第39話:冒険者+5:決着 モンスタースタジアム

 私とグリムは空中でぶつかると、その衝撃を利用して互いに距離を取りながらスタジアムへ着地した。


 既に『+Level5』は発動し、グリムを対象としている。

 グリムのレベルは<61>だが、あの悪喰って鎌を出してからレベルが<71>まで上がってるな。


 きっと、また魔剣の類だな。しかし、これで私のレベルは<76>だ。

 それに奴は独特な構えをして、パワー型には見えない。


 きっと魔法系を多用してくる筈だ。

 何とか接近戦に持って行けば私の勝ちだ。


「抑えろミア!」


「分かってら!――波動獣王拳!!」 


「動きはこちらでも抑えます!! ホーリーチェーン!!」


「周りも見てよぉ~ボム・ファイア!」


「……貴様もな。火遁・爆炎弾」


 既に周囲ではクロノやミア達が骸竜を魔法などで抑え、一気に畳み掛けていた。

 それに信者達はギルド長達が相手をしてくれている。


 この乱戦の戦場だが、周囲に気を付けながら私はグリムだけに標的を絞ってブレードを構えると、奴も鎌を私へと向けていた。


「貴様だけは楽に死なせんぞ! ダンジョンマスター!!――レッドサイズ!!」


 なっ! 鎌で炎の斬撃を飛ばしてきたか。

 ならこっちは水と風だ。


 私はブレードに水と風の魔法を混ぜ、激流となった水流をブレードに纏わせる。


「水刃――激流波!」


 そしてタイミングを合わせ、水飛沫を生み出しながら叩き割り、そのまま炎の斬撃を撃ち消した。


「チッ! ならば魔弾・螺旋波動!」


 今度は鎌を回したと思ったら、そこから大量の魔弾を放ってきたか。

 しかしノアに比べれば、あの程度の魔弾がなんだ。

 

 私はノア戦で使った重力魔法を包み方法を思い出し、ブレードに重力魔法を纏わせた。

 そこから身体を回転させ、ブレードにグリムの魔弾を重力魔法で引き付けていく。

 

 そして一通り纏まった所を、一気に解放してグリムへ投げ返す。


「返すぞ! 受け取れ!!」


「ぐぅっ! うおぉ! ガッ! ゴホッ!」


 グリムは数発は防いだが、一発受ければ後は一気に肉体に魔弾をくらっていく。

 重力魔法で重みがある筈だ。これでダメージを受けて、動きも鈍った様に見える。


――今が好機。私は一気にグリムへと接近した。


「ぐっ! 接近戦ならば勝てると思ったか! 甘く見るな! 私はノア様に選ばれた始高天の一人である!!」


 奴にも意地があるようだ。

 私の踏み込んだ二刀のブレードを悪喰で受け止め、何とか防いだが、力押しならば私に分が――


「――ん? これはなんだ……魔力が減っている!?」


 私は悪喰とブレードを合わせていると、不意に急激な魔力の減りを感じた。

 まさかと思ってグリムの顔を見ると、奴は口を歪ませて笑っていた。


「素晴らしい! 素晴らしい魔力だ! それだけは評価しよう! 私以上の魔力だと……! どうやら貴様はレベルは私より上の様だが、この悪喰を甘く見たのが最後よ! さぁ悪喰!!」


「うおっ……! ま、まずい!?」


 あの鎌、一気に私の魔力を吸い上げ始めたぞ!

 全く、こういうのもあるから魔剣は恐いんだよ! 


 私は一気に両手に力を込めてブレードを放し、そのままグリムの腹に蹴りを放った。

 だが手応えはあったが、奴はそのまま僅かに地面から浮き始めたからダメージが伝わらない。


「グッ……ガハッ! ダメージを受け過ぎたが、それでも貰ったぞ貴様の魔力!!」


 なんだダメージはあるのか。少し血を吐いた様だが、まだ元気はあるようだ。

 しかも魔力を持ってかれた。こうなると、更に神経を使うから辛いんだよ。


「……悪喰・魔刃!」


 グリムめ、悪喰の刃に魔力を纏わせたか。

 その魔力で魔力刃を形成し、リーチも伸びたな。


 全く、始高天の連中は強い奴ばかりだ。

 少しも休めないぞ。――こうなったら、一撃一撃に渾身の一撃を込めるしかないな。


「黒絵――三頭犬!」


「抑えましょう――女郎締め」


「――爆裂八方手裏剣」


 あっちも不死身の骸竜に手こずっている様だ。

 クロノが三つの首の犬を出して肉体を砕き、十六夜が糸で骸竜を抑えた所を、小太郎が頭部を爆発性の手裏剣で破壊する――が、骸竜はすぐに再生する。


「螺旋閃光!」


「ミア――合わせて!」


「任せろレイ! 獣・爆裂拳!!」


 再生した直後を狙ってエリアが光の回転斬りで両腕を斬り落とし、レイとミアで爆発する鉄拳で身体を木っ端微塵にする。


「今よファング!!」


『ウオォォォ~ン!!』

 

 そこへホワイトファングが縦横無尽に動き、更に細かく砕いた。

 だが、それでも骸竜はすぐに再生してレベルも既に<72>にまで上がってるな。


『――!』


『グオォォォン!!』


 そんな骸竜にエミックとベヒーが突っ込んで行って、ベヒーは角で放電しながら骸竜を砕き、半端に再生している所をエミックが全力で抑えている。


「キリがねぇぞ、おい!」


 あのミアが叫ぶ程か。

 まずいな。取り敢えずグリムを倒すしか方法が分からないぞ。

 これで奴を倒しても倒せなかったら笑えないが、やるしかない!


「行くぞ、グリム!」


「良いだろう……貴様を我が神の下に導かん!!」


 私はノアの時にもやった重力魔法で他の魔法を圧縮、そして中に閉じ込める技法でブレードに纏わせた。


「魔法刃――マーズ・マーキュリー」


 私はオリハルコンの耐久性にものを言わせ、炎と水を重力魔法で徹底的に圧縮して纏わせた。

 

 これによりブレードはマグマの様に、サファイアの様に美しくも危険な色の刃へと変わっていく。

 それを見て、グリムも表情を変えた。


「なっ! 馬鹿な……貴様、どれ程の魔力があるのだ……!」


 君のレベル+5分ぐらいだよ。

 私はただの、おっさん冒険者だ。

 

――だから感謝するよ。君が私よりも


「行くぞ!――グリム!!」


「全ては始高天!! ノア様の為に!!」


 私とグリムは叫び、ほぼ同時に前に出た。

 そして最初に仕掛けたのはグリムだ。


「死ね!!」


 悪喰で横一閃に振ったグリム。

 その刃を私は左腕のガントレット部分で全力で殴って弾いた。


 これがガントレットブレードの強み。防御と攻撃、私の様な未熟者に似合いの武器さ。


「ぬおっ!! まだまだ!! ノア様ぁぁぁぁ!!」


 グリムも何か、敗北への何かを感じたのだろう。

 勝負を終わらせたい気持ちが伝わってくるぞ。


 奴は叫びながら悪喰を真上に掲げ、一気に振り下ろしてくる。

 それを私は炎のブレードを全力で振り上げ、悪喰の刃と迎え撃った。


「魔法刃・マーズ――タルシス!!」


 それは悪喰の刃に触れた瞬間、山の様な強大な爆炎を生む、その衝撃でグリムがとうとう悪喰を手放す。


「があぁぁ!! あ、熱い!? ま、まさか!! 私がっ! ノア様がぁぁ!!」


 既に彼の本能は負けを悟ったのだろう。

 錯乱する彼に私は水のブレードの先端を向け、一気に腹部へ突きを放つ。

 しかし、そのまま突き刺さる事はなかった。


「魔法刃・マーキュリー――カロリス!!」


 圧縮していた水が暴発したかの様に、水圧で殴ったかの様に、巨大な衝撃となってグリムへ直撃した。


 そして私が最後に見たグリムは、白目で吐血しながらスタジアムの壁へと吹っ飛ぶ姿であった。

 グリムは壁にぶつかると、そのまま地面に倒れ込んだ。


「これでどうだ!?」


 私はすぐに骸竜の方を見ると、骸の竜の真下にあった魔法陣が消滅した。

 それと同時に信者達の額にあった魔法陣も消え、彼等は我に返った様に膝を付いて動きを止める。


 そして骸の竜の動きも確実に鈍ったと分かった時、ベヒーが動いた。


『グオォォォン!!!』


 猪突猛進の如く、肉体を硬化して突っ込んで高レベルとなった骸の竜の身体に亀裂を入れる。

 そこから大会で何度も見せた大技――角で一気に宙へと投げ飛ばし、そこにジャンプしたエミックが真上から骸の竜へ落下しながら地面へと叩き付けた。


――すると、ようやく骸の竜の赤い瞳から光が消えた。 


 そして、まるで最初から存在していなかったかの様に崩れ、最後は砂の様に消えていった。


「……終わった」


 それを見て、私は思わず空を見上げながらそう呟いた。

 こうして短く、けれど濃いモンスタースタジアムでの戦いは幕を閉じたのだった。



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