの道化と部屋の奥で震えておるわ」


「そうか……だが関係ない。最早、掟もどうでもいい。滅べ! 白帝の聖界天! あんなのが頭になった以上、遅かれ早かれだ!」


「耳が痛いことを……だが、私に都合が良い。――まさか、ずっと戦いたかった貴様と再戦できるのだからな!!」


 そう言ってゲンは三階から飛び出し、私へ槍を振るってきた。

 私はそれを背後に大きく飛んで回避し、力量の瞳を発動した。


「――レベル<74> 化物か」


「それでも貴様の方が上だ……同じ化物同士、楽しもうではないか」


「仕方ないな……エミック! ベヒー下がっていろ!」


 私の言葉に二匹は少し下がってくれたが、それを好機と見た向こうの冒険者が数名飛び出してきた。


「好機!」


「先代! 援護します!」


「邪魔だぁぁぁ!!――螺旋迅・餓狼!!」


 おいおい、魔力を纏わせた槍を部下相手に振り回したぞ。

 そのまま冒険者達は宙へと舞い、そのまま地面に叩き付けられる。


――哀れだな。


「邪魔をすればこうなる! これは我らの戦よ! 邪魔をするなぁ!!」


 もう駄目だな。あぁなったら昔みたいに、初代が仲裁しない限り止まらない。

 私も覚悟を決めるか。まぁ最初から先代達と戦う覚悟は決めてたがな。


「やるか……!」


「その意気よぉ……ダンジョンマスター!」


 私達が身構えた。そして、一定の間合いを取った時だった。


「センセイ!!!」


「来たよぉ~」


 側面から向こうの冒険者を壁と共にぶっ飛ばし、ミアと彼女のギルド員達。そしてレイが姿を現した。


「ミア! レイ! どうして来た! 五大ギルドに手を出せばどうなるか分かっているのか! 帰れ!」


「貴様が言うか、それ……」


 ゲン、少し黙ってろ。 

 今は師と弟子の話だ。


「うるさいなぁ! 良いんだよコレで! これはオレ達が決めた事なんだ! センセイと同じ! 勝手にやってんだ!」


「万が一の時は師匠がレイを養ってぇ~」


 ミアや、彼女のギルド員達はやる気だ。

 レイは相変わらずだから、何も言うまい。


「皆、師匠を慕っているんですよ……そして私達にも冒険者としての矜持がある」


「クロノ! お前もか……いや、もう何も言わないよ」


 振り返るとクロノと仲間達がいた。

 帰れと言いたいが、それで帰るぐらいなら最初から来ないしな。


「クロノ……だが手は出すなよ。ゲンの相手は私がする」


「良くぞ言った! それでこそダンジョンマスター……私の認めた相手よ!」


 まぁ流石に騎士団は今回いないし。

 こうなったら先代のゲンを倒せば、流石に他も黙る筈だ。

 そして、あの馬鹿息子も出てくる筈だと思いたい。


「しかし……サシでやるには数が多いな」


「なに?」


 ゲンがいきなり、別の方向を見た瞬間、向こうの冒険者達が一斉に吹き飛んだ。

 そして突然、聞き覚えのある豪快な声が聞こえてくる。


「ガハハハッ! ルイス! この馬鹿野郎が! 一人で何でも背負うとするな!」


「ギルド長!? 皆も!? なんで来たんですか! 相手は五大ギルドですよ!」


「そんな事分かってるわ! だが、お前に冒険者辞められると困るんだよ! 五大ギルドと、お前だったらお前を取るわルイス!」


 ジャックさん、まさかそこまで言ってくれるとは。

 

「それにワシ等だけじゃないぞ! 貴様の弟子も大勢来たわ!」


「アハハハ!! 師よ! こんな大喧嘩に何で俺を呼ばん!」


「小太郎から連絡が来たから、何事かと思ったらこう言う事かい! 全く、先生には困ったものだよ!」


「なっ! ガンド! エミリア! お前達まで!?」


 ギルド長の傍に現れたのは、二メートルを超えた大柄の男――討伐ギルド長・ガンド・バンド。

 そして海賊コートとハットを被った、女海賊ギルド船長――エミリア・シードランの二人。


 彼等も一応、私の弟子だ。

 まさか、小太郎。予想して読んでいたのか。 

 しかも後ろの方にも、他の弟子も大勢いるじゃないか。

 

 全く、何をやっているんだか。

 そう思う私だったが、思わず笑みを浮かべてしまう。うれしくてね。


「これだけ数ならば、流石に祭りを開くしかあるまい!――おい貴様等! 相手をしてやれ!!」


 ゼンの言葉に、一斉に白帝の聖界天の冒険者達が武器を構えた。

 するとクロノ達も一斉に武器を構え、もう止められないな。 

 全く、もう大抗争じゃないか。


「派手にしてくれるな……ゲン」


「何をいう! 戦いは派手な祭りになれば尚楽しいものよ! さぁ始めようか!――ダンジョンマスター!!」


 ゲンはそう叫びながら、私へ十文字槍を向けた。

 それと同時に両者の者達は一斉にぶつかり合う。


「エミック! ベヒー! お前等も頼む!――さぁ行くぞ! ゲン・ホワイトホース!!」


 私もまたガントレットブレードを構えた後、ゲンへと駆け出して行った。

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