第33話:冒険者+5:開幕 モンスタースタジアム!
大都市・パンドラへ私達は入った。
都市内では既に祭りでも始まっているかの様に、色々な屋台や大道芸が行われている。
そして、食べ歩きながら楽しむ笑顔の人々を見て、私も嬉しく思えた。
懐かしいな。よくミアとかに、ああやって買ってやったものだ。
私は懐かしく昔を思い出していると、不意にクロノの馬車が横に来て、私へこれからの動きを教えてくれた。
「師匠、これからですが……まずスタジアムに行き、出場の受付をします。事前に連絡しているので、他の者より早く終わる筈です。そこからモンスター舎付きの宿を取っておりますので、そこへ案内します」
「すまないなクロノ……お前達に頼りっぱなしだ」
「そんな……師匠のここ最近の功績を考えれば当然ですよ。師匠はもっと自信を持ってください」
「う~ん、何度言われても自覚がないからなぁ……」
クロノも難しい事を言ってくれる。
確かに私の経験や実力もあるだろうが、それでも『+Level5』が無ければ、私はとっくに死んでいるさ。
それだけは確かだし、ノアとの戦いだって行き当たりばったりで必死なだけだった。
まぁ運だよ運。
そんな風に思いながらスタジアムへ私達は向かっていると、やはりベヒーもそうだがクロノ達にも気付く者達が多くいるようだ。
徐々に周りからの視線が、強くなって来ているな。
「おい見ろよ……あの魔物でっけぇ!」
「あの姿、まさかベヒーモスか! 奴を従えるとは、あのおっさん何者だ?」
いや正確には、従えたのはエミックだと思うんだよ。
あんな馬乗りになってボコボコにしてたし、まぁ一応、ベヒーの前の飼い主であるノアを倒しているから、そうなるのかな?
「ってよく見ろ! あのベヒーモスに掛かってる装飾布に書かれた印って、オリハルコン級ギルドやプラチナ級ギルドの紋じゃないか!」
「王国騎士団のもあるぞ! 魔導衆の紋もだ!」
「本当に何者だ!? 後ろ盾になんて連中を引き連れてやがる」
別に引き連れてないって。
ベヒーに掛けられてるの布だって、クロノやミア達を始め、来れなかった弟子達もオシャレさせないとって張り切って作ったんだよ。
それに嘗められると悪いからって、それぞれの騎士団の印やギルド紋も刻むし、やっぱり目立ってるよなぁ。
「見ろ! クロノ・クロスロードだ! オリハルコン級ギルドだ!」
「こっちにはミア・ナックルヘッドもいるぞ!」
「あそこにいるのは騎士団の黄昏のエリア様よ!」
うおっ、凄い声援だな。もう何を言っているか、おじさんの耳には聞こえないよ。
まぁ、それでも弟子達の人気は嬉しいものだ。私は馬車の運転に集中しながら、この空気を楽しもう。
「それにしても、まだ着かないか……ん?」
その時だ。不意に私の視界の中に、他の者達と違う違和感のある住人が写った。
ただ別に危険人物とかじゃない。周りが声援を送っている中、その住人達だけが、難しそうに考えている表情だったからだ。
「……なんだ?」
私は気付けば意識を集中し、この声援の中でも彼等の会話を聞き取ろうとしてみた。
すると、微かにだが、彼等の会話が確かに聞こえた。
「ベヒーモスとはな……今年のスタジアムは荒れるな」
「あぁ、見たところマスターは新人だと思う。あれだけの魔物を扱うのに、大会で見た事がない」
「そうなると、裏の連中が騒がしくなりそうだ」
――裏の連中って、どういう事だ、賭け事でもしているのか?
私はその先も気になったが、それ以上は聞こえず、馬車もそのまま進んで行く。
だがこれだけの規模の祭りだ。裏の者達も資金を稼いだり、洗浄しに来ているだろう。
それにこっちはイカサマしている訳でもないし、堂々としていよう。
少しの不安は残るが、私は気にしない事にして、受付の為にスタジアムへと向かう事にした。
♦♦♦♦
スタジアムに辿り着いた私達を待っていたのは、大勢の魔物使いと、その魔物。
そして護衛のギルドの者達であった。
「おぉ、これだけの魔物……しかも珍しいのもいる。これは圧巻だ」
軽く見渡しただけでも、有名な魔物も多いな。
アイアンリザード・サイクロプス・ギガゴーレム・ジェネラルゴースト。
他にもいるが、凄いなこれだけの魔物を扱う者達が集まるのか。
私は相手が凄いと思っていたが、どうやらそれはこちらも同じ事の様だ。
スタジアム前で受付待ちをしている者達が、一斉に私の方を見て来たから。
「なっ! ベヒーモスだと……!」
「聞いてない。事前情報じゃ、あれだけの大物がいるなんて無かったわ」
「マスターも見た事がないが、魔物使いなのか?」
「それに見ろ……周囲の連中、オリハルコン級ギルドや騎士団だぞ。どうなってんだ?」
やっぱり目立つか。
ベヒーモスは危険度9以上にしかいない、魔物界でも最上位種だ。
ここまでなると最早、悪目立ちだな。
しかし、受付も結構早く進んでいる。
これならすぐに終われそうだ。
私がそう思ってると、受付にいる主催者らしき豪華な服を着た男が、参加者の書類を読み上げていた。
「さて次の受付の方は――って、おおベヒーモスか! それにミミック? マスター名はルイス? まさか、ルイス・ムーリミットか!」
「ん?――って、貴方はガイル! ガイル・マースター!」
彼が私を見ながら嬉しそうに叫ぶと、私も気付いた。
若干、ふくよかな体系の金髪の男性――ガイル。彼は、私の古い友人だった。
「まさかと思ったがお前とは! 全く元気そうだな!」
「貴方こそ、奥様はお元気で?」
「あぁ元気すぎるぐらいだ! 逆にお前の方が心配だったぞ! 幾らチケットを届けてもスタジアムに来ないんだからな!」
「アハハハハ……依頼もあって、どうしてもね」
そうだった。ガイルはよく実家にチケットを送ってくれていたが、忙しくて私は気付かなかったんだよな。
悪い事をしたが、まぁ再会できてよかった。
そんな風に私達は再開を喜んでいると、エリアが興味深そうに私の傍に寄って来た。
「ルイス殿、お知り合いなのですか? この方は、モンスタースタジアムの主催者――ガイル・マースター氏ですよ?」
「あぁ、古い友人だよ。昔、彼の奥さんが病気で倒れてね。その依頼で危険度8のダンジョンから薬草を採って来たんだ」
「あぁ、懐かしい話だな。友人であり恩人だ。――ところで話は変わるが、どうしたんだ、このベヒーモスは? 冒険者から魔物使いに転職か?」
「そうじゃない。ちょっと訳ありで、引き取る事になったんだ。けど、餌代がね」
「餌代って、お前……」
ガイルは呆れた様に肩を落とすが、すぐに顔をあげて私の近くに来て耳打ちしてきた。
「友人からの忠告だ。このスタジアムでは裏の人間も賭け事で儲けている。だから八百長も平然とする連中もいるから、目を付けられない様に気を付けろよ」
「……そう言う事か。ありがとうガイル」
裏の連中はイレギュラーを嫌うか。
街で見た住人もそれを知っている者で、どうやら私は嫌な相手の様だな連中からすれば。
「だがベヒーモスやミミック。それだけで勝てる程、甘くはないぞ。私だって贔屓はしないからな」
「されたら逆に怒るよ。正々堂々と突破させてもらう」
「それでこそのダンジョンマスターだ! 受付はこっちで済ませてやるから、今日は宿で魔物も、お前も早く休め」
そう言ってガイルは受付へと戻って行った。
だが彼の最後の発言は、どうやら爆弾になった様だ。
何やらざわめきが起こり始めたぞ。
「ダンジョンマスター……って、まさか伝説の冒険者か!」
「どんな危険なダンジョンも生きて帰る伝説。どうりでベヒーモスを従えられる筈だ」
ここでもダンジョンマスターの名が響くか。
周りからの警戒の目が凄い事になったぞ。侮られた方が楽なんだが。
「成程ね、ベヒーモスを扱う新人って街で聞いてたけど、まさか伝説の冒険者だなんて。それなら周囲の者達にも納得ね」
不意に私は左側から声を掛けられた。
私はそっちの方を向くと、そこにいたのは大勢の魔物と魔物使いを率いる一人の女性が立っていた。
しかも巨大な真っ白い狼の様な魔物もいる。確か危険度7にいる『ホワイト・ファング』って魔物の筈だ。
「君は?」
「ミユレよ。ミユレ・グランダム。オリハルコン級ギルド『
「あぁ聞いた事あるな。確か魔物使いだけで構成してるってギルドだな……」
ミユレの言葉に、串焼きを食べながらミアが説明してくれた。
しかし串焼きって、いつの間に買ってきたんだ。
「魔物使いのオリハルコン級ギルド……凄いな。私はルイス・ムーリミット。ただの冒険者さ」
そう言って私が手を差し出すと、彼女も握手に応じてくれた。
「えぇ、宜しく」
「あぁ……宜し――」
私を挨拶を――そう思っただけだったんだが、彼女はそのつもりじゃないらしい。
彼女は握り潰すつもりで腕を握ってきている。
試す気なのか、それとも本気で潰すつもりなのか。
だが彼女の行動で私のスキルが、ミユレを対象としてレベルが変動した。
今の私のレベルが<56>となった。と言う事は、彼女は<51>レベルか。
私はレベル差を利用し、握る手に力を込める。
純粋な力ならば私の方に分がある。彼女もそれに気付いたのだろう。
「……っ」
一瞬だけ表情が歪み、手が緩んだ所で私も手を放した。
「御眼鏡には叶ったかい?」
「えぇ……てっきり甘く見て大会に来たと思ってたけど、甘く見たのは私みたいね」
『グルルゥ!!』
『ガルルルル!!』
どうやらベヒーは彼女が私に害を及ぼそうとしたと思ったのだろう。
ベヒーは威嚇する様に声をあげ、彼女のホワイトファングも守る為に威嚇を始めた。
「こらこら止めなさい、ベヒー!」
『グルルゥ~ン』
「あなたもよ、ファン」
『……』
私と彼女の言葉に二頭は静かになった。
やっぱり賢いし優しい子だ。
私はベヒーを撫でてあげると、ベヒーも嬉しそうに擦り寄ってくる。普通に怖いな。
「……ベヒーモスをそんな風に扱うなんて。これが伝説の冒険者なのね」
そう言って彼女は手を振りながら去っていった。
「何だったのでしょう。牽制でしょうか?」
「それもあるだろうけど、新人ってのは自分達の環境を乱す存在って思われがちだからね。だから、牽制じゃなく嘗めてるなら潰す気だったんだな」
エリアからの問いに私はそう答えた。
そんな気じゃなかったら、あの握る手の力は過剰過ぎるよ。
どうやら色々と問題はありそうだ。
私は少しの不安を胸に、クロノ達が準備してくれた宿に行くと、ベヒーも普通に入れる宿で驚いたよ。
店主曰く、昔はもっと凄くてドラゴンを扱っていた者もいたらしい。
その名残で、こんな大きな宿を作った様だ。
そんな宿で店主や仲間達と話しながら、私は一夜を過ごした。
明日から大会だ。さてどうなる事やらだ。
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