第22話:冒険者+5:魔葬砦・攻略完了

 コアを貫いた瞬間、コアは粉々に砕け散った。

 私は落下しながら受け身を取って着地し、頭上から音と共にデーモンゴーレムが崩れ始める。


「おっと、まずい!」


 流石に、ここにいては危険だと、私は少し離れた。

 皆もデーモンゴーレムが作った魔物が、コア破壊と同時に崩れたのを見て離れ始めている。


『ボオォォォ……ォォォ……!!』


 まるで本当に悪魔だったかの様だ。

 本物と誤認としてしまう様な断末魔と共に、デーモンゴーレムは腕から崩れていき、最後は瓦礫となって消滅した。


 それを確認してから、私はようやく一息入れて近くの瓦礫へ腰を下ろす。

 ハァ、本当に疲れたな。

 傭兵にデーモンゴーレムの相手は歳関係なく辛いよ。

 

 そう思いながら、いたた、と言いながら連戦で、身体も傷や疲労で悲鳴をあげている。

 

「おいいたぞ!! 奴だ!」


 ゆっくりしていた私だったが、なにやら騒がしい事に気付いた。

 そして騒がしい方へ顔を向けると、そこでは騎士達がぐったりしているグアラを拘束している所の様だ。

 

「おい急げ! まだ息がある!」


「絶対に死なせるなよ! こいつは、しっかりと償いをさせるんだからな!」


 満身創痍な騎士達も、グアラ相手では元気が出る様だ。

 だが当然だ。彼の余罪は山ほどある筈だ。絶対に死なせていけない。


「これで『骸の贄』も、お終いか」


 騎士達は彼が使っていたであろう装備はそのままに、彼を引きずりながら運んでいく。


 そして代わるようにグアラがいた場所に来たのはエルフ族の彼女達だ。

 彼女達は何かを探している様子で、やがて一つの綺麗な盾を拾って天へと翳す。


「あった! ついに取り返しました! エルフ族の宝具を!」


 エルフ族の宝具? あの盾がそうなのか。

 確かに宝石や装飾は神々しいデザインだし、不思議と盾から神聖さも感じる気がする。


 成程ね。エルフ族の宝具を盗まれていたら人身売買と同じぐらい、エルフ族も黙ってないか。

 しかし、取り敢えずは良かった。後処理は私以外で進むだろうし、少し休もう。


 身体は痛いし、喉も渇いた。

 辛味を効かせたチキンが食べたいな。

 そのまま果実水や果実酒を、喉を鳴らしながら飲み干したい気分だ。


「……ハァァァ。節々が痛い。もう歳だな」


「ハハハッ! 君が歳なら、俺は隠居してないとおかしいじゃないか」


 どうやら独り言を聞かれた様だ。

 私が顔を上げると、そこには笑いながらやって来るグランがいた。

 いつもの大剣は背中に戻しているが、その手には何やらアックスブレードが握られている。


「やぁグラン。お互い、お疲れ様だな」


「何を言っている。一番のお疲れ様は君だろう。既にエリアからも聞いている。傭兵と一人で戦い、そのままデーモンゴーレムだろ? 報酬は期待していてくれ!」


「報酬って、別に依頼じゃないだろこれは? 騎士団への相談役での付き合い、そして弟子を助ける為に勝手に突っ込んだ話だ。報酬ならジャックにあげてくれ」


「勿論、彼にも用意する。だが君にもだ。相談役、師匠……それ以前に君は冒険者だ。だから、今はこれで申し訳ないが受け取ってくれ」


 そう言ってグランは強引に私にアックスブレードを渡すが、これは一体?

 やけに不思議な魔力を感じる。特殊な武器――魔剣の類か。


「これはなんだ?」


「どうやらグアラが使っていた物の様だ。重力魔法が使えると聞いているぞ。それを前払いの報酬とさせてくれ」


「いやいや、そうはいかないだろ! 戦利品なら尚更だ」


 私は何とか立ち上がって突き返す。

 こういう戦利品は山分けが鉄則だ。

 今回は裏ギルドの本拠地だから色々と厳しいだろうが、こういうのは話し合わないと後で揉める。


「他のギルドや冒険者達に話はしたのか?」


「今しているらしいぞ? 私がこれを君に渡すと言ったらクロノギルド長達は賛成して、他の冒険者も君ならばとな。残った者達も時間の問題だ」


「だが――」


「それに、君が戦ったからも伝言があった様だぞ。我々の包囲を被害も出さずに突破した傭兵だ」


 あぁ、きっとキルグだな。

 しかし彼が何を言ったんだ? 仮にも敵だったんだが。


「彼はこう言っていたらしい。――『ダンジョンマスターに投資しとけよ。奴は俺に勝った冒険者なんだからな』とな」


「負けたのに凄い言い草だな」


 やれやれだ。今後、傭兵達にも睨まれないと良いんだが。


「それで、受け取ってもらえないか?」


「だが品物が品物だ……まだ決心が」


「受け取って頂けませんか?」


 不意に私達以外の声が入ってくる。

 声の方を見ると、それはエルフ族の彼女達だった。


「エルフ族の……先程はありがとうございました」


「……。私の名です。そう御呼び下さい。あなた様達は我等の恩人。これでエルフの苦しみは和らぎ、宝具も取り戻せました。心からの感謝を」


 余程の物だったんだね。

 あのエルフ族から、ここまでお礼を言われるなんて。


 しかも名前まで。彼女達エルフは、王族や、その場のリーダーの名前等は心許した物にしか教えないと聞く。


 どうやら、私達は彼女達に気にって貰えた様だ。

 

 だがこれは、あくまでも人間同士の自業自得な面もある。

 なんだか申し訳ない気持ちの方が強いな。 


「その感謝を受け取るのは……グアラも私達と同じ人間族です。なのに、エルフ族の――ルナリア殿達から礼を言われるのは違う気が」


「いえ、これで良いのです。エルフにも悪しき者がいる様に、人にも同じ悪しき者が……そして逆に良き者もいる。そして、あなた方は良き者。――ですが、今の私達には渡せるものがなく、せめてもの戦利品『グラビウス』を、あなた様に」


 そう言って彼女達の視線は私の握るアックスブレード――グラビウスに向かう。

 今回、最大の貢献者って事の報酬なのか。


「貰っちまえよセンセイ!」


「そうです! 誰も文句は言わせません!」


「俺は酒代とか貰えれば良いさ」


「師匠! 私のギルドからも反論はありませんでした!」


 ミア達も騒ぎを聞きつけて来たか。

 だがクロノ。ギルド長のお前が言ったら、皆もそう言うだろうに。


「簡単に言ってくれる。今更、慣れてない武器を貰って……あっ、そうか!」


 あの手があった。

 慣れてないのもあって、宝の持ち腐れを心配したが第三スキル『道具合成』なら。


 私は手を翳してガントレット・ブレードとグラビウスを合わせ、スキルで合成してみる。

 すると、一瞬だけ光るとグラビウスは消えた。

 残ったのは、少し形状と模様が変わった長年の相棒――ガントレット・ブレード。


 何となく分かるぞ。

 私は少し握りって魔力を込めると、今までは存在しなかった両腕の側面にアックス刃が飛び出した。

 そして誰もいない瓦礫に手を向けると、重力の魔法が放たれた瓦礫が砕けた。


「おぉ! なんかすっげぇなセンセイ!!」


「流石はルイス殿! スキルをそう使うとは!」


 ミアとエリアは持ち上げ過ぎだ。

 しかし、この歳で新たな力を得るとはね。


「まだまだ引退できそうにないかな……」


「勿論、師匠にはまだ教えて欲しい事がありますからね」


 厳しい弟子だ。もう弟子達も自立して成功しているんだから、私を休ませてくれ。


 私はクロノ達にそう言われながら静かに溜息を吐き、綺麗な青空を眺めて現実逃避するのだった。



♦♦♦♦♦♦


 ルイス達がデーモンゴーレムを倒し、そんなやり取りをしている頃。

 崩壊した魔葬砦から、残党などを騎士達や冒険者達が制圧する光景を、離れた木々の上から見ていた者がいた。


「グアラはしくじったか……エルフの宝具は奪還され、魔剣も失った。希少なデーモンゴーレムまでも」


 その声は男の声だった。

 古代文字が刻まれた神秘的なフードを纏い、顔を隠す男は独り言の様に、けれど誰かに聞かせるかの様に言葉を続けた。


「運良ければ真に悪魔を召喚できたであろうに、やはりグアラめ。奴はもう駄目だったか。だがその程度は予想の範囲――所詮は我等が『始高天しこうてん』の雑兵係。己の真なる役目を終えただけ、奴は幸せだろう」


 そう言いながら男は、ゆっくりと屋上の方を見る。

 本来ならば見える距離ではない。

 しかし、男は間近で見ているかの様に反応をする。


「騎士団長にオリハルコン級ギルド長達、そしてエルフ族……否、貴様等ではない。お前だな――『ダンジョンマスター』よ。あぁ……近いうちに会いたいなぁ」


 そう言い残し、男は風に溶ける様に姿を消した。

 そして当然ながら、その事にルイス達が気付く事はなかった。

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