第36話:冒険者+5:裏ギルド頭領、十六夜 登場!
目の前の女性を見て、私の警戒心が緩むことなかった。
「裏ギルド――『
「それも今では元でございます。グアラは貴方様達によって破滅し、今では二大裏ギルドとして、裏を束ねております」
「……敵討ちとか、裏が嘗められるから報復。そんな感じ、じゃなさそうだね」
「無論」
十六夜と名乗った女性は、私の言葉に一切の間を空けずに頷いた。
「元々、グアラは裏の掟を破っておりました。ですので、貴方様達と戦うのが先か、こちらで粛清されるのが先か。それしか違いはありませんでした。――ですので、報復する理由は我等にはありません。賭けでも、貴方様のお陰で儲けさせて頂きましたし」
そういって彼女はクスクスと笑っている。
さてどうしようか。私が襲撃されたのは事実だが、彼女――十六夜が嘘を言っている様にも見えないぞ。
しかし賭けか。小太郎を始め、色んな人が言っていたな。
モンスタースタジアムでは裏の人間も賭けをしていると。
「……私のせいで負けた人間。または胴元か?」
「それもまた断言が出来ません。可能性ならばある……しかし今の所、大損害を出したのは胴元ぐらいでしょう。他の方も損害はありましたが許容範囲。答えを知っている者ならば、恐らく――」
そう言って十六夜は、周りで倒れている者達に目線を向けた。
確かに、今はこれしかないか。
私と小太郎は気絶する者のフードを取ると、出て来たのは若者と呼べる者達だった。
やはり経験が浅い連中だった様だと分かり、私は他にも証拠を探していると、彼等の服や身体にギルド紋の刺繡や刺青が刻まれていた。
「ギルド紋か――これは、竜の首と大剣か……?」
「そのギルド紋なら一つしかありません。傭兵ギルド『
「その名前、聞いた事があるな」
確か嘗て、どんな犠牲を払っても竜を狩った事があった連中の筈。
その理由自体は損得勘定だったと、私も仲間から聞いた事がある。
だが竜狩りの名を聞いて、今では手練れも大勢いる一大傭兵団だ。
けれど、その名を聞いた十六夜は懐疑的な表情を浮かべていた。
「その名ならば確かに、裏賭博の参加者にいらっしゃいました。しかし妙ですね、確かに大負けしてましたが、報復する程に荒れていた感じではなかったのですが?」
「……その言葉を信じたいけど、実際に私は脅されてるし、襲撃もされた。でも確かに人選に違和感があるね」
裏の人間は金への執着も強い。
予定外の存在のせいで損害が出たならば、怒りは強い筈だ。
だが倒れているのは新人っぽい、覇気も貫禄もない連中だけ。
本当に脅しだけなのか?
「負けた腹いせ……だけだと良いんだけど。――それで話は変わるけど、君は何でここにいるんだい?」
「いえ、ただの興味です。貴方様へのね。――ただ、先に言っておきますが、この一件に関しては私共が一切関与しておりません。運悪く遭遇してしまっただけです」
「……都合が良い話だ」
小太郎が彼女を睨みつけるが、彼女は全く怯んだ様子はない。
寧ろ、自信があるのか堂々としているよ。
「私も運が悪かった……どうやら賭けで、今日の運を使ってしまった様ですね。ですが、だから敢えて敵意を無くし、存在感だけを残したのです。敵意があれば、騒動に乗じてますし、私一人で来ませんよ」
「……師匠」
「今は信じようか。実際、彼女から敵意は感じないよ。――それに下手に捕まえようとすると、こっちも痛い目に遭いそうだ」
上手く隠しているけど、分かるよ。
あの和傘や、露出の多い服装で油断させてるけど色んな場所に暗器が隠されてる。
怖いな。あんな敵意無しで暗器を持つんだから、彼女は手練れだ。
私は思わず力量の瞳を発動し、彼女のレベルを見ていた。
「……レベル<67>か。凄いな、その若さで」
エリアと殆ど差がない年齢で、このレベル。
やっぱり今は戦わなくて正解だ。
「成程、それが噂のダンジョンマスター様の金色の瞳。――思わず欲しくなりそうですが、今回はここらで退いた方が互いの為の様ですね」
「ハハッ……退き際も早いか。本当に凄いな君は」
「そういうダンジョンマスター様と、その御弟子様こそ……この様な小娘に一切、警戒を解かない。面白い御方達、見に来て正解でした。――それでは」
彼女はそう言って、和傘と共に私達へ背中を見せた。
すると季節外れの夜桜が舞い、気付けば彼女の姿はいなかった。
「師匠……あの女を含め、私は少し裏を探りますので、お気を付けて」
「無理はするなよ小太郎。ここ最近、ずっと揉め事ばかりだ。だからどこで繋がってるか分からないんだ」
「御意」
そう言い残して小太郎も闇の中に消えていった。
全く、普通に大会に参加で終わりだと思ったのに、また何か起こりそうだ。
この残された連中も何とかしないと。
取り敢えず、クロノ達を呼んで助けて貰おう。
おっさん一人じゃ、この片付けは辛いよ。
こうして騒がしい夜の散歩を終えて、次の日。
モンスタースタジアム、準決勝が始まる。
♦♦♦♦
都市・パンドラにある人払いされた豪華な一室。
そこに二人の人間が座っていた。
一人は手の甲に、竜の首と大剣の刺青が刻まれている眼帯の男。
――その男の名は<ドグマ・マドラス>
ルイスを襲撃した傭兵ギルド。その頭目、その人であった。
そしてもう一人は、古代文字が刻まれたローブを纏った男であった。
二人は何やら話をしており、やがてドグマは一通の手紙らしき物を読み始めた。
そして、溜息と共に燃やし、灰皿へと入れた。
「すまんな。どうやらしくじった様だ。あのダンジョンマスター、明日も平然と出て来るぜ? 意外と強いんだな――しかし、こっちも意外だ。互いに負けはしたが、依頼してまで奴に報復とは。そこまで金に困ってねぇだろ」
『詮索をするのですか?』
「分かった! 俺が悪かった! 依頼も……決勝までに何とかしてやるよ。――んじゃ、今日はもう帰る。明日は勝たねぇとカツカツで帰る事になりそうだ」
そう言ってドグマは部屋から出て行き、残されたのはローブの男だけとなった。
『あの連中、どこか本気を感じん。奴等だけでは不安だ。準備があるとはいえ、このままでは殺せるとも思えん』
可能なら殺せと依頼した筈が、どうも空気が軽い。
ローブの男は少し疑問を抱き、ドグマが酔っていた事もあって依頼を適当にした可能性が過った。
こうなれば自身の信者を使ってでもルイスを殺してやると、男は黒い逆さ十字を取り出し、祈る様に握った。
『あぁ……ノア様……あなた様の仇、必ず私が!!――全ては始高天の、新たな創世の為に!!』
誰もいない部屋で、その男の叫びとも取れる祈りだけが響き渡るのだった。
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