第二章:冒険者+5王都に行く
第7話:冒険者+5:スカウトされるし、スカウト阻止で弟子も来た
「こちら依頼品――『七色鳥の羽』です。確認をお願いします」
あのエリア殿達との『翠の夢』の依頼から数日。
色々と思う事はあったが、私は相も変わらずギルドの依頼を熟してお金を稼ぐ、いつもの生活を送っている。
いや、心は燃えてたよ。でも所詮はおじさんの一時の迷いだ。
朝起きて、肩や腰を少し痛めるわで一日丸々横になって、治った次の日にはプライベートでダンジョンに行こうって活力はなくなってたね。
「え~と、はい確かに! いつもありがとうございます! ルイスさん! こちらが依頼金となります」
「は~い、どうもありがとう」
で結局、こうやっていつもの日常に戻ってる訳だ。
その日の依頼を熟し、受付でフレイちゃんの笑顔を見て癒されて、ギルドで仲間達と食事したりさ。
本音を言えば、あの時の事を思い出すと今でも心が燃える。
でもやっぱり、こんなおっさんが何をもう一度夢を見ているんだと恥ずかしくも思う。
だから手を撃っておくのも早めの方が良いかもね。
この<ダンジョンマスター>って称号を終わらせるのに。
今回みたいに、その称号を頼って来てもらった結果が、こんなおっさんでは申し訳ない。
本当にいよいよ冒険者を引退かな。
「あのルイスさん? どうかなさったのですか?」
「えっ……あぁいや、何でもないんだ。少し考え事をね」
危ない危ない。フレイちゃんは勘が鋭いし、私が冒険者引退するって言ったら絶対に止めるよ。
前に腰を痛めて冒険者を引退するって冗談言ったら、次の日にはギルドに退職届を出して実家に帰る寸前だったからなぁ。
行動力は本当に凄いよ、この子。
「本当ですか?――あっ、そう言えば! 手紙が来てました! 王国騎士団のエリア殿達からです!」
「えっ! 本当かい!」
私の態度に疑う目で見ていたフレイちゃんだが、思い出した様に手紙を出してくれた。
これは予想外だけど嬉しい話だ。
あれから連絡も無いし気にはなっていたんだ。辺境だから情報は遅いからなぁ此処。
ただ騎士団長が亡くなったってなれば大事件だ。そんな話が届いてないから安心はしていたけど、やっぱり確証はなかったからね。
「おっ! なんだ、この間の騎士団の嬢ちゃん達からか?」
「おぉ無事に治ったのか!」
話を聞いてギルド長や仲間達も受付へやって来る。
「それで何て書いてあるんだい?」
「え~とですね。拝啓、ギルド<片翼の鷹>に皆さまへ――」
そう言ってフレイちゃんは三枚もある手紙を読み上げていく。
前半はお手本の様な格式ある礼状文であった為、ギルド長が飛ばせ飛ばせと五月蠅いので、フレイちゃんもパパっと流し読みで本題を探していた。
「じゃあ……それで、ありました。皆さまのお陰で無事、団長の毒も治り元気になった!――との事です!」
「よっしゃー!!」
「苦労した甲斐があったもんな!」
「よ~し! 今日は飲むぞ! 儂がおごってやる!!」
手紙の内容に皆、大はしゃぎだ。
でも無理もないな。あれは久し振りの大仕事だったし、冒険者として結果を知れるとやっぱり嬉しいものだ。
ギルド長も凄い喜んでるし、今日は朝まで皆と呑む事になりそうだな。
けど変だな。手紙は三枚あるのに本題は一枚目に書いてあったようだ。
お礼の言葉にしても便せんで2枚は長いよ。
「フレイちゃん、残りの手紙には何が書いてあるんだい?」
「えっとですね……なになに――」
フレイちゃんはそう言って手紙を読んでいくが、何やら雲行きが変だ。
皆と喜んでいた筈の彼女の表情が、徐々に険しく、いや間違いなく怒りに満ちている。
最終的には無表情になったぞ。一体何が書いてあったんだ?
「フレイちゃん!? い、一体手紙に何が……?」
「あぁ~どれどれ?」
様子がおかしいとギルド長や仲間達も様子が変だと、後ろに回り込んで手紙を覗き込んで読み始める。
私は隙間がなくて読めなかったが、別に大勢が読んでいるなら私は読まなくても大丈夫だろう。内容を聞けばいいんだ。
そう思っていた私だが、何故か誰も何も言わない。
なんだ、本当に何が書いてあるんだ。心なしか、歳の近い仲間達は複雑そうな顔で私を見ている。
若い冒険者も読んでは私を親の仇の様に睨んで去っていく、この朴念仁がとか言っていたが私が何をしたんだ。
「……その何て書かれているんだ?」
「あぁ、なんて言えば良いか……自覚ある分からんが、多分これお前への恋ぶ――」
「ふんっ!!!」
「ミィンッ!!!」
フレイちゃんがギルド仲間をぶん殴った。
本当に何でだ。いや確かに彼女レベル高いけど、だからって仲間を殴る様な女の子じゃなかったよ。
「余計なこと言うから……」
「どうせ実らないだろ、あの朴念仁だぞ」
フレイちゃんにブッ飛ばされた仲間を他の仲間が引き摺って行ったが、最後の方が聞こえなかったぞ。
あいつ、一体なんて言おうとした?
「フレイちゃん! 一体、何で殴ったんだい!? 手紙に一体何が……!」
「毒虫がいたのでつい手が……あと手紙には何もありません。そして読む必要もありませんよ?」
だからなんで?
絶対に何か書いてるよ。受付の下に隠してるけど、後で絶対に見てみよう。
「さてさて、三枚目も読まないとですね」
露骨に話を変えたね。まぁそれは後で良いか。
取り敢えず団長さんが無事で良かった。私もドクリスと戦った甲斐があったよ。
「それで三枚目ですが……えっ?」
「どうした……ん?」
「えっ、何々……えぇっ!?」
もう聞くのが怖いよ。なんで読む度に皆の反応が変なんだ。
今度は顔が怖いよ。なんだ、一線を越えた人ってこんな顔になるのか。
一通り呼んだのか、フレイちゃんもギルド長達も手紙を置いて何か考え込んでるけど、なんだ私をジッと見ているぞ。
「えっと、三枚目には何が……?」
「ルイスさん! すぐに早退してください! そして暫くどっかに旅行に行ってください!!――そうですね、私的には危険度9『
私に死ねというのか。
そこ危険度9のダンジョンで、通常の生息魔物にドラゴンとかゴーレムとかが平然といる超危険・侵入禁忌ダンジョンだから。
「私が何をしたって言うんだフレイちゃん!? 食事かい! 食事が気に入らなかったのかい!? 確かにデザートの量が多いなと思ったけど、一緒にシェアしたじゃないかい!」
「そ、それは嬉しかったです……間接キスっていうゴニョニョ――」
「えっ、なんだ? 本当になんで、ここぞという所の声を小さくするんだ皆!」
「まぁなんだ……早退しろ」
「そして暫く旅行言って来い。半年は帰ってくんな」
だからなんでだ!って押すな押すな!
物理的に追い出そうとするな。本当に手紙に何が書いてあったんだ!?
「説明を求むぞ! いくら何でも横暴すぎる!」
「お前の為なんだ! そして、我がギルドの為でもある!」
「ルイスさんをあんな発情騎士になんかに渡しませんから!!」
「取り敢えず早く準備しろ! 本当に着ちまう!」
「何が恋愛に興味ないだクソおっさんが! アンタばっかり! いつも俺達は!!」
何が来るんだ一体。ギルド全体が私を追い出そうとしている。
これが噂のギルド内イジメというものなのか。
だが何故だろう。フレイちゃんは半ば泣いてるし。若い冒険者達からも恨みの感情が凄い。
あぁ、まさかこんな形で強制引退させられるとは。せめて、いつもの酒場で引退宴をして欲しかったよぉ。
「失礼致します!!」
そんな時だった。ギルドの扉が勢い良く開く。
あれ、何かこんな展開が最近にもあった様な。
声も聞き覚えがあるな。私は入口を見るとそこには、つい先日、共にダンジョンに入った彼女達が立っていた。
「エリア殿! アレン君も! 一体どうしたんだ!? それにこの騎士の人数は……?」
入口にいたのは王国騎士団のエリア殿とアレン君。そして前回の倍以上はいる王国騎士団の騎士達だった。
お礼にでも来たのかな。しかし手紙もあるし、何よりこの人数――20人はいるぞ。普通じゃない気が。
「ルイス殿!」
私の姿を見て満面の笑みで駆け寄ってくるエリア殿に、少し私の心を癒された。
ドクリス戦との怪我は大丈夫そうで、彼女の動きに違和感らしいのもない。
「怪我はもう大丈夫なのですかエリア殿?」
「えぇ、もう怪我は大丈夫です。ルイス殿もお怪我は大丈夫なのですか?」
「私は冒険者なので慣れっこです。それによりもエリア殿は……」
何が用で来たのだろうと思ったが、それよりも先に私は彼女の変化に気付いた。
それは服装――というよりもマントが大きめになり、前で少し止めてある。
だが鎧自体は変わっていないな。マントの隙間からチラチラ見えて、逆に色気が増した様な気が。
「あ、あの……み、見過ぎです。流石に恥ずかしいです」
「えっ……」
気付けばエリア殿が頬を赤らめ、身体を捩りながら私の顔を見上げていた。
瞳も潤んでいて、美人で彼女の金髪も綺麗だから絵になるな。
――って違う違う!
あぁ、やってしまったセクハラだよ。
もう駄目だ。謝罪して自主だ。
「大変申し訳ございませんでした……!」
「えっ、えぇっ!! そ、そんな顔をあげてください!」
土下座する私に彼女がそんな事を言ってくれるが、私は嫁入り前(多分)の女性の身体を見るなんて最低な事をしたんだ。
だから謝罪はするぞ。そして罪を認めて裁きを受けよう。
「だ、誰も気付いてなかったですから……私も気にしていませんし。お願いしますから、顔をお上げください」
「……本当にすみませんでした」
私はようやく顔を上げた。何となく声で分かる。
これ以上は彼女自身が本当に迷惑に思ってしまうだろうと。
「すみません……つい、と言ってしまうと言い訳なんですが」
「い、いえ……殿方なら致し方ありません。で、ですが……その、もしお詫びと求めて良いならば一つだけ――」
どうぞ仰って下さい。命なら躊躇しますが最終的にはどうぞ。
お金でも素材でも何でも渡す覚悟をしています。
「私をエリア殿ではなく……エリアと呼んでください」
「……えっ?」
「「「――えっ?」」」
私の声と、ギルド側と騎士側から一斉にそんな声が聞こえた。
「いや、しかし……」
それは流石に失礼じゃないかな。
年下とはいえ彼女は王国騎士団の副団長だ。
私は肩書きや所属歴が長い人は年下でも敬意を示すし、これはどうなのだろう。
「ダメ……でしょうか?」
また上目遣いでエリア殿は私を見ていた。
何故か、マントもちょっと開けて身体を見える様にしてるよ。
なんだろうこれはハニートラップなのか。
しかし、嫌な事をしたの私の方だ。彼女の願いを聞くのが道理だろう。
「わ、分かりました……で、ではエリア……と」
「!……はい」
彼女は嬉しそうな声を出し、顔を下に向けた。
だが何故だろう。なんでマントをもっと広げて身体を見せようとするのかな。
いけないよそんな事。嫁入り前の女性がそんな事を。
「……うぅ、これで良いのでしょうか」
何やらエリアの恥ずかしそうな声が聞こえたが、何やら彼女は後ろの方にいる女性騎士に目線を送っている様だ。
キリッとし、凛々しい眼鏡を掛けた、まさにザ・副官って感じの騎士だな。
きっと立派な女性騎士に違いない。
「いえもっとです。もっと責めなさい……そんなので男は落とせません」
前言撤回するべきか。彼女はエリアへ何か間違った事を言っている気がする。
まるで色仕掛けを指導しているかの様だし。まさか、その為だけに来た訳じゃ――
「そうだ……エリア、君達は何故こんな辺境へまた来たんだ? 団長さんが無事なのは手紙で聞いていたが」
「えっ、それだけですか……?」
えっ、なんだその反応は。それ以外に何かあるのか。
そう言えば手紙は三枚あった。そして私が内容を知っているのは一枚だけ。
やっぱり他に何かあるのか?
「来ちまったなぁ……」
「うぅぅ……ルイスさんは渡しません。泥棒ねこめぇ……!」
振り返るとギルド長達は苦い顔をしてるし、フレイちゃんも何故かエリアを睨んでいる。
間違いない。私が知らないだけで何かが書かれていたんだ。
「あの手紙の一枚目は見たんですが、二枚目以降は読んでないんです。ですから話が見えなくて……」
「えっ……読まれてないんですか。そうですかぁ……」
やっぱり何かあるな。エリアが明らかに落ち込んでいる。
何を隠そうしているんだ。私の知らない所で何が起ころうとしているのか。
爆弾を抱えているなら素直に言ってくれ。心配で胃が痛くなるし、白髪も増えるよ。
「ゴホンッ!――では単刀直入に言います」
突然、エリアの表情が凛々しくなる。副団長としての顔だ。
何やら書状を取り出し、私の目の前で読み上げ始めた。
「アスカル王国・国王――ゼウン・アスカル。王国騎士団団長――グラン・レオンハート両名の名において、汝ルイス・ムーリミットを王国騎士団対ダンジョン相談役嘱託騎士の地位を授けるものとする」
何だろう聞き間違いかな。国王の名前が出た気がするぞ。セットで王国騎士団長の名前もある。
あと何だいその地位は。
対ダンジョン相談役嘱託騎士って、相談役なのか嘱託騎士なのかどっちかにしてくれ。
――っていうか王国騎士団って実力重視の実力エリート集団だよ。
嘱託騎士って絶対にダメでしょう。
「――です、いかがですかルイス殿?」
「お断りします」
「何故ですか!!」
当然だよ。こっからガタが来てるおじさんを無理させてどうするの。辺境で早隠居させて。
肩書きだってよく分からないし。これは幾ら国王陛下の名があっても断る。
幸いに国王陛下は寛大で有名だし、これぐらいは許される筈だ。
ただ問題は穏便にだ。ここは穏便に――
「良く言った!! それでこそルイスだ! 冒険者は自由だからこそ冒険者なんだぞ!」
「そうです! ルイスさんは騎士団に入りません!!」
「そーだそーだ! ルイスがいなくなったらギルドが潰れんだろうが!!」
だから穏便にだって。なんでかギルド長達も絶対に知ってた風だし、これが手紙に書いていた内容だろうな。
道理で私を遠くに置こうとする筈だ。冒険者だからどこに行ったか分かりません、とかそんな理由で誤魔化すきだったんだな。
けどそんな言い方したら騎士の人達だって――
「なんだ貴様等、その口の利き方は! 国王陛下・騎士団長の両名の署名が入っているのだぞ! これ以上の名誉がどこにある!」
「その通りです! 王国騎士団副団長・エリア・ライトロード! ここに宣言する! ルイス殿は辺境で、その才を潰して良い方ではない! 冒険者達に聞いてみましたが、数々のダンジョンを制覇した<ダンジョンマスター>は伝説の冒険者だというじゃありませんか! ならば王都に来て頂き、騎士団へ貢献。そして王国に更なる繁栄を約束される方だ!」
「それにおっさ――ルイス殿の自由は保障されている。ルイス殿は騎士団の規則に縛られず、自由な行動が許される特例中の特例待遇だ。だから騎士団公認の冒険者になり、拠点が王都になるだけだ! 何の問題がある!」
「あるに決まってんだろ!! ルイスにしか出来ねぇ依頼だってあんだぞ!」
「そうです! 特にそこの副団長! 二枚目の手紙見ましたよ! あ、あんなのこ、恋……恋ぶ――破廉恥副団長!」
「なっ、なっ! あれは私が必死に書いた物を破廉恥だと! それにその態度、ルイス殿に手紙を見せなかったのは貴殿だな! 許さん!」
マズイ。収拾がつかなくなってきたぞ。
互いに睨み合って罵詈雑言。一部の冒険者・騎士も武器に手を掛けかけてるし。
こんなおっさんを奪い合ってどうするの。誰も特しないよ。
あぁ、誰でも良いから助けてくれ。
「双方、そこまでだ」
混沌と化したギルド内に、凛とした言葉が響き渡る。
静かだが、芯の入った力強い声。その声でギルド内が静かになり、誰もが入口の方へ顔を向けた。
私も向けたが、向けるよりも前に声にすっごく聞き覚えがある。
「ご無沙汰しております、
「クロノ……クロノ・クロスロードか!」
そこに立っていたの細か装飾が刻まれた黒い服、全身を覆うマントを身に付けた黒髪の青年が立っていた。
腰まではない長髪が風に揺れ、凛々しく男ながらも綺麗な顔立ちをしている。
そして、フチなし眼鏡を通して私達を見る瞳は鋭く、冷たい印象を与えるがそれだけだ。
先程の声も優しいし、眼つきだけがそうで本当に優しい子なんだ。
「どうしてここに……ギルドはどうした?」
本当にそこだよ。なんでこんな辺境に来てるの。
里帰りでも無理はあるぞ。だって彼、国王ですら認める最上位ランク『オリハルコン級』のギルド長――つまりは英雄だ。
ダンジョンか災害級の何かが起こらないと、簡単に動ける人間じゃない筈だ。
だが天の助けかもしれない。
神が私の危機に同情してクロノを送ってくれたに違いない。
あぁ、腕に私があげた黒いブレスレットを、まだ付けてくれている。本当に優しい子だ。
きっと、この場もすぐに治めてくれる筈――
「師匠を助けに来ました。これ以上、師匠に害を及ぼそうするなら……私が相手になりましょう」
前言撤回。こりゃ荒れる。
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