第六章:絶対凍土・ツンドラマウンテン
第41話:冒険者+5:ニヴル雪原へ
あれらか二日が経った。
私は依頼の為、この二日間で休みながらもダンジョン攻略の準備を行っていた。
全く、準備だけでも大変なんだぞ。
ニブル雪原では絶対に一泊はするし、そこからツンドラマウンテンだ。
魔物だって平均レベル<40>だし、強い個体だっている。
最初は私は断ったけどさ、ずるいんだよギルド長め。
『あぁそうか……じゃあ母親が薬を必要としているって、泣きながら来た女の子にはそう言っとくよ。あぁ、彼女から笑顔を奪ったのはルイスだ――』
『分かった!! 行けば良いんでしょ!』
あんな事を言われたら断れるか。
実際、見てないけど今までの経験とギルド長の性格を考えると、本当だと思うし。
だが準備が本当に大変なんだぞ。
ガントレットブレードも調整しないと、私が凍傷になってしまうし。
ずっと温かさを保つ太陽石に、寒さ特攻の太陽のローブ・衣服も必須だ。
どれもこれも高額だが、ずっと使ってきた頼れる道具だ。
私はこれを三人分、所持しているから一応、同行者も連れて行く予定だ。
だがクロノ達は行きたがっていたが、忙しく『蒼月華』を逆に依頼されてしまったよ。
まぁ実際、本当に危険だから誰も連れて行きたくない。
――んだけど、どうしてもと言って今回は二人だけ連れて行くことになった。
その二人を拠点の外に待たせて、私は必要な道具とキャンプ用の大荷物を背負うって、その場から立ち上がった。
「良し……ベヒーの世話はミア達に頼んだし、準備も大丈夫だな。よし行くぞエミック!」
『~~♪』
エミックは私の腰にくっ付くと、私は外に出た。
そして彼女達が待っていた。
「ルイス殿! 準備は出来ています!」
「……こちらも問題なく」
目の前で私と同じ荷物や装備した者達――エリアと小太郎が立っていた。
この二人共に私は今から、生死を掛けたダンジョンへと挑むのだ。
♦♦♦♦
王都から北――白銀の世界。
ニブル雪原の入口まで、最速で到着しても三日は必要だ。
私達はクロノから寝泊まりも出来る馬車を借り、北へと走らせていた。
道中、馬を休ませたりと私達は休憩を挟んでいたが、同じ目的の他の冒険者達が違うらしい。
「急げ! 急げ!」
「もっと走れ!!」
他の冒険者の馬車は、時間との戦いの様に、全速力で馬車を走らせる者が多くいた。
そんな姿に私は呆れてしまった。全く分かってないじゃないか。
「早い者勝ち……って、そんな簡単な話じゃないんだけどね」
「そうなのですか? 聞いた限りでは、かなり希少な華だと聞きましたが?」
エリアの言葉も間違っていない。
実際、希少だ。いつ咲くかよく分からない宝石の様な華。
遠くから見えるツンドラマウンテンに虹が掛かったら、開花の合図だと昔から言われている代物だ。
だが問題は『蒼月華』まで辿り着くまでのダンジョンだ。
「実際、生きて辿り着く者は、どれだけいるかって話なんだ。それだけ極寒の、過酷なダンジョンだからね……だから華が咲くと、毎回大勢の冒険者が死ぬんだ。絶対に」
「……そうなのですか?」
「……ですが、師匠は何度も採りに行っているのでは?」
何度もって、言い方が悪いぞ小太郎。
準備と経験、そして運だよ。花が咲く時期に巡り合える運と、生きて帰れる運だ。
「私だって絶対じゃないさ。――だから再度聞くよ。本当に来るのかい? 今ならまだ戻れるよ」
私はそう言って二人へ――特にエリアを見て、そう言った。
彼女のダンジョン慣れは微妙だ。無論、死なせるつもりはないが、やはり心配は絶えない。
だがそれは来る前から何度も言っていた事だ。
エリアは首を縦にしか振らない。
「既に覚悟は決めています。――私には死地へ、極限の環境への経験が足りないのです」
「それは……ノアと一緒にいたディオに関係する話かい?」
レイから聞いた話では、彼女はディオに色々と言われて敗北したと聞いた。
だがレイからは倒した手応えからして、別にエリアがボロ負けという訳じゃないとも言っていた。
けれど、彼女は負けたと思っているのだろうな。
自身の弱さにせいで。
「私は、もう一皮剥けなければならないのです……王国騎士団・副団長として。――そしてエリア・ライトロード個人としても」
困ったな。またあの時の瞳だ。
ドクリスの森に付いて行くと言った時と同じ、目的を持った者が見せる輝いた瞳だ。
こうなった者は、もう止める事は出来ない。
だって、今までの弟子達も、同じ瞳をしてきたからね。
「そこまで言うなら私も全力で君を助けるが、自身の身は自分で守ってもらうよ」
「はい!」
「うん。……しかし小太郎が来たがるのは予想外だった。珍しいよ、何かを欲しがるなんて」
「……俺にも色々とありますから」
そう言って小太郎は顔を逸らしてしまう。
昔からシャイな子だったから、今一考えが分からない。
けど優しいのは知っているから、意外と誰かへのプレゼントかもね。
そんな事を思いながら、私はコーヒーを飲んでいるとエリアが口を開いた。
「ルイス殿……そのダンジョンについて、もっと詳しく教えて頂けますか?」
そう聞いたエリアの瞳は、相変わらず真剣な力強さがある。
まぁどの道、もっと説明しないと、とは思っていたから良い機会だ。
「そうだね。まず目的地は『ツンドラ・マウンテン』だが、そこに行くまでに突破するダンジョンが『ニブル雪原』だ。そして、どのどちらも危険度8以上の高難易度ダンジョンだよ」
私はそう言って一旦、コーヒーを置いてから話を続ける。
「まず『ニブル雪原』だが、ここは……まぁ下手な国一国分の広さだと思ってくれ。それだけ広いんだ。――そして気温は基本的にマイナスの銀世界。地面も空も周辺も、全て氷と雪に支配された土地。魔物も中々の個体がいるけど、大体の死因は凍傷や凍死だよ」
「つまり、環境の方が脅威のダンジョンなのですか?」
「そうだよ。魔物も強いから脅威だけど、このダンジョンは環境こそが最大の難関なんだ。しかも大自然だから避ける事もできない」
そんなダンジョンに一泊は野宿しないといけないから、尚の事に準備が必要なんだよ。
奥に行けば、ずっと吹雪いてるし。
呼吸だって寒さで辛くなるし、顔も覆わないと痛くて仕方ない。
エルフ族が作ってくれた、太陽の温かさを感じさせる『太陽系統』の装備。
それらを全身に着たり、装備も凍傷にならない様に、直接肌に触れない様にしないともいけない。
だが少なくともエリアも小太郎も、私が事前に言っていた事。
それは守ってくれたようだ。
二人共、ぱっと見はいつもと同じ外見に見えるが、ちゃんと見ると、しっかり着こんでいる。
北は一気に寒くなるし、それで丁度良いんだ。
そしてエリアには、剣は良いが、いつもの大きな盾は要らないとも言って、今彼女の装備はバックラーだ。
小太郎も暗器は気を付けろと言ったから、大丈夫だと思う。
「まぁニブル雪原は、嫌でもその大自然の驚異を理解するさ。次の問題は『ツンドラ・マウンテン』だ。まぁこっちは、ちょっとした山程度で、華も洞窟の中にあるから寒さはまだ良い。ここの問題は実体のない魔法生物。――そして<ツンドラ・オロチ>その山の主だよ」
――八つの首を持つ巨大な大蛇だ。しかもレベルも、最低で<75>の筈だ。
「こっちはニブル雪原で疲弊しているから出会えば、かなり大変な戦いになると思う。基本的には避けるが、頭に入れてくれ」
「はい!」
「御意!」
本当に素直で助かるよ。
前に組まされた冒険者達は、勝手な行動で最後は強行軍で凍死して全滅。
残った私とジャックだけが生き残ったっけ。
どの道、あと二日はかかる。
今の内、二人に出現する魔物とかにも話してやらねば。
私は二人を死なせない為に、この移動期間、ずっとダンジョンに教えていくのだった。
――そして三日が経ち、私達はニブル雪原の入口へ辿り着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます