第57話:ミア VS 鉄壁のガレット

 中央でセンセイが戦っている。他の連中も、仲間達も戦って大抗争だ。

 オレ等も負けじと、周囲の雑魚共を蹴散らさねぇとな!


「邪魔だ!! 獣王拳!!」


 魔力を込めた拳――獣王の頭部を模した魔力拳が、目の前の奴らを吹き飛ばす。


「うわぁぁぁぁぁぁ!?」


「ガハッ!!」


「アハハ!! 雑魚は引っ込んでな! このオレの力に勝てる奴以外はよ!」


 そんな奴はいないがな。

 オレは分かり切った事を言いながら、近付くことさえも出来ずに、ぶっ飛ばされる敵達を見て笑った。


 そんな時だった。オレは全身が逆立つような感覚を覚えた。

 そして、その圧を放った方を見ると、そこには分厚い鎧を纏った巨漢の男が立っていた。


「大したものだ。我らが白帝の聖界天の冒険者を、こうも簡単に……成程、貴様がダンジョンマスターの弟子の一人。オリハルコン級ギルドの長・幻爪のミアだな?」


「おう、その通りだよ。――テメェは?」


「我は白帝の聖界天の幹部――ガレット・ウォールだ。通称、鉄壁のガレットと呼ばれている」


――鉄壁? 大層な名だな。


「けど、そんな名前もオレの前じゃ意味ねぇよ!――第一スキル『粉砕ガードブレイク』――獣・波動拳!!」


 オレは拳に魔力を込めながら飛び出した。


 オレのスキルは全ての防御を打ち砕く。

 そんな大層な鎧を着てても無駄なんだよ。

 

 そんな余裕を抱きながらオレは、そのまま奴の鎧へ拳を叩き込んだ。


「オラァ!!」


「ほぉ……!」


 鎧の砕ける音と、奴の驚いた声が聞こえる。

 オレが優勢だと誰でも分かる。


 そのままオレはガラ空きとなった奴の肉体へ、そのまま拳を放った。


「オラッ!!――ガハッ!!?」


――殴った瞬間、一瞬、何が起こったか分からなかった。


 ただ言える事は、攻撃を受けたのが、血を吐いたのがオレだという事だ。


「グッ! クソッ……何しやがった……!」


――くそぉイテェ……!


 情けない事に痛みで膝を付いちまうが、何とか奴を見上げて睨みつけた。

 奴は笑いもせず、無表情でオレを見ていた。


「別に、何もしていない。貴様が勝手に殴っただけだ。――説明しよう。我のスキルは『絶対反射オールカウンター』だ。このスキルにより、我が受けた攻撃は汝に反射する」


「んだと……!――ふざけんな!! 檄・獣魔双!」


 オレは爪に魔力を込めて、奴を切り裂いた。

――つもりだった。傷付いたのは、やっぱりオレだった。


 爪痕がオレの全身に刻まれた。

 我ながら凄い攻撃だな。


「グフッ……ちくしょう……!」


「やはり恐れるはダンジョンマスターだけか。先代と互角以上にやりあうとは大した男だが、その弟子がこれとはな……」


「うるせぇ!!」


 オレは透かさず、奴の腹に一撃入れた。

 

 だが結果は同じだ。

 オレの腹部に強烈な一撃が襲い、そのまま血を吐きながらオレは二度目の膝を付いた。


「哀れだ……いやか。神は二物は与えん……成程、弟子の育成の才はダンジョンマスターも持っていなかったか。自身が強くとも、後の時代へ残す才がないとは、冒険者として……いや一人の人間として、奴も哀れだな」


「黙れ……!」


「むっ?」


「黙れって言ったんだ! センセイを――ルイスを馬鹿にすんなぁぁぁ!!――第二スキル! 獣戦闘ビーストアーマー!」


 叫んだオレの全身を魔力が包み込む。

 それは獣の様な形となり、オレに力を与えてくれる。


 コイツだけは許さねぇ。

 言っちゃいけねぇ事を言ったんだ!


「ルイスはぁ……オレの誇りだ!! テメェ如きが語るんじゃねぇ!!――爆獣咆哮!!」


 オレは渾身の一撃を奴に叩き込むと同時に、大きな爆発が起こる。

 けど、煙が晴れた時に膝を付いていたのはオレだった。


「ちくしょう……!」


 今度は膝だけじゃなく、四肢全部ついちまった。ダセェな。


「哀れを通り越して馬鹿だな。分らぬか、貴様の行動が、自身の師であるダンジョンマスターを貶しているのだぞ? そんな分かっているのに何度も無駄な事をして……やれやれだ。終わらせやるか」


 オレは顔を上げると、奴は手甲を付けた巨大な拳を振り上げていた。


――ちくしょう……センセイ。オレ、駄目なのかな?


「ミア!!」


「っ! センセイ……!」


 そんなときだった。センセイの声が聞こえたのは。

 センセイは先代と呼ばれた男と戦いながらも、オレの方に意識を向けてくれていた。


「立て! ミア!! 難しく考えるな! お前の思うようにやれ! ただ真っ正面の壁をぶち破れ! その為の技がないなら、自身にサボるなと怒れ!!」


「……ふっ! 何を言うかと思えば、それが師としての言葉か? やはり奴は――」


「いや、オレの事を良く分かってるぜ、センセイはよ」


 ガレットは馬鹿にしたように笑ってるが、オレにはそれで十分だ。

 分からないままのモヤみたいのが、センセイの言葉で晴れていくぜ。


――そうだよ。サボんなオレ! 出せよ! もっと!!


「――粉砕貫通アーマーストライク』!」


 新たなスキルが目覚めた。

 その瞬間、オレは魔力を解放した。突風を起こす程の強烈な魔力だ。

 

 この魔力には、奴も流石に驚いた顔をしてるが、もう遅い。


「ぬっ! なんて魔力量だ! だが! 我がスキルは無敵――」


獣神咆哮じゅうじんほうこう!!」


 奴が何か言おうとしたが関係ねぇ。

 オレはセンセイの言う通り、真っ正面からぶち抜くまでだ。


――相手の防御を破壊し、防御スキルを、このスキルで。


「ぐあおぉぉぉぉぉ!! ば、ばか……な……こんな――」


 腹にようやく、一撃を加えた。

 奴は悶絶してたが、まだ容赦しねぇぞ。

――トドメだ。


「ぶち抜け!!」


 オレは顔面に渾身の拳を叩き込んでやった。

 それを受けたガレットは歯が折れて、そして顔は潰れて泣いていやがった。


 そして、その巨体は地面へと倒れると、オレはセンセイへ見える様に腕を上げた。


「よっしゃー!! 勝ったぁぁ!!」


「……全く、あいつは」


「フッ、面白い弟子だな」


 何やらセンセイと先代って野郎が、オレを見て笑ってるが、まぁ良いか。


「オレの勝ちだぁぁぁ!!」


 センセイの――ルイスの弟子として、こんな所で負けるかよ。

 オレはそう言って、ずっと笑っていた。

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