第20話:ミア・ナックルヘッド
「長い階段だな。所々が崩れて昇り難いし面倒くせぇよ」
『~~♪』
オレはエミックを腰に巻いて、騎士達とジャックのオッサンを引き連れて、魔葬砦の階段を走り続けていた。
油断すると、すぐに崩れる階段は鬱陶しいが、魔物がいないのが救いだ。
「ルイス殿……大丈夫でしょうか」
後ろからエリアとかいう女騎士がそんな事を言っている。
こいつ、センセイを見る目がなんか変だから、なんか嫌なんだよなぁ。
そもそも、そんな言葉が出る時点で分かってねぇよ。センセイの事を。
「お前。センセイのこと、なんも分かってねぇな。だから、そんなエロい格好しても相手して貰えねぇんだよ」
「エ、エロい!? こ、これはちゃんと加護や魔法も掛けられている聖なる鎧なんですよ! それにルイス殿は関係ないでしょ!」
よく言うぜ。センセイの時に話しかける時だけ、嬉しそうな顔してる癖に。
ぜってぇコイツ、センセイのことが好きだな。まっ、オレが認めねぇけど。
「何より格好については、アナタに言われたくありません! なんですか! その格好はチューブトップにホットパンツって、もう面積なさ過ぎて色々と見えてるじゃないですか!」
「うっせぇな! どんな格好しようがオレの勝手だろ! 勝手に見て来る奴の方がヤバいんだよ! でも、センセイなら良いぜ! たまにチラッて見て来て嬉しそうだしな!」
「なっ! なんて破廉恥な人! そもそもアナタは心配じゃないですか! あの傭兵、只者じゃない。纏う雰囲気が並の傭兵とは違いました」
そんなこと、見た瞬間に分かってるっつうの。
きっと、スキルで強化してレベルが変動するタイプだろうな。
「だろうな。けどセンセイを心配してる時点でアホなんだよ。センセイが、あんなのに負ける訳ねぇだろ!」
「だから何故そう言い切れるのです! アナタだって、オリハルコン級ギルド長でルイス殿の弟子なのでしょう! ならば心配ぐらい――」
「逆だアホ。こんな状態でもセンセイはオレ等を心配してる。そんだけセンセイは強んだよ。――何より、センセイやオレ等より弱いテメェが、センセイを心配するってのが傲慢だろうが」
「なっ! 侮辱する気ですか! 私は王国騎士団・副団長ですよ!」
声で分かるぜ。本当に怒ってんだな。
これぐらいで感情が大きく変化する時点で駄目だ。
ただレベルも練度も高いのは分かるけど、所詮は街中や対人しか出来ない騎士だ。
ダンジョンだと間違いなく足手纏い。
この程度の挑発で起こるぐらいだ。まだ修羅場も潜ってねぇ筈だ。
「テメェ。ドクリスの森、行ったのか?」
「……何ですか突然。えぇ行きましたよ」
「一人でか?」
「……いえ、ルイス殿と部下一人を連れてです。あと、そこのエミックもですね」
やっぱりな。チユの婆ちゃんからの手紙で見て変だと思ったんだ。
センセイがドクリスの森で負傷して、疲れて眠ってるってよ。
お前等、足手纏いがいたんだな。なら当然だ。
ドクリスはレベルが変動するが、足手纏いがいなけりゃセンセイが苦戦するかよ。
「あっそ。じゃあ一つ言っておくけどよ、オレ等――センセイの弟子達は一人でドクリスの森を攻略してるぜ。それがセンセイからの卒業試験だからな」
「なっ! ならば、あのドクリスも――」
「正確に言えば『翠の夢』を持ってくる事だな。けど、オレやクロノを始めとした何人かはドクリスも倒してる。そんなオレ等でもセンセイよりは弱い。戦闘技術と経験がな」
センセイは第一スキルの事で自分を過小評価っすけど、それで生き残れる程ダンジョンが甘くない。
それを教えてくれたのもセンセイ自身だけどよ。
そんなセンセイに、オレ等は勝てねぇぐらい本当に強いんだ。
だからムカつくんだ。センセイの事を殆ど知らねぇ奴が、センセイを心配――嘗めてることによ。
「これで分かったかよ。ドクリスの森を一人で突破も出来なかった奴がセンセイを語るな。あの人はオレ等の憧れで誇りなんだ。ただの傭兵に負ける人じゃねぇ」
「……アナタとルイス殿の関係って何なのですか? 黒の王も、少し距離がおかしいと言いますか」
「……ぶふっ」
なんでオレがそんな教えなきゃいけねぇんだよ。
けど良いか。久し振りにセンセイと一緒にダンジョンにいて嬉しかったけど、水差されて、少し吐き出したい気分だ。
あとジャックのオッサン。後ろで笑ったの聞いてるからな。あとで殴ろ。
「冒険者としての師匠と弟子……だけじゃねぇな。家族だな。オレを始めとした何人かは。」
「家族?」
「そうだ。オレの場合は……親に売られて、人売り店でセンセイに助けられたんだ」
物心ついた時には親という存在はクソだと思ったよ。
殴る蹴るは当たり前。まともな世話なんてされたことがねぇ。
だが金は毎回困っていたクソ共だ。最後は、見た目が良かったオレは人売りに売った。
きっと当時のオレは世界を憎むほど、酷いツラと目をしてたんだろうな。
だからセンセイはオレに気付いたんだろう。
「親に売られたって! それだけで犯罪じゃないですか!」
「うっせ。そんなことガキでも分かるっつうの……テメェにそこまで詳しく話す気はねぇぞ。ただ、オレにとってセンセイと、センセイの両親である叔母さんと伯父さんは家族だ。オレを救ってくれた大切な人達なんだよ」
今だから言える。オレを売った人売りが馬鹿で良かったよ。
センセイが依頼金でオレを買うって言って、目先の利益でオレを売ってくれたんだからな。
今回の『骸の贄』の討伐を受けたのも、それ系でムカついたって話だしよ。
『さぁ帰ろうか』
誰かのおんぶしてもらったのも、それが初めてだった。
センセイが腰に巻いたエミックの上にオレを乗せ、おぶりながら町へ帰った時のことは今も覚えている。
最初は助けてくれたセンセイも恨んでいた。
助けてくれたって認識もねぇし、多分誰でも良いから恨んで生きる目的にしたかったんだ。
でもオレは単純だ。センセイの背中が温かくて、安心して、センセイの家に戻った時には恨みなんてなかった。
『あらあら! どうしたの!』
『ありゃあ! こりゃあ大変だ!?』
センセイの家に付いたら叔母さん達は驚いてたけど、急いでオレを叔母さんが風呂に、伯父さんが服や飯を準備してくれたな。
本当に温かく、優しくて嬉しかった。
『お前、嫁はまだなのに子供を連れて来るなんて逆だろ普通は!』
センセイが伯父さんに変な𠮟られ方をしていたのも覚えてるけど、オレが救われたのは間違いないんだ。
今でも手紙のやり取りも、たまにセンセイの家にも帰ってる。
オレにとっての実家はあそこだし、叔母さん達も喜んでくれるから。
ただ冒険者な事には今も反対って言ってたな。
心配してくれるのは嬉しいけど、これがオレの選んだ道なんだ。
けど久し振りに帰ると見合いの話は止めて欲しい。
オレは興味ねぇし、男っ気はセンセイだけで十分だ。
「うぅ……ううぅっ」
後ろからジャックのオッサンの泣く声が聞こえる。
なんで、あんたが泣くんだよ。
「まぁ、だから……センセイを弱いみたいに言うな。オレ等だってセンセイの事はいつも心配だ。けどよ、センセイは負けない。どんな相手にもな。だからオレ等にとって絶対の誇りなんだよ」
「……そうですか」
声で分かる。こいつ、エリアって女、また深く考えてやがる。
所詮は他人事なんだから、そこまで考えんな。
そうこうしている内、屋上への入口も見えて来たぞ。
「切り替えろ! そろそろ着くぞ!」
オレは全員へそう言って身を引き締めさせ、そのままの勢いで屋上へと突っ込んだ。
「オラァッ!! 出てこいグアラ!!」
オレは積年の恨みの様に腹から声を発した。
そして見付けた。屋上の端でオレ等に気付いた武装したスキンヘッド――グアラを。
「テメェ等……どうやってここに! あの傭兵は何やってんじゃ!!」
「あの傭兵なら下でセンセイとバトってるぜ。テメェの相手はオレ等で十分だがな!」
オレはそう言って、センセイから貰った両手のガントレットを鳴らす。
同時にエリアと騎士達が、ジャックのオッサンも前に出てきて武器を構える。
「グアラ! 降伏しろ! 貴様は終わりだ!!」
「やかましいわ!! 雑魚共が! これを見てもまだ言えるんか!!!」
グアラの奴、羽織っていたマントを投げ捨てやがった。
けどなんだ。鎧とか盾とか着込んでんな。
「あっ? んだそれ?」
「見て崇め!! 聞いて恐怖せい!!――ドワーフが作りし魔合金の鎧! エルフ族の加護が付いた守りの盾! 重力を操る魔剣・ブレードアックス『グラビウス』!! この最強の装備の前に貴様等おしまいじゃ!!」
「あっそうかい」
オレの隣でジャックのオッサンが容赦なくボーガンを乱れ討った。
おぉ容赦ねぇな。流石、センセイの友達じゃん。
「甘いわ!!」
おっ、グアラの野郎。グラビウスを翳しただけで重力が魔法を。
オッサンの矢が全て、地面に落とされてめり込んでるぜ。
「あらら、魔剣は伊達じゃないって事か」
オッサンはそう言ってボーガンをブレードに切り替え、接近戦の備えてる。
まっ、それが妥当だもんな。
「ええい騎士を嘗める!! ファイアーアロー」
「サンダーバード!」
騎士共が特殊スキルの魔法を放ったが、グアラの野郎。今度は盾を構えたな。
「フンッ!! ぬるいわ!!」
騎士共が放った魔法が盾に防がれ――いやかき消されたのか。
どうせ盗品だろうが、大したアイテムだ。
そう思っていると、今度は側面から大きな魔力を感じた。
エリアの野郎。デカイのをぶつける気か。
「ならばこれでどうだ!!
おぉ、やるじゃん。
こんだけの魔力が篭った光の斬撃。あれなら多少は――
「甘いわっ!!」
グアラの野郎。今度は武器も盾も構えず、鎧で受ける気かよ。
エリアの斬撃が、そのままグアラに直撃して爆風みたいに風が吹く。
だが晴れた目の前には、平然と佇むグアラの姿があった。
「馬鹿な……!」
「すっげぇ装備だな。全然平気そうじゃん!」
「当たり前じゃ! これ一つ一つで豪邸が何件建てられると思っとる! 貴様等じゃ話にならんわ!!」
「へぇ、そうかよ。じゃあ、次はオレが試さしてくれよ」
そう言ってオレはゆっくりとグアラへ歩いて行く。
まぁ、念の為に力半分ってところか。
「いい度胸じゃ娘! だが!!」
グアラはオレに向かってグラビウスを振って来た。
「おぉっ、これが魔剣の重力か?」
確かにすげぇが、これぐらいじゃオレは止められなねぇよ。
オレは歩くたびに足がめり込むが、関係なく進んで行く。
「なっ、なんじゃと! ぐっなら、もっと強力に――」
「――おせぇよ!」
オレは奴の目の前に一気に動いた。
軽過ぎんだよ。この程度の重力じゃ。危険度9のダンジョンの方がヤバいぜ。
「なっ! クソが!」
グアラは鎧で受けようと身構えた。
けど残念だったな。オレには無意味だぜ。
「第一スキル『
オレの魔力の篭った拳が、奴の鎧を砕き、そのままグアラを打ち抜く。
「ぐおぉぉぉ……おぉ……!!」
オレのスキルは相手の防御を全てを粉砕する。
鎧を砕き、奴の腹にめり込む拳を受け、グアラは声を出すのも必死なまま、そのまま吹き飛んで柱へ激突して倒れた。
まっ、あのまま落としても良かったけど、今は死なせねぇ方が良いからな。
加減はしといたぜ。
「凄い……」
「これがダンジョンマスターの弟子か……!」
「あらら、良い弟子ばっかり持って羨ましい」
ふふん。どいつもこいつも褒めてくれるぜ。
実際、嬉しいから良いけどよ。
やっぱり俺とセンセイ、同時に褒められんのは嬉しいな。
「ハッ! こんなん余裕だ! さて、とっとと捕まえるか」
オレはそう言いながらグアラの下へ駆け寄ろうとした。
――時だった。
「……これで……終わり……だ」
グアラはポケットから何か玉みたいなのを取り出し、そのまま転がした。
「なんだ宝石か何かか? 命乞いするにも遅いだろ?」
オレがそう言った、まさにその時だった。
玉は解ける様に砦の中に消えていき、そのまま地響きが――いや砦が揺れてやがる。
「なんだ!?」
「ちょっとちょっと!」
エリアやオッサンも慌ててるが、どういう事だ。何が起こってんだ。
オレは玉が消えた所を見ていると、そこから徐々に何か柱の様な物が生えて来ていた。
「はっ? おい、ちょっと待て……!」
オレが言うよりも砦の瓦礫を吸収したかのようにデカくなる物体。
それはやがて、頭部・上半身・両腕・巨大な翼を生み出してオレ等を見下ろした。
「……マズイか?」
わりぃセンセイ。しくったかも。
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