第三章:激突 裏ギルド

第13話:冒険者+5:窮地

「第二スキル――<黒絵くろえ>・犬」


 私がスキルを使用し、腕を振るうと横の建物壁――その影に染まる黒から犬を模した巨大な頭部が飛び出す。

 それらは、そのまま残った者達を喰らっていく。 


「ぎゃあぁぁ!!」


「た、助けてく――」


 次々と黒犬に呑まれていく暗殺ギルドの者達。

 やがて大体を片付けると、その犬の頭部は出た壁の中へと消える。

 

 これで粗方は片付けたな。

 

 最初は18人はいた筈だが、残ったのは僅か3人。

 そして無傷は一人。二人はダメージが大きく動けない様だ。

 なら私が狙うのは無傷の仮面の男。唯一、仮面に模様が刻まれた奴だ。


「互いを呑み込む蛇……変わったギルド紋だな」


「誉め言葉と受け取ろう。しかし随分と容赦がない……こちらはギルド内の実力者を呼んだつもりだったのがな」


「あれで実力者とはな。基礎を徹底的に鍛え、たまにダンジョンへ入る事を勧めよう」


「嘗めた男だ。流石はオリハルコン級……だな!」


 仮面の男は私の言葉が気に障ったのか、感情を出して叫ぶ。

 そして男の周辺に大量のナイフが現れ、男の周囲を高速で回る。


「我がスキルは自身の魔力でナイフを精製し、操る! そして第二スキルは<毒・魔力付与>だ! これで世にも珍しい、毒を持つ魔力のナイフの大群が出来た! 暗殺ギルドを嘗めた罪は重いぞ!」


 別に嘗めた訳じゃなく、事実を言っただけだったんだが。

 私も師匠と一緒にダンジョンに行き、スキルに目覚めたり強くなったからな。


 それに精製速度は大したものだが、ナイフの動く速度は遅く見える。

 恐らく毒に頼り過ぎている故に、操る速度への練度が疎かなのだろう。

 まっ、あくまでも私からしてだが。


「黒絵――鳥・蛇」


 私はすぐにスキルを使った。

 そして足下や左右の壁から大量に現れる黒絵の鳥の群れ。

 それらが男のナイフを全て粉砕する。


「なっ! 馬鹿な――」


 驚きながら再度、ナイフを作ろうとする男へ、私は地面から出て来た黒絵の蛇で拘束する。

 倒れている者もだ。これでまずは決着か。

 

 私は距離を取って男達へ語り掛けた。


「答えろ。お前等はどこの暗殺ギルドだ。依頼人は『骸の贄』だな!」


「答えん……分かっている筈だ。暗殺ギルドは隠密ギルドよりも掟が更に重い。情報を洩らした者は幹部ですら粛清だ」


「だが、その依頼人はもう虫の息だ! 従う理由も、隠す理由もない筈だろ!」


「――黙秘する」


 やはり答えないか。ならば仕方ない。

 少し苦しくするしかないか。


 私は縛っている蛇の締めを、更にきつくしようと試みた。

――その時だ。不意に空から仮面の男が振って来たのは。


 男はそのまま、私が拘束していた三人の首に刃を刺した。


「ガハッ――と、頭領……!」


「良くぞ情報を洩らさなかった。それに免じ、暗殺の失敗はこれで清算する。苦しまず、楽に逝ける筈だ」


 男の言葉に刺された者達は喋ることなく、そのまま事切れた。


「全く不甲斐ない弟子達だ。オリハルコン級とはいえ、たった一人の暗殺も達成できないとは」


 男は心底軽蔑した様な口調でそう言った。

 そして男が私の方を向いた事で私は直感する。

 纏う雰囲気が先程までの比ではない。死んだ男が言った通り、この男が暗殺ギルドの長。


 仮面も一部どころか、全てに互いを吞み込む蛇が刻まれている。

 ずっと私達を、ギルドメンバーやその家族を脅していた最悪の元凶の一人を見て、私の中でも怒りが溢れた。 

 

 更に言えば奴の言葉も気に入らない。


「貴様、仲間を……しかも弟子を自ら手に掛けたのか! それでも師か!」


「甘い世界で生きた者の言葉だな。俺は教えられる事は全て教えて来た。その結果がこの様ならば、教えた私の手で引導を渡すのが師からの愛というものよ」


「――私が一番嫌いな人種だな」


 私はすぐに黒絵・蛇を出して拘束しようとした。

 だが直後、男が手を振ると蛇達は身体を切断されて消滅する。


「薙ぎ払った?――いや、斬ったのか」


 消滅間際に見た切断部、それは綺麗に斬られていた。

 随分と鋭利な刃物で斬った様に見える。

 

 まさかと思い、私は奴の手を見ると何かを握っている様に見えた。

 しかし奴の手には何もない。ならば答えは限られている。


「可能性の一つ……武器をさせているのか」


「ほう! 俺のスキルを見破ったのか……初回で見破ったのは君が初めてだ。全く暗殺者泣かせだな」


 男はそう言って、参った言わんばかりに両手を上げた。

 直後だ。私の脇に痛みと熱が走ったのは。


「グッ! これは……刺されたか」


 あの男、あの僅かな合間でナイフを投げたのか。

 しかもマントの隙間。それでも防御力の高い衣服を貫いて。 

 なんて刃物を使っている。徐々に血が染み込んできたが、その刺さった場所には


 軽く触れれば存在は分かる。だが目には見えない。

 完全に透明になっている。


「ふむ、妙だな。刺した瞬間には毒が回って死ぬ筈だが……まさか解毒剤を? かなり特別な毒を使ったつもりだが、良い解毒剤を持っている様だな」


 やはり毒もつかっていたか。

 宴の席で、嘗てチユさんから教わり、自身で作った解毒剤を飲んでいて正解だった。

 しかしそうなれば出血覚悟だ。抜いたほうが良いな。


 私は見えないナイフを手探りで抜き、すぐに黒を操って止血する。

 

「判断が早いな。あぁ良い暗殺者になれたぞ君は」


「私は冒険者だ。貴様と違い、真っ当な師匠から教えを受けたんだ!」


 こいつだけは許せない。 

 平然と弟子を殺す様な奴はだ。

 師匠と共にいたからこそ、師弟の絆や大切さを知っているからこそ。


「お前はここで捕える!」


 私はスキルをフルに使い、黒のある部分から触手や動物を一気に出して男を囲む。

 同時にマントの黒色も使い、中から巨大な腕を出して防御を固めた。

 

 ここから一気に終わらせてやる。


「あぁ……参るな。やはり服から操れるか。しかし私自身の服の影は操れないか。成程、他者のは直接は操れない能力か」


「正解だ」


「正直だな。ならば私も教えてあげよう。いやいや殺すのだから冥途の土産は必要だろう。我がギルドは『回生の蛇かいせいのへび』だ。そして俺のスキルは<物を透明にする>事が出来る」


「やはりか……!」


 私は知りたいを情報を得た事で、決着を決める方へ考えを変える。

 少し態勢を変え、万全な状態でやらねば。


「おっと、足下注意だぞ」


「ぐおっ! マキビシか!」


 足に走る痛み。見えないだけで、きっともっと撒かれているのだろう。 

 くそっ! こんな姿を師匠に見せる訳にはいかない。


 私はマントや衣服から黒い腕を生やし、更に対抗しようと試みる。

 そして頭を素早く冷静にし、奴へ神経を集中させた。


「あぁ……そこまで防御を固められたらやりずらいな。なら、これでどうだ」


 男が指を鳴らした。

――瞬間、私達の周りから消えた。


「な、なんだと……!」


 まるで日が全ての方向から照らすかのように影一つない。

 それどころか私のマントから黒が消え、真っ白に。


「どうだ。私の第三スキルだが面白いだろ? 透明にするスキルの派生だろうね。私が決めた範囲の<色を変える>んだ。これはこれで毒とか誤魔化せて便利なんだ。しかし君相手に特効効果があるとはね」


「ぐっ……何てことだ」


 幸いにも服の中は影が出来て止血は出来ている。

 しかし、夜なのに周りの黒が消えてしまった。


 「さてさて、やはり簡単だ。スキルに物を言わせるだけの相手は。所詮はスキル。それを封じれば赤子同然だ。こんな風にね」


 男はそう言って手に持ったナイフを、わざわざ見える様に透明化を解いて私に投げた。

 

 ふざけるな。私を甘く見るなよ。


 私は投げられてきたナイフを、右手で弾いた。


「むっ! それは……!」


「黒ならある……この中にな!」


 私の右腕――そのブレスレットから、霧の様に闇が溢れていた。

 その闇の黒を利用し、師匠の様なブレードにして弾いたのだ。


「変わったアイテムだな、それは……!」


「驚くのも無理はない。これは私への師匠からの贈り物だ!」


 共に取りに行ったオリハルコン。それは私がブレスレットにして貰った。

 そして「新月石」という闇を出すだけの石と混ぜてくれた。

 

 環境に大きく左右されるスキルでもある。

 だから切り札としてもっておけと。

 その通りだ。本当に師匠には今でも助けられている。

 

「来い! 暗殺ギルド! 私を甘く見るな! 私はクロノ・クロスロード!――ダンジョン・マスターの愛弟子だ!!」


「ダンジョン・マスター……はてどこかで聞いた――」



――瞬間、仮面の男の左腕が飛んだ。


「なっ! クッ――!」


 仮面の男は突然の事でも冷静に、その場から飛んで隣の屋根へと移る。

 その瞬間、周囲に再び黒が戻る。同時に足下のマキビシ等も姿を見せた。


「エミック、頼む!」


『~~♪』

 

 その声に私は何が起きたか、すぐに理解した。

 忘れる事のない声。マキビシを次々と食べる見覚えのあるミミック。


「クロノ!」


 そして私の下に駆け寄って来る、その姿。

 昔と何も変わらない。随分と心配した表情だ。


 あぁ、私はいつまで経っても心配される弟子ですかね。


「師匠……!」 


「無事か! 立てるか!?」


 私の憧れ――ルイス・ムーリミットダンジョンマスターがそこにいた。

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