第35話:冒険者+5:裏暗躍開始

 あの一回戦から私達は順調に勝ち進んでいた。

 二回戦は簡単に突破し、三回戦も今まさに決着を付けようと追い込みを掛けている。


『おおっと! ベヒーモスとミミックコンビ! サイクロプス三体を相手にしても物ともしないぞ!!』


『グオォォォン!!』


『――!』


 目の前で、巨大なサイクロプス<60>三体を、エミックとベヒーは相手している。

 だがベヒーの馬力は凄まじく、サイクロプス二体でも抑えきれなくなっていた。


 しかも無駄に相手のレベルも高いサイクロプスだから、エミックもガリアン森林の時の様に『戦闘状態』となって会場は大盛り上がりだ。


『グオォォォン!!』


 ベヒーを抑えようと一匹のサイクロプスが後ろに回るが、ベヒーをそこ狙って蹴りを入れた。

 その勢いでサイクロプスを吹き飛ばされ、壁に激突して瓦礫に呑まれてしまう。

 そして最後にはサイクロプスを角でかち上げ、そのまま宙に投げ飛ばす。


 そのまま地面に叩き付けられた事で、サイクロプス二体がダウンだ。


『――!!』


 そして戦闘状態のエミックも、また馬乗りとなって殴り続け、最後は口から闇魔法を発射している。

 結果、砂煙が晴れると目を回すサイクロプスを現れ、試合はここで終了だ。


『決着!! サイクロプス三体を操るビッグ・カマーセ選手を下し! ダンジョンマスタールイス選手達が準決勝進出!!』


「キャアァァァァァ!!! ルイスさん大好――」


「ルイスさん! 流石です!!」


「――ハァ?」


「――うるさいの向こう側にいますね」


 何故だろう。これだけの歓声なのに、フレイちゃんとエリアの声が良く聞こえるぞ。

 それにフレイちゃんの言葉をエリアが遮った途端、二人の間の空気が重い。

 あの二人の席、反対側にあるから聞こえる筈がないんだが。


 そうだきっと気のせいだ。彼女達が睨み合っている様に見えるのも、試合の熱のせいだ。


 私は何か怖い感じを抱き、二人に気付かないフリをして、エミックとベヒーと共にスタジアムから出る事にした。


「ハァ~、これで今日は終わりだぁ……」


 魔物も入る巨大な控室に戻った私は、ようやく肩の力を抜く事が出来たよ。

 人酔いもしたし、熱気が凄いな。


 でも準決勝とか明日だし、今日は一旦終わりだな。


『凄い!! 瞬殺です! 第三回戦最後の試合ですが! オリハルコン級ギルド『魔天の牙』のギルド長! ミユレ選手とホワイトファングが余裕の準決勝進出!!』 


「また瞬殺か……」


 控室にも聞こえてくる実況と歓声。

 昨日、受付で出会った彼女、本当に強いな。


 このままの流れなら決勝の相手は、彼女達かもしれないな。


『~~~♪』


『グオォォォン!!』


 けど、エミックもベヒーも全然疲れた様子がない。

 余裕があるし、明日も期待できそうだ。

 負けたら負けたで、私が依頼を増やすしかないな。


 それも冒険者して最高の人生かもね。

――引退したいけど。腰が痛いんだよぉ。

 そんなこんなで今日の試合は全て終わり、私達は宿へと戻った。


♦♦♦♦


 そしてその晩、合流したフレイちゃんやギルド長達とも合流し、楽しい夜を過ごした。

 レイ達にしても懐かしい面々で、楽しそうに飲んでいるし。


 ただ何故か、フレイちゃんとエリアが私の端を陣取って、なんか色々と睨み合っている事を除けば平和だったね。


 ギルド長やミアは賭けに参加して、全部私に掛けて儲けたと言っていた。

 全く、油断も隙も無い。


 でもクロノやミア達の仲間から、皆の話を聞けたのは楽しかったな。

 クロノは真面目過ぎて怖いらしいし、ミアは仕事しないで逃げるから大変だと言っていた。


 全く、誰に似たのか自由過ぎるな。

 しかしいかんな。少し飲み過ぎた。夜風に当たった方が良いか。


「少し、酔いを醒ましてくるよ」


「おう! 気を付けてな!」


 皆、騒々しくて反応してくれたのが、ギルド長だけだったのは何か複雑だが、まぁ良いか。

 私が外に出ると月明かりに照らされ、良い温度の涼しい風が吹いていた。


「……ふぅ。気持ちいいな。少し歩くか」


 娯楽の多い都市パンドラだが、この辺りは比較的静かな様だ。

 カジノとか露店が多いとも聞いたが、宿屋だし静かな場所なのだろう。


「遠くの方が騒がしいのか……でも土産は今日は良いか」


 私は周囲を少し歩き、酔いを醒ましていく。

 すると私は、背後からの足音に気付いた。 


――気のせい……ではないな。


 少し誤魔化す様に足を止めたり、少し試してみたが、やはり私を意識している様だ。

 でもなんだ。強盗にしては動きが比較的はプロだ。


 少し尾行が雑っぽいし、半端に技術を持っているって感じか。

 これなら先に仕掛けるか。


「いつまで付いて来るつもりだ! 既に気付いている! そっちが姿を見せないなら、こっちから行くぞ!」

 

 念の為、ガントレット・ブレードを装備していて良かったよ。

 冒険者の職業病に感謝だな。


 そして私がブレードを展開すると、やはり相手は二流だ。

 堂々と姿を見せて来た。人数は6人――全員がフードを付けていた。

 念の為、彼等意外にも神経を研ぎ澄ましてみたが、周りにはいる気配がない。


――いやいるな。空気の流れが変だ。


 私はもう一人、この近くに見ている事に気付いたが、露骨に敵意を感じない。

 なんだ、敵じゃないとアピールしているのか?


 けど目の前の連中はそうじゃないな。

 すぐにナイフや武器を出して、明らかに脅しをかけて来たな。


「ルイス・ムーリミットだな。――単刀直入に言う。明日以降、モンスタースタジアムの試合を棄権しろ。さもなくば――殺す」


「痛めつけるんじゃなく……殺すか。そう言うって事は、君達の依頼主が私の生死をがどうでも良いのか、それとも君達の独断か。――どちらにしろ、相手を吐かせた方が良さそうだな」


 私はそう言って構えた。

 どうやら、目の前の連中は脅しだけで、戦闘力はチンピラ程度でしかない。

 少なくとも私はそう判断し、ブレードに重力魔法と氷の魔法を纏わせる。


「……魔法を使って来たぞ」


「くそっ……冒険者の相手か。一気に囲むぞ!」


「作戦を口にする程度なら、最初から知れた実力だぞ!!」


 私の魔法に僅かに臆し、ぎこちなく私を囲もうとするフードの者達に私は叫びながら突っ込んだ。

 あまりにも未熟。嘗められたモノだと、私はすぐに目の前の男を蹴り飛ばした。


「ぎゃっ!」


「こ、この!」


「やっちまえ!」


「甘いな!――グラビウス!」


 挟んで来る左右のフードの男達へ、私はグラビウスの力で地面へ押し潰した。 

 そして相手が泡を吐いて気絶するのを確認すると、すぐに残りの三人の方を向いた。

――時だった。


 月光に照らされた黒い影が現れ、一瞬でフードの男達を無力化したのだ。

 そして私には、その黒い影が誰かすぐに分かった。


「小太郎!」


「……師匠、ご無事ですか?」


 顔を目以外隠し、全身を覆う黒装束を着た青年。

 それは私の弟子の小太郎であった。

 飲みの席にも来なかったし、少し心配していたが助かったな。


「助かったよ小太郎……でも――」


「えぇ、まだいますね。――出てこい」


 私と小太郎はそう言って建物の角にいる気配の方を向き、ブレードと小太刀をそれぞれ構えた。

 最初からいた敵意のない謎の存在だが、見逃せる場合でもない。


「ウフフ……あらあら、怖い怖い。その様な物、女性に向けるのはマナー違反なのでは? ねぇダンジョンマスター様?」


「女性……!」

 

 出て来たのは夜で、雨でもないのに和傘を差した女性であった。

 簪で髪を纏め、和服の様だが妙に露出も多くて、雰囲気も色香が凄い。

 だがどうも歳は若く見える彼女を見て、私は気を許す事は出来なかった。


「師匠……お気を付けて」


「あぁ、分かってるよ。――誰だい、君は?」


「初めまして、裏ギルドの一角『魔天の桜月まてんのさくらづき』の長――十六夜いざよいでございます。お初にどうぞ、ダンジョンマスター様」


 そう言って彼女――十六夜は和傘の中で、美しく笑って私達を見ていた。

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