第58話:黒の王・クロノ・クロスロード

 ミアの勝利の叫びが、建物全体に響き渡っている。

 そんな中で私は『黒の園』のギルド長として、そして師匠の一番弟子として、相手幹部の一人とを繰り広げていた。


「――黒の支配者ブラックマスター!」


「――空の王スカイマスター!」


 私は衣服と周囲の影――黒を使い、足場や翼を作って空中に舞う。

 そして相手幹部――風使い、ウィグ・ストームと空中で互いのスキルを駆使して戦っていた。


 私が黒で剣や槍を出現させれば、奴は風と魔力を使って壁を作る。

 そして何事も無かったように、空中に浮かんだまま足を止めている。


「ヒャッホー! なんだなんだ! 話よりやるじゃねぇか! 裏ギルド! そして若に良いようにされてるって聞いてたが! そこはオリハルコン級のギルド長! 強いじゃねぇか!」


「そうだ! 全部、私が悪かったんだ……! 私がしっかりしていれば、師匠にこんな事をさせずに……だからこそ、私も勝つ!――第二スキル<黒絵>――犬!」 


 私は建物の影から、巨大な犬の頭部を出す。

 そしてウィグへ口を開けて迫った。


「させっか! 風魔法!――ガルダルダイブ!!」


 ウィグは巨大な大鳥の形を模した風を纏い、そのまま黒絵・犬と激突した。

 何の迷いもなく、突っ込むとはこれが五大ギルドか。


「ヒャッホー!!」


 ぶつかる私と彼の魔法だが、僅かな差で影絵が消滅した。

 だがそれと同時にウィグも吹き飛ばされたが、彼は余裕のある様子で空中に着地していた。


「ハッハー! 良いね! けど足りねぇぜ! もっとド派手に行かねぇか!」


「なんて奴だ……!」


 私も余裕があるとはいえ、奴の余力は異常だ。

 これが五大ギルドの幹部。私の様に一ギルドを背負えるだけの実力者じゃないか。


「黒絵――鳥!」


「エアキューブ!」


 私が大量の黒の鳥を出せば、奴は風の球体の中に入って攻撃を防いだ。

 

「おいおい! 芸がねぇぞ!――第二スキル『空魔人スカイデーモン』!!」


 奴がスキルを発動すると、奴の背後に巨大な風の悪魔が現れた。

 そして軽く腕を振るだけで、とんでもない強風を生む。

 

――まずい。背後の仲間を守らねば!


『第二スキル黒絵――犬・三頭牙!』


 私は全力で魔力を込め、巨大な三つ首の犬を出した。

 そして奴の魔人と激突し、巨大な余波に私は巻き込まれた。


「うおっ!?」


「おおっと! やるじゃねぇか! けど、そろそろギリギリか!」


 何とか受け身を取ったが、やはり余力は奴の方がある。

 

――どうする! このままでは押し切られる!


「クロノ!」


「余所見をしている暇があるか! ダンジョンマスター!!」


 師匠の、私を心配する声が聞こえる。

 いつまで経っても、私は師匠に心配される立場なのか。


――いや、そうじゃないだろ。


「見ていて下さい師匠!――アナタの育てた弟子は、この程度の相手に負ける程、弱くはない!!」


「言うじゃねぇか! だったら、これで終わらせようぜ!! やるぞ空魔人!――俺流最強魔法――ガルダル・スパイラス!!」


「でかい!!」


 奴が放った風魔法――それは、空魔人を巨大な螺旋状の風の槍にする魔法だった。


「こいつ、どこまで……いや臆するな! 私はクロノ! クロノ

・クロスロードだ! ダンジョンマスターの弟子だぁ!!――第三スキル<深黒の王アビス>!!」


 私は周囲から――建物の影、誰かの衣服。

 その全てにあるを、自身の手に集めた。

 それはやがて一つの黒い球となった。

 

「これで終わりだ――エンドブラック・オールアビス!!」


 私は集めた黒い球を、そのまま奴の魔法へ放り投げた。

 派手じゃなくていい。馬鹿みたいな破壊力もいらない。


――ただ勝つ。この戦い! 私が負けてはいけないのだ!!

 

 私の魔法と奴の魔法。それがぶつかった瞬間、奴の魔法は私の球に呑まれる様に消えていく。

 吸い込むように、沈んでいく様に。


「うっそだろ!? 俺的最強魔法が!!」


 黒い球は完全にウィグの魔法を呑み込んだが、それでも動きを止めず、そのままウィグへと向かっていく。

 

 そして、黒い球がウィグへ直撃すると、黒い球は呑み込んだ風魔法そのものなったかの様に螺旋を生んだ。

 そのままウィグは、高速で回転していく。 


「う、があぁぁぁぁ!!!?」


 そして最後は壁に激突し、壁にめり込んだ彼は白目を向いて気を失ったようだ。

 それを見て、私は静かに師匠の方を見た。


「師匠……私は、師匠の自慢の弟子でいられましたか?」


「クロノ! 私の弟子に落ちこぼれなんていない! 全員が自慢の弟子だ! 勿論……最初の弟子のお前は私の誇りだ!!」


 その言葉に気づけば私は笑顔を浮かべていた。


「クククッ……お涙頂戴はそろそろ良いだろ? こちらもそろそろ暴れようか。貴様の弟子の様にな」


 ゲンはそう言って少し上を見ていた。

 私も釣られて見てみると、そこでは同じ弟子仲間――レイと、ガンド・バンドと、エミリア・シードランの三人が暴れていた。


「レイちゃんフルインパクト」


 レイは魔法を使わず、杖だけで敵をぶっ飛ばしまくっている。

 ガンドも槍一つ持って、一人で数十人の冒険者と押し合いをして勝っている。


 そしてエミリアだ。

 彼女の第一スキル<個人艦船>の力で、足に船を出し、サーフィンの様に魔力で作った波を渡って周囲に砲撃していた。


 他の弟子達も魔法や武器、スキルで好き放題しているし、本当に今日で五大ギルドが滅ぶ勢いだな。


「あれだけ暴れられてはなぁ……我も血が騒ぐぞぉ!」


「まっ、これだけ弟子達や皆が見ているんだ……私も本気でやるさ」


 そうこうしている間に始まる様だ。

 師匠と、最強の先代・五大ギルドのギルドマスターとの闘いが。

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