第37話:冒険者+5:始高天の罠
翌日、昨夜の事をクロノ達に相談しに戻った頃には襲撃者達はいなくなっていた。
しかしクロノ達は話を信じ、警備をしようと言ってくれたが裏ギルドとの件もある。
だから私の事ではなく、自分達の仲間の事を守れと言っておいた。
何かあればエミックやベヒーもいる。
小太郎も動いている以上、何とか出来る筈だ。
私は少し心配そうなクロノ達を説得し、今まさに準決勝に参加していた。
『グオォォォン!!!』
『――!!』
『ウオォォォ~ン!!』
『壮絶だ! 壮絶な戦いだ!! 常勝のベヒーモスとミミック相手に、アスラゴーレムが真っ正面から迎え撃っているぞ!!!』
そう準決勝は今まで通りの瞬殺という訳にはいかなかった。
相手は一体だけだが、その一体が問題なんだ。
――アスラゴーレム。三面六手の巨大なゴーレムだ。
六本に腕を上手く使い、質量のある腕でベヒーモスとエミックを真っ正面から押し返す力を見せている。
「凄いな、ゴーレムもありなのか……!」
確かに魔物に分類されてるが、質量とか何か違うじゃないか。
いや相手が魔導士だから、まさかと思ったけどさ。
『ウオォ~ン!!』
拮抗する押し合いの中、ゴーレムは腕を器用に動かし、ベヒーはバランスを崩した。
その隙を突いて、ゴーレムは蹴りでベヒーを押し出して壁へぶつける。
だがそこへエミック(戦闘状態)が一気に迫り、渾身の拳で相手の腕の一本を砕いた。
そこへ態勢を整えたベヒーが突っ込み、相手の腕二本を角で粉砕し、凄い地響きがスタジアムを襲った。
「おおっと! これは凄いな……!」
なんて揺れだ。スタジアム倒壊しないよな!?
だがそれよりも決着がつきそうだ。腕が減った事でゴーレムの動きが鈍くなったぞ。
『グオォォォン!!』
『~♪』
ベヒーがゴーレムの腰に角を掛けて、一気に宙へ、そこにエミックが闇を魔法を放った。
そしてゴーレムに直撃して砕けた! よっしゃ勝ったぞ!
相手の魔導士もコアだけ回収して白旗上げてるし、これで決着だ。
『ゴーレム粉砕! 決着です! 決勝進出は初出場にして突破してきたルイス選手だ!!』
「良し! あと一勝だ!」
私は仲間達や一般の歓声を受けながら、控室へ戻る為に通路へ戻って行った。
多分、決勝の相手は彼女だと思うし、今出来る事はエミックとベヒーと一緒に休む事だ。
私は巨大な通路を通りながら、控室の扉が遠くに見えた時だった。
『グオ!』
『――!』
不意にベヒーとエミックが警戒し出した。
なんだ空気が重いし、少し淀んでいる。
「誰だ……そこにいるのは?」
私は呟く様に言うと、通路へ私の声が不気味な程、静かに響き渡る。
すると通路の左右から、数人の武装した男達が現れた。
しかし動きがおかしい。脱力したようにフラフラと動いている。
嫌な予感がする。私はガントレットブレードを構えると、男達は姿を見せた。
その男達は剣等で武装して、装備や身体のどこかに竜の首と大剣のギルド紋があった
――だが一番妙なのは、彼等全員、額に小さな魔法陣がある事だ。
「お前達、まさか『竜狩りの傭兵団』か……けど、その額の魔法陣は一体……!」
禍々しい光を放つ魔法陣。しかも男達の目は白目で意識がある様に見えない。
「どうなってるんだ! エミック! ベヒー! 加減はしてやれよ!」
私はそう言うと、レベル対象をエミックにして強化すると同時にだった。
「う、う、うおぉぉぉ!!」
なんだこいつ等! 一斉に襲い掛かって来たぞ!?
私は咄嗟に一人の顎を蹴って倒すと、ベヒーも角から放電して倒してくれて、エミックも大きな闇の拳で複数人をぶっ飛ばしてくれた。
「おぉぉぉ!!」
「意識がないのか本当に!!」
仲間がやられているのに連中、全く怯む様子がない。
しかも力が異常に強いぞコイツ等! 補助魔法でも掛けられているのか。
私はブレードで、相手の剣を受け止めながら腹を蹴って一気にグラビオスの力で無力化した。
「これで最後か? 何なんだ……一体」
変な薬とかの話じゃないぞ、これは。
私はどうも嫌な予感を抱いたが、ここにいる方が危ない気がする。
私は素早く、エミック達とその場から去った。
――だから気付かなかったんだ。この時、一人のローブの男が一部始終を見ていた事に。
そして、そんな事をしている間にも準決勝は終わっていた。
決勝に進んできたのは勿論、ミユレとホワイトファングだ。
クロノ達や小太郎に連絡したかったが、そんな暇もなく決勝は休んですぐだった。
仕方ないと思いながらも、私達はスタジアムへと戻って行った。
♦♦♦♦
『さぁ! 遂に始まった決勝戦! 今回勝てば5回連続の優勝となるミユレ選手!! 対するは初出場で優勝に王手となるルイス選手だ!!』
「まさか決勝まで来るなんて、本当に凄い人ね。そっちの魔物達も、本当に良い子達ね羨ましいわ」
いやベヒーはまだよく分からないが、エミックはなぁ。
最近、何故か若い子達のお尻を舐めるし、少し悩んでる。
エリアなんて、絶対に後ろ気にする様になった原因だよ。
「いや、そっちのホワイトファングの方が凄いじゃないか。レベル<70>だなんて、どうやって育てたんだい?」
「驚いた、レベルが分かるの?」
「そういうスキル持ちでね」
私の言葉に彼女はそう言うと納得してくれたが、それにしても無駄に警戒してしまうな。
あんな襲撃だ。練度は低いが、不気味な感じは間違いなくあった。
何事もないと良いんだが、私は内心で不安を抱きながらエミックとベヒースタジアムへ入場する。
相手はホワイトファング一匹だけだが、速さは凄い。
パワータイプのエミック達が、どこまで戦えるかだ。
『では長らくお待たせ致しました!! ただ今より! 決勝戦を――』
「少し待って頂きたい」
実況の言葉を遮り、そいつは突然現れた。
空中に浮き、見覚えのある古代文字が書かれたローブを纏った男が。
「あれは始高天の!」
「なっ! 誰よアイツ!」
そうか、彼女もそうだけど、他の皆も始高天はよく分からない存在だよな。
私が長のノアを倒して、彼は王都で尋問を受けているが情報は何も出ていない。
だが奴もメンバーだろ。なら碌な事をしない筈だ。
会場がざわつき、私が警戒していると男はフードを取ると、水色の長髪に、十字架の刻まれた瞳が姿を現した。
「魔眼持ち……! 何を企んでいるんだ! 始高天!」
「気安くその名を呼ぶな、ダンジョンマスター。長の仇……!――だが冥途の土産だ、教えてやる。私は裏教会・教祖。そして私設集団<闇十字>の戦闘長・グリム・ファンジーだ」
裏教会?――確か、いるかも分からない謎の神を祀ってる連中だな。
けど生贄とか平然とやるから、随分と前に王国から手配されて、幹部達は極刑に遭って壊滅した筈。
まさか始高天が残党を纏め上げたのか。
「ノアは捕まったんだぞ! なのに何をする気だ!」
「だからと言って終わりではない! 見せてくれる! 我が禁術を!!」
グリムが両手を合わせると、魔力が溢れ出した。
そして突如、スタジアムの中心に大きな魔法陣が現れると、その魔法陣に上に大勢の人間がいた。
またその人間達には竜の首と大剣のギルド紋があり、何やら貫録のある眼帯の男達も混ざっている。
「魔の神よ! 我が捧げる贄を食し、この世界に降臨せよ!!――いでよ! <ボーン・デッド・ドラゴン>」
「贄!? 待て! 止め――」
私が叫ぶよりも前に、魔法陣から巨大な魔力反応が起こった。
そして魔法陣の上に人間達は消え、代わりに巨大な骨の竜が現れた。
その魔物の降臨に、グリムは両手を上げて叫んでいた。
「やれ!! 不死身の骸竜よ! 始高天の――ノア様の敵を消し去れ!!」
「くそっ! 何だって言うんだ!」
ただ餌代欲しかったのに、また始高天か!
私は内心で愚痴りながらも、エミックとベヒーと共に身構えるのだった。
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