第8話:冒険者+5:弟子に連れ去られる

「クロノ!? それってまさか『オリハルコン級』ギルド<黒の園くろのその>のギルド長か……!」


「王に認められ、嘗て災害級の竜やベヒーモスを倒した冒険者! レベルも<50>を超えていると聞いたぞ……!」


 やっぱり有名なんだなクロノは。騎士の人達がざわついているよ。

 冒険者として色々と教えた時から、この子は本当に優秀だったからね。

 顔も格好良くなって、身長もこんなに伸びてもう……そろそろ越されるかな。


「そんな男が師匠せんせいって言っていた? まさか、本当に奴が噂に聞く伝説の<ダンジョンマスター>なのか!」


「間違いないさ。実際、俺は見たんだ。おっさ――ルイス殿がレベル<56>のボス魔物を倒すのをな」


 まずいな。場を収めようとしているのに、徐々に私の評価が変動しているぞ。

 アレン君も別におっさん呼びで良いよ。ただ何も言わないでくれ。


 私はただの冒険者。クロノも師匠なんて言わない。そこまでの関係じゃなくて、最低限を学ばせた教え子程度だろうに。


「クロノ、また私なんかを師匠なんて呼んで。こんな、おじさんを師匠呼びしていたらお前が誤解されてしまうぞ?」


「やれやれ……師匠はまだそんな事を。今の私がいるのは間違いなく師匠の存在と教えのお陰です。ですので師匠は師匠です。もう諦めて下さい」


 相変わらず無表情でクールに話すなぁこの子は。

 頭も良いから言葉で勝負したら勝てないが、それでも今回は私も退かないぞ。


「それでも私の事を<ダンジョンマスター>って周囲に呼ぶのが止めてくれ。もう歳だし、そんな大層な異名を持てる程、私は立派じゃないさ。スキルや心配性故の準備のお陰なだけだ」


 本当に何度も言うけど、高危険度ダンジョンを突破しているのはスキル<+Level5>と、念入りな準備のお陰だってば。

 勿論、色んなダンジョンを行った事での経験もあるけどさ。

 

 でも、その名を頼りに身の丈以上の依頼を頼まれても相手を悲しまるだけだ。


「そう仰いますが、それだけで突破できる程、危険度6~10のダンジョンは楽じゃない筈です。それに準備や才能があっても、死ぬ時はあっさり死ぬ。だから大事なのは、どんなに格好悪くとも後悔なき選択と行動だと……私に教えてくれたのは師匠の筈です!」


 頼むからやめてくれ。 

 ダンジョンにいると必死だからつい言ったけど、こんな大勢の前で言うな恥ずかしい。


「後悔なき選択と行動……素晴らしい言葉です!」


「ルイスさん……やっぱり格好いい」


「へっ……格好付けやがって半人前が。――立派になったなルイス」


 後ろから、何か合いの手みたいにエリアとフレイちゃんの声が聞こえるが無視だ。

 ギルド長もなんだ。長年の師匠ポジションみたいな台詞を言って。

――まっ、実際そうだけどさ。


「それはそれ! これはこれだ! こんなおっさんを頼られても、私だって歳だ。依頼内容にだって限界がある。お前だって本当は忙しいだろ、なのにわざわざ辺境まで――って、そういえばクロノ。本当に何しに来たんだ? 私は助けにとかどうとか」


 そうだそうだ。本題を忘れる所だった。

 世間話に花を咲かせている場合じゃないし、私の事は後だ。

 クロノの目的を聞かないと。何やら、この一件について知っている様だし。


「先程、言った通りです。師匠を助けに来ました。――少し前、騎士団の者が我がギルドを訪ねて来られました。その時に『翠の夢』と師匠の事を教えたのです。まぁそれは他の弟子達も同じだった様ですが」


 あぁやっぱりか。そこは想像通りだ。

 翠の夢・ダンジョンマスターの言葉をすぐに出せるのは、この辺境出身者だし。

 そして騎士達が聞きに行くようなギルドなら、間違いなくクロノ達だろうと思っていたよ。


 どうやら他の子達も関わっている様だが、クロノに会ったからか様子を見たくなってきたな。


「その後、騎士団が『翠の夢』の薬を確保し、団長が回復の情報は調べたら届きました。――チユさんからも手紙も来てましたしね」


 あの婆さん、どこまで繋がりが強いんだ。

 まぁこの町の冒険者の大体はオムツの時から世話になってるから、誰も逆らえないけどさ。


「ですがドクリスの戦いの話も聞きまして、すぐに師匠の活躍が思い浮かびました。私も昔を思い出しましたよ。――ですが同時にある話も聞いたのです」


 そう言ってクロノは騎士団達に視線を移し、私もそれを見て察した。


「騎士団がを勧誘しようと、国王達に働きかけているいると。その冒険者が誰かすぐに分かりましたよ。ドクリスと戦えるのは師匠しかいない。しかし私達、弟子は師匠をよく理解しております。師匠はきっと町から出て行きたくない。きっと揉め事なる、そう思って私はここに来たのです」


 前言撤回。やっぱりクロノ、お前は本当に良い子だ。

 まずい涙が出てきそう。わざわざ、こんなおっさんの為に来てくれて、女性だったら絶対に惚れるね。


「オリハルコン級ギルドのギルド長として……そしてダンジョンマスターの弟子として物申す! 王国騎士団よ、師匠から手を引け!」


 そう言い放つクロノから凄い威厳や言葉に確かな圧を感じた。


 同時にクロノ背後から、彼と同じマントを身に付けた冒険者達が数人が出て来たぞ。

 あぁ、部下までいて。もう立派な冒険者だな。

 手紙ではデスクワークが増え、私とダンジョンに行った日々が懐かしいと言っていたが。


 あぁ教え子――いや私の為に来てくれたクロノは、心配してくれているクロノ達は私の弟子だな。

 良しクロノ。このまま何とか場を収めてくれ。


「お待ち下さいクロノギルド長! 貴殿も弟子ならば何も思われないのですか! ルイス殿程の冒険者がこの辺境だけ終わる事に! それよりも世界に出し、彼の名声を高める事が良い事なのでは!」


 エリア、気持ちは嬉しいが辺境も悪い所じゃないさ。

 ここで若い冒険者達に色々と知識を教え、ゆっくりと過ごす。

 退屈でもあるけど、やり応えもあるんだ。クロノ達がその証明だ。


「私もそれ自体は賛成です。――ですが、それは師匠の意志に反している。それに、王都を始めとした上位ギルドのギルド長や、エースの大半が師匠から教えを受けています。ならば、この場所でも変わらない」


「良し! よく言ったクロノ!」


「クロノく~ん!!」


 ギルド長やフレイちゃん達も盛り上がってるな。

 だが、ここまで言ったんだ。流石にエリア達も退いてくれるだろう。


「うぅ……しかし! こちらも王と団長の名がある! そう簡単に退けば騎士の名折れ!」


「その通りです。騎士団としても簡単に退ける話ではありません」


 流石は王国騎士団。王の名前が出ている時点で簡単に退かないか。

 だがまずい、雲行きが変わり過ぎている。

 安心したと思った束の間、一気に雷雲が迫って来る感じに嫌な予感が過る。


「ルイス殿はどうなのです! 一度でも良いので来て頂けないですか!?」


 やっぱり最後は私は最後に来るかぁ。

 だがそうだろう。私が意思を言わなくてどうする。

 まぁ断った結果が今なんだけど、仕方ないもう一度言おう。


「ですが私はもう36の冒険者です。役に立つとは思えません」


「……そうですか」


 納得してくれたようだ。エリアは顔を下に向けてしまい、少し可哀想だが仕方ない。

 だが何故だろう。徐々に近づいて来る気がする。いや近付いてきた。

 そして私の目の前に来て、小さな声で何かを言って来る。


「私の身体を……あんなに見たのに」

 

――えっ。


 私は思わず内心で驚いてしまった。

 まさかエリアがそんな事を言って来るなんて。

 いや待て冷静になれ、これは罠だ。名前呼びで問題は終わった筈だ。


「いや、それはさっき名前呼びの件で――」


「まさか、本当にそれだけで女性の心の傷が癒えると思っているのですか? そう思っているなら酷い方……」


 おぉ、いつの間にか隣にエリアの副官らしき騎士がいる。

 どこか責める様に言い方だが、なんだろう色気が凄い。


「あの……アナタは?」


「騎士団・副団長補佐――テレサと申します」


「ど、どうも……」


 前回はいなかった騎士だ。

 だがそれよりも凄い私の冒険者としての勘が警報をならしている。

 彼女は危険だ。絶対に色仕掛けとかそっちのプロだ。


「一度だけでも駄目でしょうか……このままでは王や団長に顔を向け出来ません。一度だけ……体験して頂くだけでも」


「うぅ、しかし……」


「そうですか、副団長の身体だけでは満足できないと。では、私の胸でも――」


 うおっ、凄い豊満な――って危ない危ない。

 最近、刺激のある日々だったから男としての本能が蘇ってきている。

 だが甘い。その程度の色香で惑わされていたら、とっくにダンジョンで死んでいる。


 ここはハッキリ、凛とした態度で言うんだ。


「申し訳ありませんが、私の意志は変わりま――」


「では騎士への不徳行為として連行する形で連れて行きましょう。ついでに情報ギルドの知り合いとも世間話ついでに――」


「行きます」


 気付けば私はテレサという副官の言葉に反応し、そんな事を言ってしまった。


「師匠!?」


「ルイスさん!!」


「おいルイス! お前、本気か!」


 案の定、クロノやフレイちゃん、ギルド長達が強い反応するよな。

 でもごめん。こんな情けない理由で捕まったら、それこそ私よりも皆の評判に傷が付いてしまう。


 でも冷静に考えると思う事も確かにある。

 

「少し考えたんだ……ドクリスの森ではエリスとアレン君だけとはいえ、実力のある二人でもダンジョンへの対応が酷かった。恐らくだが、騎士は基本、王都や街等の都市部での戦いが主なんだろう。だからダンジョンでの対応が分かっていない」


「そ、それは……」


「……反論ができませんね」


 私の言葉にエリアやテレサ殿も言葉を詰まらせている。

 周りの騎士の顔も良くない。きっとその通りなのだろう。


「確かにダンジョンへ逃げた盗賊等の対応を我々、ギルドへ依頼される事が多い」


 クロノも思い出す様にそんな事を言う。

 まぁ適材適所って言葉もあるし、仕方ないが、前みたいな時に私がいなかったらと思うと恐ろしい。


 出来るだけ実力のある者達へ、私の知識が役立つならば教えるのに越した事はない。


「じゃあ! ルイスさん、ギルド辞めちゃうんですか!?」 


「いやいや辞めないよ! あくまでも出張みたいに思ってる。必要な事を学んでもらえれば、私は必要なくなるから、そしたらまた帰って来るよ」 


 そもそも辺境と言っても川への橋とか出来てるし、思ったよりも王都とここって近いんだよな。

 何かあれば、すぐに戻って来れるし何とかなるだろう。


「では入団すると――」


「入団はしない。あくまでも相談役。嘱託騎士について保留にしてほしい。やはり冒険者には、そんな肩書きは必要ない」


「そうですか……」


 少しエリアは残念そうだが仕方ない。

 冒険者は縛られるとすぐに無能になるからね。

 そうと決めれば準備もしないと、あとクロノに謝らなければ。


「師匠……では師匠は騎士団へ向かうと?」


「いやあくまでも王都へ暫く滞在するってだけさ。その時に、必要なら知恵を貸す程度だよクロノ」


 今回、自発的にとはいえ迷惑を掛けたのはクロノにだな。

 何か珍しい素材とかプレゼントしてあげないと。

 私の言葉に少し考え込む様にしているが、ギルド長も諦めた様にしているし、クロノも納得して――


「そうですか……では、師匠の身柄は私達『黒の園』がもらう!」


 なんでだよ。


「どういう事ですか! そちらは関係ない筈です!」


「関係なくなはない! そもそも我々弟子達とて師匠の力は借りたい。しかし、それは師匠の意志を尊重して止めていた。だが、師匠がここを出ると自らの意思で言ったならば話は変わる。師匠は私が預かる!」


「横入りしてきた分際で何を言うか!」


「そうだ! 王国騎士団の方が先に動いたのだぞ!」


「フンッ! 綺麗な仕事ばかり選ぶ騎士が何をほざくか! ダンジョンマスターはギルド長の師。ならば我らが預かるのが当然よ!」


 何やら今度は騎士団と黒の園でぶつかり始めたが、もう勝手にしてくれ。

 どうやら引退どころの騒ぎじゃなくなった。


「ハァ……家に帰って準備してこよう。そう言う訳で、住む場所が決まったら連絡しますよギルド長」


「ハァ……しょうがねぇな。お前の用の依頼が来たら呼ぶぞ」


「土産よろしくな!」


「ルイスさん……私忘れません!」


 依頼は自分らでも熟してくれ。あとフレイちゃん、普通に帰って来るって。

 

「クロノ、私は一旦家に帰って準備してくる。それまでに双方で話を纏めてくれ」


「任せて下さい。連中に師匠を渡しません」


 そうじゃない。双方の揉め事を終わらせろって意味だって。

 私はどっと疲れて肩を落としながら外に出る。

 すると、なんだろう。妙に騒がしい気がした。


「何だこの音は……?」


 ギルド内の騒がしさじゃない。

 まるで馬車が暴走したかの様な凄い音だ。


「どけどけどけぇぇぇぇ!!!」


「な、なんだあれは……?」


 私の目が正常なら間違いない。

 この田舎町を変な装飾をした馬車らしき物体が爆走している。

 しかも、こちらに近付いて来ているじゃないか。


 しかし妙だ。この叫ぶような声にどうも聞き覚えがあるぞ。

 この声は確か――


「おぉっ!! おぉぉぉい! センセェェイ!!」


 そうこうしている間に爆走馬車はギルドの前で急停止する。

 凄い砂ぼこりだ。一体、誰だこんな事をするのは。

 いや待て、さっきセンセイって言ってなかったか?


「まさか……ゲホッ! んっ、このマークは?」


 砂煙が凄くてまだ分からないが、目の前に止まった馬車に大きなギルドマークが刻まれていた。

 獣か何かの横顔に一閃が付けられたマークで、力強さが印象的だ。


『ブルルルルッ……!』


 そして砂煙が晴れてくると、目の前には馬車を引いていたであろう通常馬よりも大きく、威圧的な雰囲気の馬がいた。


「これはジェネラル・ホース……!」


 魔物レベルで言うなら危険度7で、ドクリスと同列扱いの巨大馬に私は驚いたが、ジェネラル・ホースは私に顔を擦り寄せて来る。 

 まるで懐いたペットの様だが、私は首輪に掛けられた名前に気付いた。


「名前が……<ブレス>?――ブレスって、まさかあのブレスなのか!」


『ブルルルルッ!』


 私の言葉を理解している様に、ブレスは嬉しそうに顔をスリスリしてくる。

 まさかあのブレスとは。このジェネラル・ホースは嘗て、私がとダンジョンに行き、怪我していたのを拾った子だった。


 同時に私は気付く。この子がブレスならば、この持ち主は間違いなく――


か!」


「おう! 久し振りだなセンセイ!!」


 馬車を見上げると、そこにいたのは一人の女性が馬車の上に立ち、私を見下ろしていた。


 肩に何かの魔物の頭部を付けた大きなマントを羽織り、チューブトップにホットパンツとラフな姿。 

 獅子を連想させる長く濃い金髪をなびかせ、子供の様に笑うボーイッシュ雰囲気の女性――<ミア・ナックルヘッド>


 彼女もまたクロノと同じく教え子――弟子である。

 とっくの昔に自立し、彼女も王都でオリハルコン級ギルドのギルド長をしている筈だった。


「ミア……これは何事だ?」


 私は彼女がここにいるのもそうだが、その行動に驚いてそう聞くしかなかった。

 昔から色々とやる子だったが、変わったのは見た目だけで、中身は昔のままの様だ。


 口調も昔と同じで男の子みたいな喋り方で、私の存在に気付いたミアは嬉しそうに笑い続ける。


「へへぇ! 帰って来たぜセンセイ!」


 そう言って彼女は両手に付けた、私のと同じデザインの両手ガントレットを自慢げに見せて来る。

 嘗て、私があげたものだ。色が少し変わっているから自分で染めたのだろう。


「師匠! 何の騒ぎで――ミアだと!?」


「ミア? まさか――ギルド<天極の獅子てんごくのしし>のギルド長――幻爪げんそうのミアか!」


 外の騒ぎを聞きつけてクロノやエリアが出てきて、驚きの声をあげる。

 当然だ。ミアは自由人で動きの読めない冒険者だが、戦闘力とセンスは弟子の中でも一番だ。


 それ系で逸話もあるのだろう。騎士達やクロノの部下達もミアの存在に目を丸くしている。


「嘘だろ……コイツもオリハルコン級の冒険者じゃないか!」


「あぁ? んだ、テメェ……見世物じゃねぇぞ?」


 一人の騎士の言葉が気に入らなかったのか、ミアがそう言った瞬間、周囲に強烈な威圧が放たれる。

 そして一部を除いた者以外、その場で圧倒的な圧によって動けなくなった。


「うおっ……っと!」

 

 危ない危ない。

 これはミアの第三スキル『強者の掟ミア・プライド』か。

 自身のレベル以下から、特定のレベルを選んで、それ以下のレベルの者を黙らせる無差別固有スキル。

 

 だが昔よりも凄い圧だな。成長しているようで嬉しいぞミア。

 だが、流石にやり過ぎだ。


「ミア! スキルを解きなさい! そんな風に力を使う様に教えた事はないぞ!」


「チッ……しゃあねぇな」


 そう言ってスキルが解かれ、周囲の者達は一斉に呼吸を始めた。

 それだけの圧だ。仕方ない。

 

「やれやれ、元気そうだなミア」


「おう! そして行こうぜセンセイ! 準備は終えてるからよ!」


「えっ、どこへだ?」


 ミアは満面の笑みでそう言うが、話が見えない。

 何処へ行くというのだと、私は聞き返そうとするが、彼女の馬車からひょこっとエミックが出て来た。


『~~~♪』


「エミック! なんでミアと一緒に!?」


 私の言葉にエミックは能天気に口を開け閉めするが、エミックに気を取られていた私はミアに片腕で馬車へと掴み上げられた。


「よし出発! 行くぜブレス!!」


『ブルルルル!!』


 そう言ってミアは周りを無視し、そのまま馬車を出す。

 待て待て、何処へ連れ行く気だ。


「待てミア! 私は家に帰って荷造りしないと……その王都に行くことになってな」


「知ってるって! だからほら、後ろにセンセイの荷物あるだろ? 先にセンセイの家に寄って、おばさん達と荷造りしてきたからよ。なっエミック!」


『~~♪』


 後ろを見ると、確かに私がよく使っていた鞄やダンジョンレポートや道具が沢山置いてあった。

 おばさん――つまりは私の母だが、そうなるとお袋と親父も全部知っているな。

 ミアも良く皆を出し抜いたものだ。


「待てミア! 勝手な真似は許さんぞ!」


「ルイス殿!?」


「へへ~んだ! クロノと騎士共が! ノロマな方が悪いんだよ!」


 背後から皆からの声が響くが、もう今日は疲れた。

 どちらにしろ目的地は王都だ。あっちで皆と合流出来るだろう。


「やれやれ、相変わらずだなミア」


「へへっ……なぁセンセイ」


「どうした?」


「――ただいま!!」


 嬉しそうに手綱を握りながら、ミアは満面の笑みで私に言った。

 それを見て私も思わず笑みが零れる。

 懐かしい気分で、昔を思い出してしまった。


「あぁお帰りミア」


 そう言って私達は王都へ一足先に向かう。

 どうやら暫くは、弟子達やエリア達と退屈しない日々を送りそうだ。

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