第40話:冒険者+5:終幕! そして新たなダンジョンへ

 戦いから翌日、あの後の事はあまり覚えていない。

 何度も言っているけど、私もおっさんだ。


 あの激闘の後、どっと肉体が悲鳴をあげて後処理とかは手伝えず、レイに腰を癒してもらっていたよ。


 だがクロノ達から聞いた話だが、信者達は洗脳状態に遭っていたらしい。

 グリムが気絶した事で洗脳が解けて、今は正常になった様だ。


「しかし……これって決勝は中止だよなぁ」


 スタジアムも半壊しているし、こりゃ優勝どころじゃない。

 餌代も諦めるしかない。

――そう思っていたのだが、そんな私の下に主催者のガイル・マースターがやってきたのだ。


「ルイス、取り敢えず今回は助かった。礼を言う。――それと優勝賞品だが、君に渡す事になった」


「えっ! なんでだ……だって決勝は――」


「その決勝相手のミユレが棄権したのだ。そして、賞品は君にと頼まれてね。――どうやら、君の戦いを見て、魔物頼りの自身に思う所があったそうだ」


 それはありがたいが、そんな素振りも無かったから、何か素直に受け取りずらいな。


「どの道、彼女達は既にパンドラから出て行った。表彰式は出来んが、もうお前に渡すしかないぞルイス」


「分かった分かった。まぁ餌代が目当てだったし、ハッキリ言って助かるよ。じゃあ暫くは王都にいるから、ベヒー達の餌に関しては、騎士団とかクロノ達に連絡してもらうと助かるよ」


「分かった、王都だな。それぐらいなら余裕だ。しかし、変なの増えて来たな最近は……ハァ」


 そう言ってガイルは、疲れた感じで宿屋から出て行った。

 彼も大変だ。これからスタジアムの修理とか色々とあるだろうに。


 そう言えば色々と言えば彼女――十六夜も、妙な事を言っていたな。


『ルイス様、貴方様の実力……確かに拝見致しました。――これならば、また会う事になりそうですね』


 そう言って笑いながら彼女もいなくなっていたが、もう裏とは関わりたくないよ。

 ちょい悪で済まないだろ絶対に。


――あぁそうだ。それと、ちょい悪で思い出したぞ。私のガントレットブレードも、また変わったんだ。


「正確に言えば……だな」


 そう言いながら私が触れるガントレットブレードには、悪喰にあった牙の様なデザインが増えていた。

 魔葬砦でのグラビウス。そして今回、レイに封印が面倒だからと、グリムの悪喰を渡されたんだ。


 そして騎士団のエリアも許可を出したから、私は第三スキル『道具合成』でガントレットブレードと合成したんだ。


 そして今、このガントレットブレードは<重力魔法>・<魔力吸収>のスキルを身に付けた。

 アックスブレードも出せるし、鎌の刃も出せる。

 

 敵を倒す度に強くなる……か。若い時だったら嬉しかったが、おっさんだと荷が重いよ。

 しかも冷静になると、このガントレットブレードも、もう二つも魔剣の類と合成しているのか。


「引退したいのに……何故か遠ざかっている気がするよ」


 私は思わず大きな溜息を吐いた。

 だが、まずは目的のベヒーの餌代を確保できたから良かったとしよう。


 そして少し私は宿屋で黄昏ていると、扉のドアが叩かれ、エリアが顔を出した。


「ルイス殿! そろそろ出発ですよ」


「あぁ、そうかい。良し! じゃあ行こうか」


 既に荷造りは終えているし、グリムは既に魔封石で拘束され、先に王都へ移送されている。

 エミックとベヒーも既に馬車や外で待機しているし、もう出発できる。


 私はエリアと共に外へ出て、乗って来た馬車に乗ると手綱を握る。

 だが一つ気になるのは何故、私の左右をフレイちゃんとエリアが固めているのだろうか。


 しかもガッチリ腕を掴んでいるよ。

 結構痛いよ。


「さぁ行きましょう! ルイスさん!」


「では帰りましょうルイス殿! 王都へ!!」


 そう言って互いに言葉を強調した後、私を挟んで睨み合ってるよ。

 えぇ、この状態で帰るの? 後ろでエミックは笑ってるし、ベヒーも嬉しそうに私を見ているよ。


「……取り敢えず、帰ろう」


 取り敢えず私は馬車を出し、それに続いてクロノ達も馬車を出した。

 さらば大都市・パンドラ。今度来るときは、のんびりしたいよ。


♦♦♦♦


 だが私に平穏は訪れない様だ。

 それはパンドラから離れた道中での事だ。ギルド長が馬車で横付けして来た。


「両手に華だなルイス!」


「うるさいですよ。用がないなら、さっさと前に出てください」


 こっちは疲れてるの。全く、上の連中は本当に自由なんだから。


「アハハハハ! すまんすまん!――実は、お前にしか頼めない依頼が来ちまってよ」


「依頼? まさか討伐ですか?」


「いや採取系の依頼だ。だが、その場所が問題なんだ」


 おいおい嫌な予感がするぞ。

 あの豪快なギルド長が悩んでいるって、相当だぞ。

 だが、妙だな。なんかあったかな、時期的な依頼なんてなかった筈だが。


「――。極寒に咲く、大自然のが」


「えっ……それって、依頼ってまさか……!」


 私はそれを聞いて確信した。

 面倒な依頼だ、これは。そして危険だ。私ですら準備を怠ると死ぬ場所だ。


 そして私の言葉にギルド長は大きく頷いていた。


「10年に一度だけ咲く。サファイアの如く輝く、水のマナの結晶華――『蒼月華あおげっか』の華がな!」


 やっぱりだ。それをもう聞いただけで溜息が出るよ。

 面倒ごとが起きるぞ。いや争奪――いや、また死ぬぞ。


「って事はダンジョンは――」


「分かってるだろ、お前なら。蒼月華の咲く場所――危険度8! 極寒の<ニブル雪原>を超えた先にある、危険度9ダンジョン! <絶対凍土ぜったいとうど・ツンドラ・マウンテン>!!」


 そう、そこは極寒のダンジョン。

 そして蒼月華は、その希少性故に高価。――だからその年、冒険者がダンジョンや強奪で大勢が血を流す。


――だから別名『蒼血の華そうけつのはな』とまで呼ばれる、マジでヤバい代物だ。


 絶対に行きたくなけど、行かないと駄目なんだろうなぁ。

 蒼月華って、鑑賞目的が主だけど、あれ薬にもなるんだよ。

 

 そして俺に来る依頼の大半がそれ。

 あぁ、ゆっくりしたかったな。


 私は心の中で、少し泣くのだった。

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