第34話:冒険者+5:迫力! モンスターバトル!
『さぁ会場のお客様!! お待たせしました!! 各マスターの準備が整いましたので――モンスタースタジアム! ここに開幕です!!』
実況の開幕宣言と共に、巨大なスタジアムを揺らす程の大歓声が響いた。
私はそれを、控えの通路でエミックとベヒーと共に聞いていた。
「全く、こんな大舞台……久し振り過ぎて柄にもなく緊張しているよ」
私は緊張を解す為、エミックとベヒーを撫で始めた。
因みにだが、今この辺りには私達の様な参加者しかいない。
クロノやエリア達は、VIP席でギルドや、その家族達と観覧中だ。
ただ小太郎の姿を見てないんだよな。
まぁシャイな子だったし、隠密ギルドだから職業病で姿を見せないのかもしれないが。
『では代表者の挨拶も終わりましたので、早速試合と参ります!――ですが、その前にルール説明を! ルールは最低二体、最大四体の魔物を出し、片方が全滅するか降参した時点で勝敗が決します! 以上! これだけです。では早速一回戦・初戦から――』
ようやく始まるな。 確か私は三戦目だから余裕はあるな。
でも頑張ろう。――餌代の為に!
♦♦♦♦
スタジアムのVIP席。
クロノ達とは違う場所にある席で彼等は試合を見ていた。
そこにいる者達は皆、護衛を付けたカタギではない雰囲気を持つ者達ばかり。
そんな彼等は試合を見ながら金を出していた。
『おおっと! ソノバ選手のブリザード・ガーゴイルがここで仕掛けた! 口から出す氷魔法が、ケバ選手のサイクロプスを襲う!――おっと、しかしサイクロプス耐えた! そして一気に拳で殴ったぁぁぁ!! そしてガーゴイルダウン!! 試合決着です!!』
「チッ……負けおったか」
「これは幸先が良いね。すみませんね、私の勝利ですね」
「儂も負けか、ガーゴイルなのだから、もっと空中を意識させれば良かったものを」
彼等はそう言って金や宝石などを配り始める。
そう、彼等がやっていたのは賭け事。
ここにいる者達、全員が裏の人間であった。
傭兵ギルド<竜狩りの傭兵団ドラゴンアライアンス>
大都市・パンドラ裏ギルド<月の鐘>
冒険者ギルド<魔人の唄>
裏教会・私設集団<闇十字>
それ以外にも裏で暗躍する者達が、この場に集結している。
――そして彼女達も、この場にいた。元三大裏ギルドの残りの二つが。
裏ギルド『
――<
裏ギルド『
――<
その二人もまたモンスタースタジアムの賭けに参加しており、このVIP席に腰を降ろしていた。
ここは良い場所なのだ。資金を稼げるし、洗浄も出来る。
だから裏の人間は、この手のイベントになると一斉に参加し、顔を合わせながら賭けに乗じていた。
「さて次の試合は少し、注目を集めていましたね」
「ダンジョンマスター……にベヒーモスか」
そう言ったのは十六夜とブラッドの二人だ。
――第三戦・ルイス・ムーリミット(初参加)VSカルス・エールス(参加回数8回・優勝回数1)
――使用魔物:ベヒーモス&ミミックVSバーサーカー・スネーク&飛竜兵×2
彼女達の言葉に、他の者達も資料を読み始める。
しかし数名はすぐに賭け金を提示してしまう。
「ベヒーモスは驚いたが、こりゃ決まりじゃろ。カルスに5万G《ゴールド》!」
「冒険者が勝てる程、甘くはない。魔力の武器を使う飛竜兵二体のアドバンテージもある。――カルスに3万」
「っていうかミミックって……ふざけてるのかい? ベヒーモス頼りって見え見えだ」
「――あの男。それに、あのベヒーモスは……!」
誰もがルイスに賭けようとする者はいなかった。
経歴もそうだし、数の利もある。オッズだって差があり過ぎた。
ベヒーモスとバーサーカースネークがぶつかり、ミミックを速攻で潰した飛竜兵二体で援護してベヒーモスを倒す。
こんな筋書きだろうと、誰もが疑わない。
これでは賭けになりそうにない。この試合だけは流れる可能性がある。
そう思った者も出た時であった。
「ルイスに500万G」
「し――ルイスに600万G」
十六夜とブラッドが、ここで破格の金額を叩きだした。
基本的にどの試合も賭け金の上限がない青天井。
だが目玉でもなく、まだ一回戦の第三戦でしかないのだ。
しかも額も額だ。資産の半分以上も賭ける二人の、その自殺行為に一斉に他の者達は立ち上がった
「なんだと!?」
「ふざけるのも大概にせぇ! そんな馬鹿な張りがあるか!」
「何故でしょう? ここのルールは青天井。賭け金に上限は無し。ルール違反はしておりません。ただ困るのはアナタ方と胴元でしょうに」
「勝負は一時一時だ。後で勝負とか、そんなのはつまらねぇ。行けると思ったら俺は勝負に出るぜ」
「で、で、では……御二人共、本当にその額で……!」
十六夜とブラッドの言葉に胴元の顔は真っ青だ。
もしオッズ通りにカルスが勝てば良いが、もし負ければ胴元側の被害はデカイ。
勿論、払えない額ではないが損害なのは間違いなかった。
しかし二人も訂正する気はなかった。
「無論」
「他はどうすんだ?」
「こ、このガキ共がぁ……ええい! 増額だ! カルスに100万!」
「儂はルイスに50にする」
「私は変わらずカルスに150に」
それから俺も私もと、次々に賭け金が跳ね上がって行く。
中にはルイスに変えた者もおり、まさかの第一回戦の三戦目で、とんでもない賭けが生まれている等、常人達には知る筈もなかった。
そんな状況を笑って見ていたのは発起人の十六夜だった。
「フフフッ……これで少しは面白くなりそうですね。ブラッド君」
「面白くなりそうって……俺は良いですが、十六夜さんは大丈夫ですか? もし負けたらカジノしか残らなくなりますよ」
「それならそれで、また這い上がれば良いだけです。――しかし、本当にあなたはダンジョンマスターがお気に入りなのですね」
揶揄う様に笑みを向けて来る十六夜の言葉に、ブラッドは思わず顔を逸らした。
そして素っ気ない態度を取る。
「別にそう言う事じゃない……ただ、俺の直感ですよ」
「あらあら、それは凄い直感ですね。ウフフ……!」
ブラッドは楽しそうに笑う十六夜に、少し恐怖を抱いた。
それは不気味、狂気、そんな恐怖だ。
自身は元々、ダンジョンマスターの参加を知った時から一点賭けを決めていたが、それを放したら十六夜も乗って来るとは思ってなかった。
この人は稼ぎ方を教えてくれた人だからと、ブラッドは悪く思いたくなかったが、やはり考えが分からない怖さが苦手でもあった。
それはグアラが消えた事で、更に感じやすくなったのもある。
だが、それはどうでも良い事なのかもしれない。
ここで勝てば仲間達をもっと楽させてやれると、ブラッドは仲間を思っての賭けだった。
――同時にダンジョンマスターへの絶対の信頼もあっての。
♦♦♦♦
『それでは第三戦! 両者入場!!』
「さて、行こうかエミック、ベヒー」
『~~~♪』
『グルルゥ~ン!!』
私の言葉に二匹は元気そうに返事をし、それを見て安心する。
絶対に勝てる。初めての参加だが、モンスターは長い事見て来たから分かる直感。
これは冒険者にしか分からない事だ。モンスター使いにだって負けてないよ。
『では次に! ルイス・ムーリミット選手! ベヒーモス&ミミックの登場です!!』
『おおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
凄い歓声だな。イベントでハイになっているんだな皆。
私は少し驚きながらみスタジアムへと出て行き、エミックとベヒーも後に続いて歩き出した。
「おぉ! すっげぇ! マジでベヒーモスだ!」
「頑張れよ!!」
「師匠!! 優勝ですよ!!」
「センセイ頑張れよ!!」
「ルイス殿!! ファイトです!!」
「アイス美味」
歓声の中で確かに聞こえる弟子達の声。
これは格好悪い所は見せられないな。
だが戦うのは私じゃないけどね。
私はそんな事を思っていると、不意に耳に聞きなれた声が届いた。
「ルイスさぁ~ん!! 頑張って!!」
「頑張れよルイス!! お前に全部賭けたぞ!!」
「えっ、フレイちゃん!? それにギルド長達も!」
久しぶりの声が聞こえたと思ったが、まさかフレイちゃん達が来てくれているなんて。
きっとクロノ達が手を回したんだな。
ただギルド長、何を賭けてるんだよ。純粋に応援してくれよ。
『さぁ第三戦! 常連のカルス選手は優勝経験もベテラン参加者! しかしルイス選手も侮れません。なんとこの方、あの伝説の冒険者・ダンジョンマスターその人! ベヒーモスを引き連れ、今大会でも伝説を作る気だぞ!!』
伝説じゃないって、ただの餌代稼ぎなんだけど、これ言ったら怒られそうだな。
しかし相手の魔物も凄いな。
バーサーカー・スネーク<58>と飛竜兵<40>二体か。
特に飛竜兵は、魔力で武器を模して戦う特殊な魔物。
やっぱり魔物使いは凄い人ばかりだ。
けどこっちも負けてないぞ。
「良し頼むぞエミック! ベヒー!」
私の言葉に二匹は前に出て、相手の魔物と対峙した。
おぉ大きさだけなら良い勝負だ。
けどなんだ。さっきから会場から笑い声が聞こえてくるぞ。
「アハハハハ! ミミックって、おいおい潰されるぞ!」
「ベヒーモスだけで勝つ気なんだろ。ミミックはおまけだって」
『――』
「お、おいエミック……落ち着けよ?」
まずいな。エミックの奴、絶対にキレてる。
魔力も溢れて来てるぞ。
「ハッ! おいおっさん! 伝説の冒険者だか知らねぇが! ここは魔物使いの領域だぜ! ミミックに連れて来やがって、痛い目みしてやるよ」
何やら相手の選手が色々と言って来てるが、その油断が命取りだ。
「痛い目を見るのはそちらかもよ? 油断している者ほど、ダンジョンでは大きな被害が出るからね」
「言ってろ!!」
『では試合開始です!!』
ゴングが鳴ると同時に、飛竜兵二体がエミックに空から向かって来た。
きっと一気にベヒーだけに専念するつもりだな。
『シャァァ!!』
『グオォォォン!!』
こっちもこっちで、スネークがベヒーの巨体に巻き付いたぞ。
凄い迫力だ。まさにボス魔物大決戦って奴だ。
だが今回は相手が悪かったな。
近づいて来た飛竜兵に、エミックは口から闇の腕を出して、まるで羽虫を叩くかの様に二匹を地面へと叩き付けた。
『――!』
『ギャ!?』
『ギャオッ!?』
そしてレベル差もあってか、飛竜兵二体はそのままダウン。
目を回しているから死んではいないな。エミック、ちゃんと加減してくれたんだな。
しかも突然の事で相手も驚いてるよ。
「何だと!? なんでミミックに!?」
『おおっとまさかの瞬殺! このミミック強すぎるぞ!!――っておや? 今入って来た情報ですと、どうやらこのミミック――エンシェント・ミミックと呼ばれる種で、基本的に危険度10のダンジョンにしかいない様です!』
「馬鹿な! そ、そんな危険度10の魔物って……! どうやって従えてんだ!?」
そう言われても困るな。
小さい時のエミックを拾ってから、ずっと一緒だし。
ずっとペット感覚だから分からないよ。
ただエミックはエミックでピースしてるし、機嫌が治ってくれたようだ。
「こうなったら! やれバーサーカースネーク!!」
『シャァァ!!』
スネークが、更に巻き付けを強くしてきたな。
それに牙から毒も出しているが、それじゃベヒーは倒せないぞ。
ノアで合成されてはいるが、元々、ベヒーモス種は、その巨体故に状態異常に掛かりずらいんだ。
「こっちもやってやれベヒー!」
『グオォォォン!!』
私の声に応えてくれたのか、ベヒーは角と牙に雷を纏わせてスネークを感電させた。
そして怯んだ所で一気に壁に突っ込んで叩き付ける。
壁が一気に崩れて悲鳴が上がったけど、弁償とか大丈夫かな。
しかし最後には焦げて目を回したバーサーカースネークが倒れた事で、決着は着いたぞ。
『これは凄い! 初参加のルイス選手! ベテラン魔物使いを瞬殺! 余裕で二回戦進出です!!』
『グオォォォン!!』
『~~~~♪♪』
勝利を祝う歓声と共に、ベヒーは鳴き、エミックも嬉しそうに跳ねている。
私も仲間達に腕を出しながらやったとアピールし、こうして私達は二回戦へと歩みを進めたのだった。
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