おっさん冒険者+レベル5~ダンジョンマスターと呼ぶけど、スキルが強いだけで歳だから放っておいてほしい件~

四季山 紅葉

第一章:その冒険者+Level5

第1話:冒険者+5:女性副団長を出迎える

「はい、依頼された【リーフリザードの鱗】10枚。確認をお願いします」


「はい……えっと、確かに! 依頼達成です。こちら報酬です。いつも、ありがとうございますルイスさん!」


 今日も今日とで私――ルイス・ムーリミットのいつもの日課が終わる。

 若い頃からお世話になっている冒険者ギルド。その受付で依頼を熟し、依頼品を渡すこと。

 そして新人ちゃんの頃から知っている受付嬢から笑顔のお礼を言われ、36歳のおじさんの心も少しは癒された。


「いやいや、こっちがお礼を言いたいぐらいだよ。こんなおじさんに仕事をいつもくれて。でも私も36だし、いよいよ邪魔者かもね」


「もう! またそんな事を……本当に助かってますし、このギルドには誰もルイスさんを邪魔者扱いする人なんていませんよ! このリーフリザードだって危険度6の魔物ですし、対応できるのもルイスさんだけです!」


 本当に優しい子だ。後ろに一纏めにした金髪を揺らす受付嬢――フレイちゃんは。

 新人時代に俺が渡した品を駄目にしちゃったのを許したり、流れの冒険者からのナンパから助けたりしてたら慕ってくれて、今ではギルドに欠かせない立派な受付嬢だ。


「ありがとう。でもリーフリザードは確かに戦えば危険度6だけど、それは戦うからだ。彼等は本来温厚で、好きな果実等をあげて警戒心を解ければ鱗ぐらい、すぐにくれるよ。その方が鱗も傷付かないし」


「その知識とかも知っているのはルイスさんだけです! ルイスさんの御弟子さん達は皆、都会に行っちゃっていなくなるし。だからルイスさんの存在は大きいんですよ?」


 そう言われると悪い気はしない。それが社交辞令でも。

 若い頃ならそんな言葉でも心躍りして、教え子の話で心も動きそうになる。

 新発見された危険なダンジョンにでも飛び込んで行きたい気分だが、もう歳だし、ゆっくりと、この地元でのんびりしたい。


 そもそも、彼等を弟子と呼ぶのは恐れ多いよ。


「いやいや、彼等は弟子って訳じゃないよ。少しダンジョンについて教えたり、最低限の武器の扱いを教えただけだ。今じゃ王都の上位ギルド長やエースだし、彼等は元々才能があったよ」


 でも実際、教えがいがあったな。あの子達は。

 私が教えてあげた事はすぐに吸収して、注意する魔物の特徴や弱点もすぐに覚えてくれたから。本当に教えていて楽しかったなぁ。


 今でも全員律儀に手紙やお土産をくれるし、本当に良い子達だ。

 だから私も手紙にダンジョンの素材を一緒に送ってあげてるが、迷惑に思われてないだろうか。

 そもそも、こんな冴えないおじさんが師匠なんて言われるのは可哀想だ。

 まぁ向こうも師匠とは思ってないだろうし大丈夫だろうけど。


「もう! ルイスさん! もう少し自分に自信を持ってください!」


「そうはいうけど、実際にそうだし……こんなおじさん、いるだけ空気が悪いさ」


「おーい! ルイス! 終わったなら一緒に飲みに行こうぜ! 今日は奢ってやるぜ!」


「あぁ、じゃあ少し待っていてくれ。依頼定時時間が終わるまでは残るから」


 後ろの席から顔馴染みの冒険者達が依頼金袋を持って騒いでいる。

 辺境故に、依頼金で飲んで生活するぐらいしか楽しみもなければ、それで十分生活できるから、こうやってよく飲みに誘ってくれる。

 本当に気の良い奴等だよ。


「ルイスさん! これからダンジョン『火岩の巣』に行くんですけど、何を注意すれば良いですか!?」


「あぁ! あそこなら冷草を持って行きなさい。熱中症対策にもなるし、後は炭だ! あそこを縄張りにしてる『フレイムドラゴン』は炭が好きでね、攻撃しなければ敵とは思わないから安全に探索できるさ」


「ありがとうございます! よし! 皆行くぞ!」

 

 そう言って最近見かけるようになった若い冒険者達が、元気よくギルドから出て行く。

 こんな私にも気を遣ってくれて本当に良い子達だ。無事に戻って来てくれよ。

 あぁでも心配だ。後で様子を見に行った方が良いかな?


「こんな私に皆、気を遣ってもらって本当に申し訳ないよ……」


「もう何も言いませんからね、ふんだ!」


 何故かフレイちゃんは機嫌悪そうにそっぽを向いていしまう。

 何か気に障る事でも言ったのか。最近の若い子達の価値観は難しいから何か言ったのかも知れない。

 何か御詫びをしないと、まぁそう思っても食事を奢る事しかできないんだけどね。


「怒らせてしまったね。それじゃ御詫びに食事なんてどうだい? 私にはこれしか出来ないし、それで許してくれるなら――」


「えっ!? しょ、食事ですか……ル、ルイスさんと二人で……」


「ん? あっ、そうかすまない。こんなおじさんと一緒に食事なんてセクハラだ。申し訳ない、嫌なら嫌とハッキリ――」


「行きます!!!」


「えっ?」


 そんなカウンターから身を乗り出す程、食事に行きたかったのフレイちゃん?

 辺境とはいえギルドだし、そこまで給金は悪くないと思うけど、そんなにお腹すいていたのかい?

 まぁ取り敢えず食事に行くことになりそうだし、店はいつもの場所で良いとして、最近の冒険者の話も聞いてみたいな。


「おいおーい! ルイス! 俺等との飯はどうすんだ!?」


「冴えないオッサン同士! 仲良く飲もうぜ!」


「いっそのこと皆で行くか!」


 あっ、そうだった。背後からの仲間の声で思い出したけど、飲みの誘いがあったんだ。

 でもそうだな。皆で飲んだ方が楽しい。よし皆で行こう!


「そうだな、じゃあ皆で行こうか!」


「「「いえやっぱり良いです」」」


「えっ?」


 振り返ると、先程まで楽し気にしていた冒険者仲間達が一斉に身を縮こませていた。

 視線も一切、こっちに向こうともしない。

 それになんだ? 背後――フレイちゃんの方から凄い圧を感じる。

 私は振り返って見るが、そこにはいつもの様に優しい笑顔を向けるフレイちゃんの姿があった。 


「どうしましたか、ルイスさん?」


「いや……えっと、皆で食事――」


「皆……?」


 何故だろう。皆という言葉に凄い不機嫌だという感情が溢れ出ている気がする。

 まさか私と二人きりで食事が――なんて馬鹿か。こんな10歳も歳の差がある女性に何を期待しているんだ。

 そもそも出会いもないし、両親にも嫁と孫は諦めろと言ってるから恋愛への興味も随分と薄くなった。


 きっとフレイちゃんも気分の問題なのだろう。


「分かった、フレイちゃん。二人で食事に行こう」


「っ! は、はい!!」


 なんだろう。今まで見て来た彼女の笑顔でも凄く輝いて見える。

 やはり最近の若い子の気分とかは難しい。

 おっと、仲間達にもフォローしないと。


「すまないな。飲みは次に頼む。その時はこっちが奢るよ」


「全く、本当に頼むぜ。このが」


「まっ、今日はゆっくりと楽しんできな」


 本当になんだろう。仲間からの視線が温かい。

 それに他にもいる少し若い冒険者達の目が少し険しい。きっと私の様な年寄りが目障りに思っているのだろう。

 あぁ、やはり冒険者引退も近いか。


 そんな事を思って私は悲しんでいると、受付嬢の奥の部屋から聞きなれた足音が聞こえて来た。


「はっはっは! だったら今日はもう上がって良いぞ二人共! この時間帯で新規の依頼は来んし、出ている冒険者の対応も儂がやろう」


 そう豪快に笑いながら出て来たのは、この辺境ギルドの長――ジャック・レンドギルド長だ。

 強靭な肉体、丸太の様に太い腕、トレードマークの皮帽子を被っている彼が冒険者ではないと、初見では誰も分からないだろう。

 私も、そう思ったぐらいだ。なんでそんな肉体の人がダンジョンいかないの?

 一般冒険者の<平均レベルが24>で、ずっとダンジョン潜っている私ですらレベル34だよ?

 なのにこの人、レベル46で凄い人なんだよ。あんたはダンジョン行けよと思う。


「ジャックさん、またそんな事を言って。それじゃギルドとして緩すぎますよ」


「なんだルイス、お前は相変わらず変な所で真面目だな。本当に、このタイミングで仕事が来ることなんてないだろうが。あったとしたら超緊急な依頼で、うちじゃ対応できのが関の山。だから良いんだよ、フレイと食事にとっとと行ってこい!」


 そう言ってまたジャックさんは豪快に笑う。

 まぁ言っている事も正しいし、実際そうだけど。

 しかしフレイちゃんが許さないだろう。彼女は真面目なギルド員だ。

 きっと怒りの表情で――


「お疲れ様でした! それじゃ行きましょうルイスさん!」


 そう思っていたのも私だけだ。

 フレイちゃんは既に私服にも着替えて帰宅準備を終えていた。

 あぁ、あんな真面目で緊張しまくっていた受付嬢はどこに行ってしまったんだ。

 あとそんな腕掴まないで、最近は肩に違和感もあるからおじさん、四十肩予備軍だから優しく。


「……えぇと。じゃあ行ってきます」


 周りからの圧。主にフレイちゃんからの圧なのだが、本当に居心地が悪くなってきたからギルドから出よう。

 さて、いつものお店、もう開いてるんだったかな?


「――失礼する」 


 さて出よう。そう思った時と同時に来客の声と共に、ギルドの扉が開かれた。

 このタイミングはおかしい。夕暮れ前とはいえ、ご近所の爺さん婆さんや子供達が他愛もない依頼するにしては遅い。

 何より声に聞き覚えがない。直感的だが、外からの人間だ。

 そちらを見ると、辺境ではまず見ない神々しい装飾に飾られた鎧を身に付けた5人の男女の騎士達が立っていた。


「……強い」


 私は思わず口に出してしまった。

 それだけの練度だと分かるし、間違いなくこんな辺境に間違って来る者達じゃない。

 特に真ん中の。神秘的な腰まである金色の髪を靡かせる美人。

 周囲よりも鎧は、やや露出が多い――いや結構多いな。

 お腹とか丸見えだし、足も出し過ぎた。加護でもあるのか、本当に守られているか怪しい。

 まぁ士気向上かもしれない。おじさんはそこまで思わないけど、やはり若い子達はやる気が出るんだろう。


――いや違う違う。彼女の鎧じゃなくて強さだ。


 私は思わずを使って視てみたが、周りの騎士達もレベル30前後、そして彼女はレベル<48>だ。

 見た目からしても若い。二十代前半で、あの領域とは。天才――否、神童と呼べるだろう。


「突然の来訪、失礼する。我々は王国騎士団の者だ。――そして私は騎士団副団長<エリア・ライトロード>申す。貴殿等のギルドに依頼があってやってきた」


 その言葉にギルド内が静かになり、誰もが息を呑んだ気がする。

 国王直々の騎士団の登場、その副団長が美人だからとか、そんな理由ではない。


――あっ、これ絶対に面倒ごとだ。


 それを察したんだろうな皆。

 フレイちゃんもきっとそうだ。握る手がとんでもなく痛い。

 お願い放して。おじさんの血流が更に悪くなるよ。

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