第59話:冒険者+5:対決 ゲン・ホワイトホース

 ミアやクロノ達が幹部を下し、他の弟子や仲間達も奮戦してくれている。

 だが長引けば余計な被害が出る。


 だから、ここで私がゲンを下せば収まる筈だ。

 ハッキリ言って、今のギルド長よりも先代のゲンの方が人望もある。

 

 それに初代が来ない以上、彼も今回は仲裁しない気なのかもしれない。

 そうなれば答えは一つだ。


「決着をつけようか……ゲン!」


「我は最初からそのつもりよ……準備運動も終えた。ならば、本気で死合おうか!!」


 ゲンは真っ正面から十文字槍を向け、私へ突きを放った。

 私は両手のガントレットブレードで、体を後ろへ逸らしながら槍の左右の刃をブレードで受け止める。


――逸らさなければ顔に刺さってたぞ……!


 私は思わず肝を冷やす。

 ゲンの十文字槍は、メインの刃が長過ぎる。


 そんな事を思いながら私は、必死に刃を抑えながら、魔剣グラビウスの力を使った。


 「グラビウス!」


 私は重力魔法をブレードから発し、ゲンの槍を弾き飛ばした。


「ぬぅっ!? 今のは……成程、貴様も魔剣の力を手に入れていたか!」


「貴様も……って事は、やっぱりその十文字槍も魔剣か」


「その通りよ!」


 ゲンはそう言って槍を振り回すと、巨大な魔力と共に炎が槍を包み込んだ。


「魔剣の一振り――炎魔槍・幸村! 前回の時は本気でやり合う前に親父に止められたが、今回は別だ!――燃えよ幸村!!」


「チッ!ニブルヘイム――魔氷閃・金剛迅!」


 ゲンは再び炎の突きを放ってくる。

 私はそれを、魔剣ニブルヘイムの力を使い――ブレードに金剛石の如く。そんな輝き放つ程の冷気を纏わせた。

 

 そして高速で一閃し、槍を弾いた。

 弾かれた槍は氷漬けとなり、それはゲンの腕にも及んでいた。


「ほぉ……氷の魔剣までもか。だが――フンッ!」 


 気合でも入れた途端、一瞬でゲンは纏わりつく氷を砕いた。

 槍も流石は炎の魔槍だ。数秒で溶かし、そして砕いてしまった。


――化け物め。レベルはスキルで私の方が上だが、やはり技量が凄い。


 きっと槍――いや、十文字槍は薙刀・鎌の特性も持つ。

 だから槍・薙刀・鎌の技量に関してはゲンの方が遥かに上だ。


「油断すれば死ぬか……!」


「こちらの台詞でもあるわ。やはりレベルは貴様の方が上。だから技量だけは負けぬと、地獄の如き修練を積んだのだ!――さぁ続きだ!」


 ゲンがそう叫んだ瞬間、彼の体からとんでもない量の魔力が溢れ出した。


「来るか……!」


 私も思わず深く身構えた。


「行くぞ! 第一スキル『神速・赤備え』!」


「マズイ!?」


 ゲンの奴、赤い魔力を纏ったか。


――あれはマズイ! ゲンのスキルは速さを上げる。そうなればいくら『+Level5』でも、速さでは僅差で負ける!


 ゲン・ホワイトホース:レベル<76>

 ルイス・ムーリミット:レベル<81>


 これが今のレベルで、力や防御は私が上だ。

 だが速さと魔槍の力が合わさったゲンには、楽観視は死を意味する。


「行くぞ! 螺旋陣らせんじん六文獄ろくもんごく!!」


 ゲンの周囲に六つの円状の炎が現れた。それは彼の周囲を回り、近付く者を焼き切ろうとしているかの様だ。


 そこにゲンの神速と魔槍の力が合わさり、危険な状況となった。

 ならば、その速さを――落とす。


「グラビウス――テラ・アセノスフェア!!」


 私は両手を目の前に翳すと、眼前に巨大な重力の空間が生まれる。

 そして、その重力の空間により確かにゲンの姿を捉えた。


「ぐっ! これは重力魔法か……! おのれぇ……!」


「悪いが加減なしだ!――魔氷脚・六封晶!!」


 氷を纏った両足から繰り出す蹴り――それはゲンの周囲の焔を砕き、そのままゲンの腹部を捉えた。

 その瞬間にグラビウスを解くと、ゲンは砕ける氷の結晶と共に吹き飛び、壁へと叩きつけられた。


「フンッ! まだまだ!!」


 だがゲンは壁にめり込んだ筈が、力を入れたと同時に壁から飛び出してくる。

 勘弁してほしいが、仕方ない相手だ。それだけゲンは強い。 


「これよぉ……! これ程の戦いを望んでいたのだ! 流石はダンジョンマスター!! 我の認めた相手よ!」


「こっちは勘弁してほしいけどね。決着もつけたいが、とっとと現ギルド長も出してほしいんだが?」


「それは出来んな! この戦いを終わらせる気はない! あの愚息が欲しいならば、我を倒してからだ!!」


 そう言ってゲンの魔力は更に跳ね上がった。

 本当にどっちかが死ぬまでやる気か。


「この戦闘狂め!!」


 私も魔力を込め、再び構えた時だった。

 どこから拍手の様な手を叩く音が聞こえてきた。


「ウヒヒ! 良いね! 良いね! やってるねダンジョンマスター! ボクちんも驚きだね! 弟子や関係もない連中の為にここまでやるなんて!」


 そいつは、二階にある瓦礫を椅子にする様にし、私達を笑いながら見下ろしていた。

 ローブを纏った道化師――そいつを一言で言うならば、それだ。


「あいつは……!」


「奴はラウンと言ったか……倅の取り巻きよ」


「ラウン? 道化師……そしてあのローブは!」


 私は奴が着るローブをよく見ると、そこには見覚えのある古代文字が刻まれていた。


「古代文字のローブを来た道化師! お前か! 小太郎の言っていた始高天は!」


「始高天? なんだそれは?」


「ここ最近、ダンジョンを始め、色んな所で暗躍している謎のギルドだ!」


 どうやらゲンですら知らないと存在とは。

 本当に何者なんだ、こいつらは。


 私とゲンが奴を――ラウンを睨みつけていると、ラウンはつまらなそうな顔をしていた。


「ふぅ~ん……あの隠密、生きてたのか。しぶといねぇ~」


「やはり、お前が小太郎を……!」


 私は思わず拳を握る力が強くなっていた。

 こいつは許せない。小太郎の件を除いても、どうも何故か気に入らなかった。


「ゲン! 一時休戦だ……私はコイツを止めるぞ」


「フンッ……そんなつまらん幕引きは御免だ。――こうすればよい!」


 ゲンはそう言ってラウンへ槍を持って、突きを放ちながら二階へ突っ込んでいく。

 だが、槍が当たる直前、巨大な何かがラウンを包み込み、ゲンの攻撃を防いだ。

――そして、その正体は巨大な翼だった。


「むっ! チッ!」


 防がれた事、そして目の前のラウンの異変を察し、ゲンが再び私の傍に降りてきた。


「ゲン!」


「フンッ……問題ない」


 私達はそう言い合うと、何の合図もせずに互いに身構えた。

 すると、その翼の中からラウンの笑い声が聞こえてくる。


「ぐふふ! アッヒャッヒャ!! 残念賞! ハズレェ!――びっくりした? これがボクちんの――ノアから貰った真の姿だ!!」


 そう言って翼を広げ、空中へ舞うラウン。

 その姿はあまりに異形な姿をしていた。

――右腕に竜の頭、背中には竜の翼と尻尾があった。


「なんだ……まるで混ざった様な――そうか! ノアのスキルか!」


「せいか~い! やっぱりノアはアンタに負けた様だね! マジありえねぇけど、どうやったの!? まぁそれは捕まえてからで良いか! この状態になったボクちんはめっちゃ強いよ!――あと、これおまけね」


『ウオォォォォォォ!! オレが! オレガ! 白帝の聖界天 ノ 長ダァァァァ!!』


 それは壁をぶち破りながら、突然姿を現した。

 一目だけ見れば正体は分かる。

 

 その正体、翼のない竜――アースドラゴンだ。

 だが普通じゃないのは、その胴体の上に上半身だけの人間がいる事だ。

 

 しかも、その上半身だけの男は――私達が狙ってた人物。

――ゼン・ホワイトホースその人だ。


「これは……!」


 私も周囲も驚く中、ラウンだけが歪んだ笑みを浮かべていた。

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