第14話:冒険者+5:暗殺ギルド


 やはり追いかけて良かった。

 向かった先の周囲が真っ白になったのを見て、すぐにクロノの危機に気付けた。

 

 彼のスキルは汎用性は高いが、悪い切っ掛けがあるとピンチになりやすい。

 昔からそうだった。油断とか関係ないから尚大変だったよ。


「エミック……クロノに薬を渡してくれ」


 私はクロノをエミックに任せ、たった今、腕を刎ねた仮面の男の方を見る。

 熟練だ。腕を失くしたのに、もう落ち着いている。

 力量の瞳で見る限りではレベル<44>か。


「……しかし、独特な仮面に構えか。隠密――いや暗殺ギルドだな」


 見て分かる。連中は暗殺ギルドだ。

 レベルだけの判断は危険だ。

 向こうは人を殺す事に特化している以上、レベルよりも技量に注意せねば。


「~~♪」


 背後から指示を聞いたエミックが、口からどんどん薬を吐き出す音が聞こえる。

 クロノも、それを拾って自身の治療を始めるだろう。


「申し訳ありませんでした……師匠」

 

 背中越しからクロノの弱々しい謝罪がくる。

 やれやれ。油断した訳じゃないだろうけど、まんまとやられたな。


「本当だよ。全く、なんで相談してくれなかった。――いや私の招いた事か。表に出る事を面倒がって、故郷から出たがらない師匠になんて助けを求められないよな」


「違います! これは……私の判断でした。勿論、師匠に助けを求めたかった……ですが、同時に師匠にもう私は大丈夫だとも思われたかった」


「……そうか」


 背中を向けたまま会話をする私達。

 全く、こんな時はどういってやれば良いんだか。


 ただの冒険者とギルド長。立場が全く違う。

 これに関しては私からは良い助言は出来ないが、少なくとも話は聞かなければ。


「詳しい話は聞いた。騎士団と共に裏ギルドと揉めてる様だね」


「はい……私の詰めが甘かったんです」


「そうだね。連中は裏の住人……壊滅させるにしても、やり方を一つでも間違えれば残された道は暴走のみだ」


 冒険者で聞いた事のない者はいないだろうね。


――『三大・裏ギルド』


 たまに入れ替わったりするが、基本的にはずっと同じ顔触れで、依頼でも関わりたくない連中だ。

 

 基本的に法を犯す仕事が大半だからね。


「だが、だからこそ……無理矢理でも私に相談してほしかった。今回に関しては尚更だ。暗殺ギルド――隠密ギルドとは違い、暗殺に誇りを持つ異常なギルドだ。連中に依頼された以上、敵は本気だ」 


 本当に面倒な連中だよ。

 依頼人からのキャンセルか、頭領が死なない限り、ずっと依頼は継続だ。

 

 活動範囲だってダンジョンにすら来るからね。昔を思い出すよ。 


「そろそろ話は終わりましたかな?」


「わざわざ待っていてくれて、ありがとう。そして出来れば、このまま終わりにしたいんだが?」


「クククッ……それは無理というもの。暗殺ギルドは依頼を終わらせるまで追い続ける。得物は逃がさんよ」


 そう言って男は残った手で指笛を鳴らした。

――瞬間、次々と私達を囲む様に仮面の者達が現れる。


「これは! まさかさっき者達が精鋭ではなく、こっちが本隊か!」


 クロノが驚いた声を出す。


「当然だ。念には念を。そうでなければ生き残れんぞ若造……貴様を殺す」


 どうやらクロノも、一杯食わされたようだな。

 この手の連中は先入観を利用するのが上手いから、疑う心がいるんだよ。


 ただ、こっちも聞き逃せないな。 


「それはさせられない。クロノは私の弟子だ。守り通すよ」


「弟子? 貴様……何者だ?」


「ルイス・ムーリミット……ただの冒険者だよ」


「クククッ……それは通らんだろ。名だけなら聞いた事がある。成程、貴様が噂のダンジョンマスターか! 貴様は暗殺ギルド界でも有名だ! 嘗て、4つの暗殺ギルドを壊滅させたとな!」


 懐かしい話を持ってきたな。

 私を嫌った冒険者が、冗談半分で依頼した事が発端の事件だ。


「壊滅は人聞きが悪いね。私は正当防衛をしただけだ。それにダンジョン内での事だからね、勝手にダンジョンにやられたのもいる」


「そんな事は関係ない。貴様とやるのに、この隻腕では足りぬな。おい、あれを」


 男は部下に指示を出すと、部下は何かが入った袋を持って傍に現れる。

 そして中から一つの取り出した。

 

 明らかに人の腕ではない。禍々しく強烈な印象を受ける腕だ。


「これはだ。遥か東の国にいる魔物でな。とても凶暴でな。その腕を――こう使う!!」


 男は私が斬った左腕に、その鬼の腕を当てた。

 その瞬間、強烈な魔力が発生し、鬼の腕は、男の腕の様に付いていた。


「魔物の腕を……!」


「再生能力や特別な魔物の四肢だと、ああいう事は可能だよ。ただ身体に異常や、変な依存症が発症するとも聞くけどね」


 なのに平然と行うとは。

 執念、いや洗脳レベルで彼等が壊れているんだ。


「クロノ……あの男は私が戦う。お前はやれるか?」


「はい。師匠……私は周りの者達を」


 そう言ってクロノは立ち上がり、共に周囲を見渡す。

 ざっと見て20人か。本気だな。

 

 「エミック……クロノを頼む」


『~~♪』


 エミックはご機嫌そうに口を開閉する。

 そして私とクロノが構えた時だった。


「よっしゃー!!!」


 突如、ミアが周りにいた暗殺者へ蹴りの態勢で突っ込んできた。

 いや何やってるの。今の屋根壊れたぞ。


「ミア!? 何をしているんだ!」


「アハハハハ!! センセェ~オレも手伝ってやるぜ! センセイと戦えるなんて久し振りだよ!」


「あの馬鹿……相変わらず加減を知らんのか」


 クロノが頭を抱えているよ。

 懐かしいな。昔もこんな事がある度に、こんな騒がしくなったっけ。


「ルイス殿!!」


「エリア!」


 そうこうしている間に屋根の上に武装したエリアまでやって来た。

 

「既に騎士も展開しております。ここは我等に!」


 エリアの言葉を聞き、気付けば周囲で暗殺者と騎士団が交戦を始めていた。

 ミアもミアで向かってくる者達を屋根の叩き付けたり、蹴りで吹っ飛ばしたりパワープレイが凄いな。


 だが正直、助かるな。

 乱戦で、あの男と戦うのは怖いからね。


「ありがとうエリア」


「い、いえ! 助けるのは……当然ですからぁ……!」


 酔っているのでだろうか。

 エリアの顔が赤い。大丈夫か心配だが、クロノやミアもいるし、エミックも守ってくれる筈だ。


「クククッ……暗殺の筈が、こんな祭りとはな。楽しめそうだ」


「祭りとは他人事だな。悪いが、降りかかる火の粉は払うよ。それがダンジョンで生きる者の流儀でね」


 騎士団も来てるのに慌てる様子がない。

 この余裕は、やはり鬼の腕か。


 鬼の腕の影響だろう。奴のレベルが<52>まで上がっている。

 

――奴に意識を向けろ。


 私のスキル『+Level5』は範囲でも可能だが、私がコイツだと対象をハッキリさせても発動は可能だ。

 これで私のレベルは<57>となり、私はガントレット・ブレードを展開して私と男は構えた。


「暗殺ギルド『回生の蛇』――頭領・ダアナ!」


「冒険者・ルイス・ムーリミット!」


「「参る!」」


 その言葉と同時に私達は飛び出し、空中で両者の蹴りがぶつかり合う。

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