第3話:冒険者+5:準備して、ペットも紹介する

「今、やれる事は全部やった! 他の仲間達も入口周りを固めてくれているから、何かあれば援護してくれる!――本当に良いんだなルイス?」


「えぇ、ありがとうギルド長。こちらの準備は終わっています。後は……任せて下さい」


 あの後、私達はすぐに出来る準備をし、今はダンジョン『幻殺樹海・ドクリスの森』の入口にいる。

 仲間達のお陰で必要なアイテム等をかき集め、周囲の村やギルドからも魔導士達や火炎瓶・爆弾を使う商人や盗賊を呼んで集めてくれた。

 本当に感謝しかない。私も家に帰って準備をしてきて、あとはダンジョンへ入るだけだ。


「だがルイス! 本当に良いのか! 森に入るのがお前と副団長と騎士一人の計三人で。しかもその内二人は森に慣れてないんだぞ?」


「彼女達が折れなかった……というのは言い訳です。覚悟が決まった若者の想いを否定する。それは私には出来ない。――でも実力のある御二人です。必ず、私が二人を無事に帰しますよ」


「……本当に無理はするな。お前も無事に帰らなきゃ意味がない。何かあれば、すぐに魔法でも何でも空に上げろ。すぐに助けに行ってやるからよ。多少のレベル差なら、弱点を突けば何とかなるからな!」


 そう言ってギルド長は力強く、私の背を叩く。

 気合注入というべきか、だが不思議とそれが心強く感じるな。

 やっぱり歳かなぁ。感性も変わって来た気がする。


「ルイス殿、我々の準備は出来ています」


「……本当にたった三人で行くのか? 本当にマズイなら、ここにいる全員で行くべきじゃないのか?」


 そうしたいが森の道は人に優しい訳じゃない。

 幻殺樹海と言われるだけあって、擬態した魔物達も多い。

 大勢で行って、動きが制限されて仲良く全滅なんて笑えない。


「随分前だが、森のダンジョンに私も入った事がある。あの時は大勢だったが、木々や獣道のせいでまともに動けなかった。だから少数精鋭の方が利に叶っているのだろう」


 ふむ、やはり場数が違うな。若くして副団長になっているエリア殿は落ち着いているが、若い騎士の方は私の話を聞いてから落ち着きがない。

 彼も優秀なのだろうが、如何せん実戦経験が足りないのだろう。

 対人ではなく、ダンジョン・魔物という自然界の脅威との。


「腕はもう良いのかい? 先程はすまなかったね」


「……これぐらい騎士にとって何でもない。それよりも、あんたそんな軽装で良いのか? 強力な魔物だっている可能性があるんだろ?」


 青年騎士は私の姿に疑問らしい。チラチラと私の姿を観察しているが、それも当然だろう。

 今の私は丈夫だが比較的、軽量な装備を身に付けている。やはり森ならレンジャー装備が一番だよ。動きが重要だ。

 装備・道具の収納ケースは全身に身に付け、投げナイフ数本。

 後は私の相棒の両腕ブレード付きガントレットだ。これは色々と細工も出来るし、上部で軽いから長年助けられている。


 「武器はそのナイフとガントレット……なのですか?」


「あぁ、並みには扱えるのだが、どうも私は弓とかが苦手でね。投げナイフ等をよく使う。それにナイフはいざって時に便利なんだ。このガントレットもダンジョンでは両手を自由にした方が良い、そう結論を出した私の答えなんだよ」


「成程……そういう考えもあるのですね」


 エリア殿は少し半信半疑だが、私の説明に一応は納得した様に頷いている。

 

「ん? ちょっと待て! あんた、その腰に乗せてるみたいなのはなんだ。そんな物が必要なのか?」


「あぁ、これかい? これは――」


 私の腰に付けている宝箱風の箱。それに騎士のが彼が気付いてくれた。

 確かにこれは普通なら目立つし、動き重視と言いながら矛盾したアイテムだろう。

 だが万が一もある。事前に説明は必要だ。そう思った私だが、それよりも先にエリア殿が箱に手を伸ばしてしまった。


「なんでしょう? 綺麗な箱ですね……」


「あっ! 駄目だ! 迂闊にさわっちゃ――」


――パクッ!


「ふえぇっ!!?」


 触れようとした瞬間、エリア殿の手は食べられた。

 そして、そんな異常事態にエリア殿は随分と可愛らしい声を上げ、数秒固まっていたが、我に返った途端に叫ぶと同時に手を引っ込める。


「キャァァァァァァッ!! なんですかそれ!!」


「ふ、副団長! お怪我は!? おい冒険者! それはなんだ!!」


「あぁ……すまない。でも怪我はないとも思うよ。今のみたいなものだ。本気だったら手を失くしている」


 まぁそんな事自体、私が指示しない限り、はしないけどね。

 だが事情は説明しなければ。私は腰から箱を持ち、腰を抜かす彼等の前に置いた。

 すると、箱は生きている様に口をパクパクとさせ、巨大な牙や舌を出して挨拶する。


「も、もしかして<ミミック>ですか!? 何故ミミックを……!」


「説明が遅くなって申し訳ない。この子は私のペットなんだ。<エンシェント・ミミック>――名前は<エミック>だ。アイテム収納や、自身でレベルの上げ下げが出来る賢くて良い子だからよろしく頼むよ」


『~~♪』


 昔、遠出したダンジョンで、傷付いた小箱の時にエミックを拾ったんだったな。

 あれから10年以上、ここぞというダンジョンでは共に挑んできた相棒だ。

 あぁ、本当にあっという間の人生だなぁ。一年の流れが早いよぉ。


「ミミックがペット……ですか」


「これだから冒険者は変人って言われるんだ……!」


 そんなドン引きした目で見ないで欲しいな。

 本当に良い子だし、無暗に攻撃しないさ。何より紳士だよエミックは。

――あっ! エミック! エリア殿のお尻を舐めるの止めなさい! 愛情表現で舐めるのは分かるが、それもセクハラだぞ!



♦♦♦


「それじゃあ行ってくるよ」


「本当に気を付けていけ!」


「何かあったらすぐに言えよ! 俺等も入口付近だが、警戒しとくからよ」 

 

 準備を終えた私とエリア殿・青年騎士の三人は、ダンジョンの入口に立ち、あとはダンジョンへ入るだけだった。 

 ギルド長や仲間達は、もう何度も念入りに私へ心配の言葉を掛け、残る騎士達もエリア殿達へアイテムを渡したり、無事を祈っていた。


 フレイちゃんはギルド事務所に残ったが、行く前に御守りをくれたし、私も首に付けている。

 早く帰って安心させねば。


「ではこれより危険度7『幻殺樹海・ドクリスの森』へと入る」


「……団長、待っていてください」


「……危険度7か」


 うむ、やはり後ろの二人からは不安等の感情が聞こえる。

 慣れている、というよりも比較的だが、それでも私がしっかりせねば。

 過剰評価とはいえ、嘗ての教え子達が推薦してくれたのだ。彼等に恥を掻かす訳にはいかない。


「行きます」


 そう言って私はダンジョンへ足を踏み入れた。

――瞬間、私の第一スキル『+Level5』が発動し、私のレベルが変動した。


 あっまずい。私のレベルが<61>になってる。

 このダンジョンにレベル<56>の魔物がいる。絶対にボス魔物じゃないか。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る